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アフターコロナの社会に登場する無人店舗の方向性と採算

新型コロナの感染拡大により、世界では実店舗が無人でサービスを提供するテクノロージーの導入が進んでいる。これは、人材不足によって時給相場が高騰している2016年頃から見られる動きだが、パンデミックによって普及のスピードが加速していくことは間違いなさそうだ。

店内オペレーションを自動化する取り組みとしては、日本では大手スーパーチェーンがセルフレジの導入を進めている。日本スーパーマーケット協会の「スーパーマーケット年次統計調査(平成30年)」によれば、全国のスーパーで、顧客自身が商品の精算を行えるセルフレジを導入している店舗は15%という状況。ただし、商品のスキャンまでは店員が行い、代金の支払いを、レジ横に設置された精算機で行う方式のセミセルフレジは、導入率が54.6%で、前年度の調査より12%も伸びている。

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しかし、セルフレジの導入で最も大きな欠点として指摘されるのが、「万引きの増加」である。英国の小売店向けクーポン発行会社「Voucher Codes Pro」が2,634人の買い物客を対象に行ったアンケート調査によると、セルフスキャン方式のレジで不正をした経験がある者は「5人に1人(20%)」という結果が出ている。

彼らの大半は、万引きをしたという罪悪感は低く、セルフレジがどこまで正確に精算できるのかを試す、ゲーム感覚で行われている。たとえば、1ポンド(453g)あたり14ドルの高価なステーキ肉の価格ラベルを、 1ポンドあたり0.5ドル程度の安価なバナナのラベルに張り替えてレジを通すことは「バナナトリック」と呼ばれている。

オーストラリアでセルフレジを導入しているスーパーでも、購買履歴を調べると1人の顧客が18袋ものニンジンをスキャンしていることが判明した。これは、チェリーやブドウなどの、高価で軽量な商品を精算する際に、安価なニンジンとしてスキャンさせたものである。

野菜や果物などの生鮮品は、商品がパッケージ化されてていないため、セルフレジによる精算では最も不正率が高い。不正なスキャンに一度成功すると、同じ方法が繰り返される傾向が強く、そのノウハウが全国的にも広がりやすい。こうしたセルフレジの不正者は「Swipers(スワイパー)」と呼ばれ、新たな社会問題になっている。

セルフレジの精算方法には、顧客自身が商品のバーコードをスキャンする方式と、商品にRFIDタグを付けて自動認識させる方式の2種類があるが、いずれも弱点はあるため、有人レジと比較すると不正率は高くなる。そこに向けては、新たなテクノロジーで挑むベンチャー企業も登場してきている。

オーストラリアのメルボルンで創業した「Black.ai」が開発したのは、スーパーの天井に複数の3Dセンサーを取り付けて、デジタルマッピングされた店舗内の状態をAIがリアルタイムで監視するシステムである。この技術では、顧客毎にバーチャルなカートを設定して、店内でどの商品をピックアップしてレジまで保持しているのかを追跡することができる。パッケージ化されていない生鮮品の品目までを検出できるため、セルフレジでの不正行為を見破ることができる。

顧客の動作をトラッキングしたデータは、商品の陳列状況(棚割)を変更して客単価を向上させるなど、マーケティングにも活用することが可能だ。

Black.aiのテクノロジーに対しては、アマゾンのAIアシスタント「Alexa」の開発者グループから120万ドルの資金が出資されており、今後はアマゾンが普及を進める無人店舗「AmazonGO」の主要テクノロジーとして採用される可能性もある。

大手のスーパーチェーンでは、このようなセルフレジの導入を「従業員数を削減する目的」ではなく、これまでレジを担当していた店員を、他の非接触サービスに配置転換することで、客単価を引き上げたいと考えている。店舗の自動化は、機械と人間とが分担して行う仕事の役割を再構築するものであり、単に省力化のためだけに導入するのであれば、設備投資に対するリターンは低いものになってしまう。

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