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海外ファンはマンガ工房を覗きたい。=ドイツ編

クリエーターの海外進出といっても何をしたらよいのでしょうか?クールジャパンと言われて久しいですが、具体的に「何が求められているのか/できるのか」という点についてはまだまだあまり知られていないかもしれません。今回は、ドイツのマンガファンが集まるイベントでの事例を取り上げて、考えてみたいと思います。

先にお断りしておきたいのですが、今から紹介するケースは筆者も協力したものです。つまり、客観的な分析というよりも、主観的な投稿となります。

日本国内の状況

日経新聞によると、日本政府はクリエーターの海外進出に向けて新たな支援プログラムを検討しているようです。(2024年2月13日付)

昨年2023年に設立されたアニメ分野の業界団体「日本アニメフィルム文化連盟」(NAFCA)は、政府に宛てたパプリックコメントの中で、「(4)海外売上強化のための施策」として「アニメ業界従事者を積極的に海外に派遣すること」を提言しています。(2024年2月11日付)

どうやら、クリエーターの海外進出を支援する機運が高まりつつあるのかもしれません。

ドイツのイベントに参加したマンガ家、奈樫マユミさんの場合

奈樫マユミさんは現在、サイコミで『この裏アカ、先生でしょ?』を週刊連載していますが、数年前からドイツで暮らしています。名誉ゲストとして、2023年6月にシュパイヤーで開催された日本の伝統文化とポップカルチャーを紹介するイベント「NonkiCon」(ノンキコン)に参加しました。(ノンキコンについては過去の投稿も参考にしてみてください。)

商業マンガ家が海外のイベントに呼ばれると、ステージでトークやライブドローイングを実施したりサイン会を行うのが一般的です。

奈樫マユミさんもライブドローイングを実施しましたが、ステージではなく展示・物販を兼ねたブースで行いました。まずは写真を御覧ください。

ブースで原稿のペン入れ作業を行う奈樫マユミさん(写真:sakaikataho)

ライブドローイングは2日間の会期中に1日2回、各1時間実施しました。その模様はプロジェクターを使用して壁にも投影し、少し離れた場所から見られるようになっています。ブースの右側では、オリジナルグッズや1点物のイラスト作品が販売され、背後の掲示板にはこれまでの作品と制作プロセスが紹介されています。

奈樫マユミさんは週刊連載で多忙のため、ライブドローイングでは実際の原稿作業を行っています。

とにかく「手が早い」。下書きの清書はデジタル(左)、トレス台でペン入れ(右)(写真:sakaikataho)

また、ブースでは助言セッション(1日1回1時間)を設け、現地のクリエーターにより持ち込まれた作品に対して、奈樫マユミさんがアドバイスしました。

アドバイスは描いて教えるスタイル(写真:sakaikataho)

実は、奈樫マユミさんは京都精華大学でマンガ制作を学びました。日本のマンガ界の諸先輩たちから技術を学んだこともあるためか、作品の課題を的確に指摘し改善案を示す様子はさすがプロだなと感心しました。

マンガ工房の覗き見型ブース企画とは?

仮に、このブース企画をマンガ工房の覗き見型と名付けてみます。覗き見型なら、作家は説明する必要はなく、普段の仕事をしてもらうだけです。しかも、作業している原稿はイベント用ではなく出版社に納品する本番です。プロの仕事を現場の緊張感とともに、体験してもらうことができます。なるくべ、話しかけないように注意していました。来場者は、気になったら足を止めてしばらく眺めます。興味を持ったら展示物を読んでもらえばよいので、作家に話掛ける必要はありません。これはアドバイス・セッションも同様に描いて教えるので、外国語による細かい説明は不要です。

空き時間もブースでネーム作りに打ちこむ様子を「覗き見」できました。(写真:sakaikataho)

マンガ家は仕事風景が最良のパフォーマンスに

実は背景には海外マンガイベントによくある固有の事情があります。主催者は名誉ゲストに参加してもらうことで、集客への貢献に期待します。ただし、集客の見込める企画案は基本的に存在しません。むしろ、現地の事情を知らない日本側から提案を求められることもあります。
ステージ企画を考えるのはそもそもクリエーターの本業ではないので、結果、無難なプログラムに落ち着きます。ただし、ステージでのワークショップでは高度な通訳者が必要となり、コストがかかります。一定額の予算が確保されているのが実施条件になります。また、ライブドローイングも黙々と作業しているだけだと退屈になっています。そもそも、イベントは同時進行でプログラムが展開するので、来場者は可能な限りあちこちの催しを見て回りたいのです。

マンガ文化を伝える方法とは?

今回は以上です。覗き見型が最強の企画だと主張するつもりはありません。ステージ企画は台本も必要だし、通訳だけでなく司会者も用意しないといけません。かといって、ブース参加に限定しグッズや作品を販売するだけでは、作品の魅力やそもそも文化を紹介するには物足りなさも感じます。

クリエーターの海外進出はとても良いことだと思います。一方で、現場の事例を報告したり、広く集めて共有したりすることも、現地で躓かないために必要なのかもしれません。皆さんはどう思いますか?


タイトル画像:NonkiConでマンガ原稿にペン入れをする奈樫マユミさん(写真撮影:sakaikataho)
協力:
奈樫マユミさん

NonkiCon実行委員会


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