【日経COMEMOテーマ企画】米国から見る2020年注目のHRの動向(前編)
年の瀬も差し迫り、2019年も終わろうとしている。多くの方が、仕事納めも終わって、年末の休暇を楽しんでいるのではなかろうか。今日は、新年を先取りして、日経COMEMOのテーマ企画「2020年、注目のビジネス」について、HR(人事)や人材マネジメントの観点から考えてみたい。
年末になると、様々なところで「来年はこれがくる!」という予測をしている。HRの2020年予測では、フォーブスが米国企業の動向を踏まえつつ、下記のような記事を紹介している。
フォーブスの記事で紹介している8つの予測をベースとして、日本企業に当てはめた場合について考えていきたい。
① 雇用主は、全従業員の職場の権利を保証しなくてはいけない
日本でも、働き方改革に代表されるように従業員個人の生活の質を向上させる取り組みが推奨されている。このような傾向は、日本だけではなく、世界的なトレンドである。特に、米国では「ビジネスの社会貢献」「所得の公平性」「ダイバーシティ」「環境への配慮」が重視される傾向にあり、個人の働き方レベルにまで落とし込むように進められている。
② 企業の社会的責任(CSR)が不可欠になる
企業の社会的責任とは、企業が利益を追求するだけではなく、組織活動が社会に及ぼす影響にも責任を持ち、事業に関連するすべての利害関係者(ステークホルダー)からの要望や要求に対して、適切な意思決定を下し、運営していく企業(経営者)の責任を指す。決して、植林をすることや恵まれない子供へ募金することといった、企業の社会貢献のことを指すのではない。
これまで、企業の社会的責任というと、大企業や経営に余裕のある企業が行う副次的な企業活動と捉えられることが多かったのではないだろうか。しかし、近年、企業の社会的責任が企業の経営規模に関わらず、市場から重視されるようになってきている。このことは、インターネットによって、企業内部の情報を隠すことができなくなっており、社会的責任を果たしていない企業の商品やサービスを消費者や市場、機関投資家が忌避するようになってきたためだ。たとえ優れた商品やサービスを生み出す企業であったとしても、社会や利害関係者をないがしろにする企業は生き残ることができない。
③「従業員の体験(Employee Experience)」は拡大し、「人としての体験(Human Experience)」として昇華される
インターネットによる企業内の情報の透明化は、企業の社会的責任だけではなく、従業員への在り方にも影響を及ぼす。従業員が企業でどのような仕事に従事し、どのような価値のある経験を積むことができたのか、企業が情報をコントロールしようとしてもできなくなっている。また、もし情報をコントロールできたとしても、情報の透明性に欠けた企業には信用ができないと判断され、優秀な人材が集まらなくなる。
このように、従業員に対してどれだけ価値のある体験を積ませることができるのか、情報を明らかにし、提示することを「従業員価値提案(Employee Value Proposition)」と呼ぶ。HRの世界最大級のコミュニティである「Society for Human Resource Management」では、ここ数年、「従業員価値提案」を軸として人事戦略や人事施策を講じることがトレンドだ。
この国際的なトレンドに対して、多くの日本企業が予め従業員が経験する価値を提示することは不可能であるという姿勢をとっている。このことはある意味正しく、既存の人事システムの枠組みでは、ゼネラリストと長期雇用によるインセンティブが働くように設計されているため、無理に価値を算出し、提示することは難しい。ただ、難しいからできないと対策を何も講じなければ、日本のガラパゴス化が進むだけだ。
④雇用主と従業員は、エンゲージメントと生産性に対する責任を共有するようになる
昨年、大ヒットのビジネス書となったフレデリック・ラルーの『ティール組織』に代表されるように、雇用主と従業員の関係性はフラットなものに変化してきている。プロノイア・グループCEOのピヨートル氏が述べるように、従業員を管理するようなマネジメントは時代遅れとなりつつある。優れた競争優位性を持つ企業は、従業員や現場に徹底的に権限委譲し、現場レベルの事業体1つ1つが独立した経営者のように意思決定と行動する。
このような組織の在り方は、90年代後半にブラジルのセムコ社をはじめとした幾つかの企業で見られるようになり、リーマンショック後に爆発的に増えてきた。アウトドア用品のパタゴニアのような、欧米のグローバル企業や大企業でも見られるようになっている。残念ながら、日本の大企業ではこのような組織はまだ見られない。しかし、インターネット掲示板を運営するミクル株式会社をはじめとしたベンチャー企業を中心として、雇用主と従業員の関係性がフラットで、従業員一人一人が経営者のように働く企業が増えてきている。