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【日経COMEMOテーマ企画】米国から見る2020年注目のHRの動向(後編)

(前編はこちら)

➄柔軟性が、優れた従業員を惹きつけ、維持する助けとなる

朝9時に出社し、夜までオフィスにこもって働く。このようなワークスタイルは、日本でも変わりつつある。フレックス制とテレワークは、多くの企業に浸透している。それでも、東京の通勤ラッシュのひどさは変わらないが、人事制度として変化が生まれてきている。

しかし、フレックス制とテレワークはなぜ必要なのだろうか。子持ちの女性が働きやすくなるようにして、女性活躍推進を後押しするためだろうか。

近年、グローバル市場で優れた競争優位を発揮し、急速に成長している企業を見てみると、フレックス制やテレワークのような柔軟な働き方は、優れた従業員を惹きつけ、彼ら・彼女らの持つ創造性やポテンシャルを100%引き出すためであることがわかる。そのために、働き方の柔軟性は「遊ぶように働く環境」を作るために機能する。

また、「遊ぶように働く環境」を目的として働き方の柔軟性を求めると、よく議論されるような「テレワークで職場のコミュニケーションが減った」のようなことは起きない。なぜなら、職場は仕事をするための場ではなく、チームワークを育み、仲間意識を醸成するためのチームビルディングの場として再定義されるためだ。Googleやネットフリックスのような、シリコンバレーの企業では無料の食事サービスを従業員に提供しているが、これも従業員が来たくなるような職場環境を作り、チームビルディングに役立てるためにある。

⑥データと分析が、これまで以上に重要な戦略ツールとなる

企業や組織の中のデータを活用し、経営や事業活動に役立てるHRアナリシスも、欧米諸国に遅れはしたが日本にも浸透してきた。数多くのサービスやソフトウェアが提供され、ソフトバンクのような大企業では専門のデータ分析のチームを持つケースも増えてきた。

この傾向はこれまで以上に進むと考えられている。エッジコンピューティングのように、誰もが手元のスマホやノートパソコンでAIやデータ分析ツールを使うことができるようになると、現場レベルでも高度な経営判断やマネジメント手法を使うことが可能となる。例えば、ツールを使うことで、銀行の与信審査を営業が客先で即座に意思決定できるようになるだろう。

⑦政治的な誤った情報の普及が職場にまで拡がる

これまでは、組織の生産性を高め、競争力を高めるポジティブな要因について語られてきた。しかし、7つ目の予測はネガティブな要因だ。情報の透明性が高くなり、インターネットが普及する中で、フェイクニュースやデマ、流言飛語も蔓延しやすくなった。そして、それは政治的な思惑もあって流されることが少なくない。

昨年末、日本を震撼させたカルロス・ゴーン氏の逮捕騒動は、真相や全体像がよくわからないまま様々な憶測や情報が飛び交った。何が真実で、正しい情報なのか判断することは難しい。ただ、騒動が起きたことで個人や企業が被る損害は莫大なものになる。何が真実かわからないまま、大きく拡がる騒動に対して、企業が抱えるリスクは大きくなるだろう。

⑧多くの企業が、同僚の成功に投資する従業員を奨励する

スーパー営業マンが個人の能力で好業績を出す世界は終わろうとしている。優れた業績やイノベーションは、個人のパフォーマンスではなく、チームや集団の力を結集した結果として生み出されることが増えてきた。

ハーバード大学のリンダ・ヒル教授が「集合的天才(Collective genius)」と呼称する、優れた業績を生みだすチームでは、リーダーがチームを牽引するのではない。リーダーは、メンバーが自由に意思決定し、個人の能力を100%以上に発揮できるように環境を作り上げる。そして、同僚も自分の業績を上げることに固執するのではなく、チーム全体でのパフォーマンスを高めるために、同僚の活動や成長を手助けする。


まとめ

8つの予測を見てみると、日本でもそのまま当てはまりそうなものもあれば、難しそうなものもあることがわかる。しかし、ここから3つの世界的なHRのトレンドが読み取れる。

第1に、雇用主と従業員の関係性の変化だ。両者の関係は、これまでは「使用者」と「被使用者」という絶対的な上下関係にあった。しかし、この関係性がフラットなものに変化し、従業員の働きぶりや働き方を管理するようなマネジメントが過去のものになろうとしている。

第2に、企業は社内情報を隠すことができないということだ。企業が社会とどのようなスタンスで関わっていくのかという態度や、従業員の扱い方や関係性はインターネットによってオープンになっている。そのため、優れたCSRや働き方施策を取る企業には優れた人材が集い、努力を怠ったり、不正を働いたりした企業には人材も集まらなければ、市場からも受け入れられない。

第3に、個人のパフォーマンスよりも、チームとしてのパフォーマンスが重視される。特に、テクノロジーの発展がこのまま進み、個人で帰結する業務やタスクは自働化されていくと、個人パフォーマンスそのものが求められない世界が来かねない。すると、マネジャーの役割はタスクや業績管理よりも、チームビルディングやメンバーの成長を後押しする教育者としての性格が強くなるだろう。

HRの在り方は、この10年で激変している。すぐにクビを切り、丁寧な人材育成をしないイメージの強かった米国企業も変化し、人材育成をHRの軸に据えた企業も増えてきている。2020年は、日本企業のHRも変化が求められることになるだろう。

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