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これからは働き方・働く場所・働く時間を「自分で選べる」かどうかに注目していきたい。(横石崇氏出演 働き方innovation #03 イベントレポート)

日経COMEMOが主催する「働き方innovation」イベント。大好評だった第1回、第2回を受けて、10月から定期開催になりました。

今回のテーマは「テレワーク」。国内最大級の働き方イベント「Tokyo Work Design Week」のオーガナイザーである横石崇さんをゲストに迎え、働き方について30年以上取材を続ける日本経済新聞社の石塚由紀夫編集委員がファシリテーターを務め「働き方innovation テレワークのハードルをどう乗り越えるか」を10月13日(火)に開催しました。

■ハイライト動画

■はじめに

ー石塚編集委員
このイベントは、日本経済新聞朝刊に隔週火曜日で掲載される「働き方イノベーション面」との連動企画として掲載日の夜に開催していますが、本日の紙面は損保ジャパンのコールセンターがテレワークを導入し、そこでどのような工夫がなされているかを紹介した記事でした。

コロナ禍でテレワークを実施する会社が増え、国の調査では、働く人の3人に1人がテレワークを経験し、その中にはこのままテレワークを継続したいという希望をもっている人は多い状況です。その反面「テレワークで仕事が効率的にできたか?」という質問には、約6割の人が「生産性が下がった」と答えています。

この先、コロナに関わらず私たちは新しい働き方として「テレワーク」について考えていかなければなりませんが、そのためのハードルは何で、どう乗り越えていけばいいのか、本日は議論していきたいと思います。

最初に、参加者の皆さんのご意見を聞いてみましょう。

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ー横石さん
思ったより「自宅の環境」の方が多いですね。我が家は照明を改良しました。自分の働く部屋がなかったので、物置小屋のような場所を改造して、棚の上にパソコンが置けるようにもしました。

ー石塚編集委員
厚生労働省が「テレワークガイドライン」というものを出していますが、それを見ると十分な広さや照明の明るさ、エアコンや空調設備が整っていることなどを挙げていて、普通の家では条件を満たすことがなかなか難しいものだと思います。

ー横石さん
次に多いのが「上司や取引先の関係」ですが、これは自分だけの問題ではないということですよね。組織のガイドラインや方針のようなこともありますから。石塚さんはコロナ禍のリモートワークで、上司に振り回されるようなことはありませんでしたか?

ー石塚編集委員
それはありませんでしたが、逆に誰も相手にしてくれなくて「孤独感」のようなものを感じていました。放っておかれることに「大丈夫かな」「忘れられていないかな」と、少しストレスを感じました。それから、私は年代的にITリテラシーが低いですから、誰もフォローしてくれない状況で最初の1、2ヶ月は慣れずに苦労しました。

ー横石さん
今年から大学で教えているのですが、学生たちは、ITリテラシーは高いと思いますがパソコンに慣れていません。スマホで授業に参加する学生が多かったので、チャットが短文になりがちでキーワードレベルでのやり取りになってしまいました。年代を問わず、ITリテラシーをどう上げていくかは、おそらくこれからのテーマになりそうです。

■先行して開催された【投稿募集企画】に集まった意見とは?

ー石塚編集委員
日経COMEMOでは、今日のイベントと同じテーマで皆様からご意見を寄せていただく投稿募集企画を先行して開催していました。集まった意見を見ていきましょう。

▼テレワークで最後まで残ったハードルは時差

ー横石さん
「時差が最後までハードルだったと思う」という意見がありましたが、これは海外とやり取りをしている人には感じた方が多かったのではないでしょうか。

僕はそこから、経度が同じ国とは相性が良く、仕事がしやすいのかもしれないと考えたりもしました。例えば、日本とオーストラリアとパプアニューギニアなどです。これからは時間に対して意図をもって働くことが大事になると思います。

ー石塚編集委員
日本の場合は労働法制上、22時から翌朝の5時までは深夜労働扱いで規制がかかりますから、時差のある地域とのやり取りはなかなか難しいです。時間で管理しなければならない日本の働き方は、これから先の働き方には馴染まないような気もします。

▼YouTuberの「リアクション動画」を仕事に取り入れたら、会議の暗黙知が言語化された。

ー横石さん
それから新人の教育について。新人を担当している方はリモートワークで皆さん困っている様子でした。今までは、待ち時間や移動時間でフィードバックできましたが、リモートになった途端にそれができなくなってしまい、頭を悩ませている問題になっていたと思います。録画した会議動画を一緒に見る「リアクション動画」という方法を取り入れる提案をしている投稿もありましたね。

ー石塚編集委員
この投稿は、環境が変わって今までのやり方が馴染まなくなったことで、その変化をうまく利用して、むしろ新人教育にプラスにしていこうという考え方でした。今の環境に最適な方法を、知恵を絞って選んでいくことで、さらに効率的に働くことを目指せると、この事例からわかりました。

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■横石さんのテレワークのハードル

ー石塚編集委員
横石さんご自身もこのテーマで投稿されていますが、改めて、何がテレワークの一番のハードルだと思いますか?

▼「家だと仕事をさぼるのではないか」「セキュリティを守れないのではないか」「会社の文化が壊されるのではないか」「顧客対応が疎かになるのではないか」問題にこたえる #テレワークのハードル

ー横石さん
「テレワークのハードル」と聞いて思い浮かんだことが3つありました。1つ目は人事制度や就労制度。2つ目はインフラやセキュリティ。そして3つ目が、投稿に書いた「人の気持ちのハードル」です。固定概念やこれまでの成功体験に縛られて、テレワークに踏み切れない人が結構いたように思いました。

【参加者からのコメント】
コロナより前に在宅勤務を徹底したGoogle社が、出社のほうが生産性が高いと結論を出したことは一考に値すると思います。

ー横石さん
アメリカでYahooやIBMが10年前くらいにリモートワークを試していましたが、うまくいかないということで諦めていました。イノベーションを生み出すためには、みんなが同じ場所に1分1秒でも長く集まって身を置くこと必要がある。ここ数年でGAFAの人たちは、価値を生むためにはそれが必要だと気づいた、ということがあったわけです。

それがコロナになってこれからどうすればいいか、それらの会社も何かしらの方針を打ち出してはいますが、軌道修正しながら進めているという感じだと思います。

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■新しい働き方に対して「自分で選ぶ」ことを考える

【参加者からのコメント】
「孤独感」への対応と「成果管理」のバランスが難しいです。

【参加者からのコメント】
在宅ワークで働き過ぎの人が続出した。

ー石塚編集委員
とある大企業では「働き方改革」で残業を削減していたのに、コロナ禍の在宅勤務中に、調べてみたら社員の勤務時間が延びていたことがわかって、対策をしなければならないということになったそうです。

ー横石さん
昨年の秋、Googleの本社に行きました。とんでもなく広い工場の跡地をリノベーションした場所にオフィスがあるのですが、そこに「You are not alone.」と書かれた貼り紙がしてありました。

アスリートのような働き方をしている人たちにとって、一番の敵が「alone (=孤独)」」ということです。孤独感からくる不安を感じている人は、相当数いるのではないかと思います。

ー石塚編集委員
私自身の話になりますが、孤独感から、周りの人に「ちゃんと働いていないのでは?」と思われていないかと不安で、「頑張ってます!」アピールをしようと逆に仕事を入れすぎてしまうということも起きました。

【参加者からのコメント】
コロナで就労時間が伸びた理由は何なのでしょうか?

ー横石さん
僕も今年はずっと仕事をしているなという感覚です。勤務時間がなくなって仕事をいくらでもやれてしまう環境になった分、のめり込んでしまうこともあると思います。一方で、つまらない仕事も増えたような気がしています。

【参加者からのコメント】
就労時間を増やせないのに残業を減らせのプレッシャーがすごいです。

ー石塚編集委員
多くの企業は、コロナ禍で「就労時間が減った」と言っています。しかし、家で働いていると仕事の時間と生活の時間は曖昧になりますから、会社側が把握できていないところで長時間労働が起こっている可能性はあると思います。

そもそも、日本の労働法制は「時間管理式」なので、仕事の時間と生活の時間がしっかりと切り分けられない働き方には対応できないところがあります。今は、個人で管理できないと、働き過ぎのようなことも出てきてしまうと思います。

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ー横石さん
石塚さんにぜひお聞きしたいことがあるのですが、今、いろいろな企業が「ジョブ型雇用」にチャレンジしていますが、ジョブ型へのシフトは有効だと思いますか?

ー石塚編集委員
これから先の進むべき方向だとは思います。しかし、それを実現していくためには法制度も含めて様々なハードルがありますし、今の急激なジョブ型への流れを見ていると、「本当に必要なの?」「成果主義でいいのでは?」と思うこともあります。無理してジョブ型を取り入れるのは、違うように思います。

【参加者からのコメント】
成果主義とジョブ型の違いがわかりづらいです。

ー石塚編集委員
似通った部分はありますが、ジョブ型雇用は「解雇できる」という仕組みとセットでないと難しいところがあります。アメリカでは会社にその「ジョブ」がなくなればその人を解雇しますが、日本は法律の問題で簡単には解雇できません。

そして、ジョブ型は「働く側が仕事を選べる」ことが原則です。今、日本で起こっているジョブ型を成果主義と混同している場合の問題点は、働く側のやりたい仕事に会社側が応えるのではなく、会社側がその人の役割を一方的に決めて異動の権限なども握っている状態でやろうとしていることです。それは成果主義でできることです。

ー横石さん
それはすごく大きな誤解をしているところがありそうですね。日本マイクロソフトが週休3日・週勤4日制を早々に打ち出していましたが、そのときに一番注意したのが、会社が週休3日制を押し付けるのではなく従業員が主体的にそれを選べるか、だったそうです。

みずほ銀行の週休3日制の導入が話題になっていますが、もし「組織の都合で週休3日をとらされる」状況になるというならば話が違いますよね。

今回のテレワークで多くの人が気づいたことは、ある種の「自立」だったのではないかと思います。会社にすべてを委ねるのではなく、自分で考えて自分で行動することを迫られた。そう考えると、いい機会をもらったとも思えます。

ー石塚編集委員
少し厳しい見方かもしれませんが、会社に守られて生きていくことを、働く側もそろそろ捨てなければならないのかもしれません。例えば、コロナ禍で在宅勤務になり通勤時間が節約できたなら、その時間を自分の10年後に投資するなど。

会社の業績悪化で副業解禁という流れもありますが、それは目先の減収を補填することはできても、将来的に働いていけることを保証してはくれません。これからは、新しい働き方に覚悟して臨んでいかなければならないのではないでしょうか。

ー横石さん
会社の寿命は平均30年と言われていて、生きている時間のほうが圧倒的に長いわけですから、1つの会社に自分を委ねる働き方は、現実的ではなくなると思います。

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■まとめ

ー石塚編集委員
最後に「テレワークのハードルをどう乗り越えるか」について、横石さんからまとめの言葉をいただきたいと思います。

ー横石さん
テレワークのハードルは越えていかなければなりません。エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たち、どうしてもテレワークができない人がいることは前提ですが、働き方・働く場所・働く時間といったことを「自分たちで選べる」ということがこれからは大事だと思います。それは組織としても、個人レベルでも、今後求められていくことだと思います。

■イベント中、参加者の方からたくさんのコメントがチャットに寄せられました!(※一部をご紹介)

・濃いブレストをするために出社している
・テレワークの人は無駄な電話対応が減り効率が上がり、社内勤務の人は電話対応が増えて効率が上がらなかった
・チャットタイムを設けてお互いにいろいろと教え合った
・PCの電源を何時にONにして、何の作業をして、何時にOFFにしたのかなど、働き過ぎを防止するための対策が大変だった
・音声のみの会議では合意してうなずいていても伝わらない
・「顔色を伺う」に変わるテクノロジーがほしい
・今年の夏はオリンピックで都内の企業はテレワークする予定だった、実際にどれくらいの企業がテレワークの事前対策をしていたのか?
・ヒエラルキーが対面よりも崩れる
・労働者の労働時間に対する認識は個人差が大きい
・無理なことについて考えることでイノベーション生まれそう
・業務の細分化はテレワークだけでなく生産性を高めるためにも必要
・終電を気にせず何時間でも仕事ができてしまう
・一人暮らしの場合、誰も止めてくれないので働き過ぎる傾向がある
・クリエイティブなことは通勤電車の中でやっていた気がする
・かつての移動時間も働いている
・会社にいるだけで働いてると勘違いしている人には在宅勤務させたほうがいい
・アウトプットが明確にならないのでジョブ型でないとテレワークは機能しないと思う
・週休3日にしてその時間で学校に通って学び直ししたい
・60歳からビジネスをやりたいので自分への投資の時間をもちたい
・リモートワークが当たり前になると、個人の行動力の差が顕著になると思う

■登壇者プロフィール

横石崇さん
&Co.,Ltd.代表取締役
Tokyo Work Design Weekオーガナイザー

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1978年、大阪市生まれ。多摩美術大学卒業。広告代理店、人材コンサルティング会社を経て、2016年に&Co., Ltd.を設立。ブランド開発や組織開発をはじめ、テレビ局、新聞社、出版社などとメディアサービスを手がけるプロジェクトプロデューサー。また、「六本木未来大学」アフタークラス講師を務めるなど、年間100以上の講演やワークショップを行う。毎年11月に開催している、国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では、6年間でのべ3万人を動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。著書に『自己紹介2.0』(KADOKAWA)、『これからの僕らの働き方』(早川書房)がある。


石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員

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1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。


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