アイデアのロスを減らしたい。その想いが1本のワインにつながった話。
僕は広告会社でプランナーとして働いている。
「プランナー」と名乗るくらいなので、プラン(案)を考えるのが仕事だ。
仕事の過程では、たくさんのプランを考える。
だが当然、採用に至るのは1案。
たとえ100案考えても、採用されるのは1案だ。
採用されなかった99案はゴミ箱行きで、日の目を見ることはない。
不採用になった案は言わば「アイデアロス」だ。
その中には、まだ十分に使えるアイデアもある。
相手が違えば、
時期が違えば、
そのアイデアは採用に至ったかもしれない。
しかし広告の世界において、同じアイデアを二度出すことや、同じアイデアを違う相手に提案することはタブー視されている。
だったら、プライベートでやってみよう。
そんな姿勢が、ある1本のワインにつながった。
今日はそんな話。
■アイデアを成仏させるつもりで書いたnote
話は2年前に遡る。
僕は新築で建てる戸建ての1階をテナントにして、酒屋を誘致しようとしていた。
運良くGINZA SIX にも店を構える「IMADEYA」という酒屋さんが話に乗ってくれたが、店のコンセプトで躓いた。
なんとか誘致したい僕は、たくさんのアイデアを出した。
その時の経緯は、このnoteにまとまっている。
結果的に採用されたのは「100本しか置けないくらい狭い」という店の短所を「はじめの100本」というビギナー向けのコンセプトに昇華したアイデアだった。
しかし例によって、その過程では多くのアイデアロスも生まれていた。
僕が先ほどの記事を書いたの理由の1つには、そんなアイデアロスを成仏させる意味もあった。
本来は日の目を見るがハズがなかったアイデアだけど、こういう形でなら出してもいいだろう。そんな気持ちでボツ案も公開した。
結果的に記事は話題になり、ゴミ箱行きになったアイデアたちも報われた気がした。
こうしてお店がオープンして、1周年を迎えたある日。
アイデアのゴミ箱に一筋の光が差し込んだ。
■まだ名前のないお酒
ゴミ箱を照らしたのは、IMADEYAの専務だった。
うちの1階に出店を決めたIMADEYAの専務である小倉あづささんは、出店の頃から僕のアイデアに付き合ってくれた方で、日本ワインの専門家としても活躍している。
そんな彼女から突然連絡があった。少し興奮した様子だった。
アレのことだ。
僕はすぐにピンと来た。
彼女が言っていたのは、ゴミ箱行きになったアイデアの1つ「名前のない酒店」のことだった。
このアイデアは、先ほどの記事にも登場するもので「まだ世に出ていないから、ビギナーも熟練者も同じ目線で楽しめる」というコンセプトだ。
そもそもこれも、彼女が当時言っていた「実験的に造られるお酒は意外とある」という話から着想したものだったが、「それで100本揃えるのは流石に難しいか…」という判断でゴミ箱行きとなっていた。
しかし今回は店のコンセプトじゃなくて、商品のコンセプトだ。まずは1本、好評なら増やしていけばいい。
「やりましょう!考えさせてください」
そう言って僕は、ゴミ箱からアイデアを引っ張り出した。(正確には、当時のパワポのフォルダを漁りだした)
■まだ名前のないお酒"Who"
よく考えれば、もうお店は誘致できたわけだし、もう僕がアイデアを考える必要はなかったのかもしれない。
しかしプランナーにとって、捨てられたアイデアが復活するなんて、これほど喜ばしいことはない。
僕はまた勝手に考えて、勝手に提案をはじめた。
さて、ここからは例のボツ案シリーズ。今回ボツになったネーミングはこちら。
そのお酒は、まだ実験的に造っただけなので生産数が少ない。わずか数百本だ。
音楽で言えばインディーズのような存在だった。
まだ何者でもないけど、いつかメジャーデビューするかもしれない。その過程をみんなで見守ってほしい。そんな思いを専務はお酒に込めたいと考えていた。
決定案は、"Who"となった。
生まれたての赤子に対して「あなたは誰?」と話しかけるような感覚で楽しむお酒。IMADEYAにとって、新たなシリーズの誕生だった。
まだインディーズだから、ラベルはなし。
IMADEYAの包装紙で包んだら、"Who"というネーミングと、謎めいたロゴが妙にマッチしていた。
飲んでくれた人のレビューを参考にしながら、みんなで育てるお酒。
その様は昨今のオーディション番組に近い構造かもしれない。
そんな新シリーズ"Who"から、あなたの「推しワイン」が生まれる日も、そう遠くないかもしれない。