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マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできる様にはならない〜その7〜

「マーケティングが出来る」とはどういうことか、の構造を考えるために始めた本記事。
ここまではマーケティングを下のスライドの様な四階層

に分け、「マーケティングができる」こととはどういうことなのか考えています。

第7回目となる本記事では、第三階層の「マーケのアプリ」のまとめとして、ブランドとは何か、それはどの様にしてできるのか、について考えたいと思います。

よく「ブランドとは「らしさ」である」という説明がされますよね。まずはこれについて考えていきたいと思います。

ちょっと思考実験をしてみましょう。

あなたの前に、カーテンがあり、その向こうに3人の人がいます。
そのうちの1人は、長年一緒に暮らしているパートナーで、残りは知らない人です。

あなたのミッションは、その3人と順番に普通の会話をして、何番目の人がパートナーか当てることです。

普通の会話、というのがミソであり、2人しか知らないこと話題にして、それを知っているかどうかで判断する、というのはNGです。

また、3人はヘリウムガスを吸っており、普段とは大分違った声になっています。

さて、あなたはズバリパートナーを当てることができるでしょうか?

・・・・考えるまでもなく、できますよね。
人の喋り方というのは、言葉の選び方、口ぐせ、しゃべるスピードや抑揚など、個性に満ちています。容姿・特殊な話題や声そのものに頼ることがなくても、それらを頼りにパートナー当ては容易に正解できるでしょう。

さらに言えば、パートナーほど近しい人でなくても、職場の同僚や友人だって、少し話したら結構な確度で当てられそうに思いますよね。

こう考えると、人というのは、一人ひとりが誠にその人らしく、そのらしさは周りによく伝わっている、と言えそうです。

これはどのようにして起きるのでしょうか?

このスライドは、左から右に読んでくださいね。
まず、あなた(に限らず人なら誰でも)には、持って生まれた性格や価値観があります。
そして、あなたは生きている毎時毎分、その性格や価値観に基づいて色々な意図を持ち、それらの意図に基づいて発言・行動します。

あなたの持つ意図や、意図に基づく言動は、とても一貫性を持っています。なぜならば、常にそのベースとして一定の性格や価値観があるからです。

次に、あなたの周りにいる人は、あなたの発言・行動に接触し、それらに反応するとともに、あなたがなぜそのように言ったり動いたりしたのか推察をし、その結論を得ることにより、あなたの考え方、内在論理を理解します。

あなたの周りの人は、あなたと出会うたびに、あなたの一定した性格・価値観に基づいているがゆえ、一貫性を持つ言動を目にします。

こういった作用が積み重なっていき、あなたは次第に周りに理解されていき、あなた「らしさ」が周りに理解される、という次第です。

ここでは、意図をもった言動に着目した流れを説明しましたが、無意識に発露している個性ももちろんあなた「らしさ」の一部であり、口癖やボディランゲージなども、日々の行動⇄観察の流れの中で、周りの中に蓄積していきます。

こう考えてみると、あなた「らしさ」が理解されることは、誰にも見ることのできないあなたの心(の中に格納されている性格や価値観)と、同じく誰にも見ることのできない、あなたの周りの人の心(の中にある、あなたに関する理解)がだんだん一致してくる、ということになります。なかなかに神秘的ですよね。

ここまでの話で、人の「らしさ」がどの様に伝わるか、というイメージが形成できたのではないか、と思います。ではこれが企業・ブランドだとどうでしょうか?

このスライドから、企業・ブランドの「らしさ」も、人の場合と相似系の流れで説明できることが、わかるのではないかと思います。
企業・ブランドは人間と違って、心がないので、性格や生得的な価値観はありません。
その代わり、自社が何を成し遂げたいか、や、どの様な企業でありたいか、を記述したものがあります。すなわちMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、ブランド価値規定、ブランドの約束といったものです。

そして左から順番に、企業・ブランドはこれらの要素に基づいて戦略立案→施策化・コミュニケーションという筋道を辿って、自社に関する様々なことを伝えていきます。

これに顧客は接触し、記憶し、そしてその心に企業に関する印象を刻むわけです。

顧客のが目にする、企業・ブランドからの発信は、それが常に同じ規範(=MVVやブランド価値規定など)に基づいているが故、非常に一貫性を持ちます。

これにより、一貫性を持つ印象がどんどん顧客の心に刻まれることになり、その企業・ブランド「らしさ」が一人ひとりの顧客の中で形成されるわけです。

この様に考えると、ブランディングというのは、企業のマーケターのPCに格納されている、言語で記述されたあるべき「らしさ」(=ブランド価値規定など)と、顧客の心の中にあるイメージを擦り合わせていく作業だ、ということになります。ブランドは、顧客の心にあるイメージの総体であり、ブランディングは、イメージの総体を望ましい方向に、ダイナミックに変えていくプロセスなのです。

「自社ブランドの名前を聞いたときに、どんなイメージを持ちますか」と言う質問に対して、顧客から上がってきた答えを全て記述したものが現在のブランド。

現在のブランドの中に存在する、あるべき「らしさ」とのギャップを埋めていくのがブランディング。

わかりやすく説明するために、もう一度人間の喩えに戻ってみましょう。

筆者の生得的な性格は、とても短気で理屈っぽいものです。
しかし、ある時からその性格に基づいて行動していると、人から苦手意識を持たれてしまい、世間が狭くなってしまうことに気づきました。

ので、それ以来、「ユーモラスでとっつきやすいデブ」というキャラクター設定でコミュニケーションをするように心がけており、周りの人からも大なり小なりその様に受け取っていただいてい(ることを祈ってい)ます。

この話を整理すると、

筆者元々のブランド:(性格のまま振舞っていたので)短期で理屈っぽい

だったところ、

筆者のブランド価値規定
:ユーモラスでとっつきやすいデブ

と言う設定をして、ブランディング(意識してこのキャラクターとして言動を続ける)した結果

筆者現在のブランド:時々小難しいことを言う、緩いデブ(多分)

となった、と言う感じです。

この考えを推し進めると、企業・ブランドの「らしさ」はいわゆるマーケティングコミュニケーションや製品のみが媒体になるのではなく、もっと広範なものにより伝わっていることがみてとれると思います。

この回に指摘したように、自社店舗があれば、店舗や店員は、非常に強力な媒体になります。そうでなくても、店頭での陳列状況、SNS上で一般の人が呟いていること、工場から倉庫に商品を運ぶトラック、自販機に商品を詰めるオペレータ、などなどなど、人間の場合に無意識な癖が「らしさ」を伝播するように、企業・ブランドの「らしさ」も多種多様なタッチポイントから伝わっていきます。

最後に、本日日経電子版で見つけた記事をご紹介したいと思います。

この記事では、ドンキホーテ、ワークマン、サイゼリアがインフレ環境でも価格据え置きキャンペーンを展開していることを報じています。
ドンキ、ワークマン、サイゼリアはそれぞれのマーケットで独自のポジション・ブランドを確立していますが、その構成要素の一部に低価格であることがあります。
インフレ化だからと言って、他企業に同調してしまうと、一貫性が薄れ「らしさ」が揺らいでしまうので、「世の中の値上げに負けてたまるか!」と言う強いメッセージと共に、それを強化する目的で、これらの措置をとっているのだと思われます。

一方で、こんな記事もありました。

コンビニエンスストアと言うカテゴリーが持つイメージの中に「低価格」は入っていません。その中でファミマが低価格を打ち出し、そのイメージがファミマのブランドの中に取り込まれれば、それは顧客がいくつかあるコンビニのうちでファミマを積極的に選ぶ理由になります。

また、WAGYUMAFIAとのコラボも、ファミマでしか買えない商品を配荷することによりファミマを積極的に選ぶ理由を提示しているとともに、高級和牛専門店とのコラボにより(そして本件以外にも繰り出している様々なコラボ施策により)何か面白そうな商品があるコンビニ、と言うイメージをその「らしさ」に付加し、やはり積極的に選ばれる理由を作っています。

ドンキ・ワークマン・サイゼリアのケースでは、それぞれの特徴である価格をリマインドして、ブランドの一貫性を保つために、ファミマの場合は、コンビニの中で選択的に選ばれる理由となるイメージを「らしさ」に付加するためにこれらの施策を展開しているのだと思われます。
前者は現存する「らしさ」を守るための、後者は現存する「らしさ」を変えるためのブランディングである、と言う次第です。

ファミマと言えば、こんな施策もありました。

ここで言われている「ライバル」は言わずと知れたセブンイレブンのことであり、おいしさはそのブランドの中核にあることです。
この施策では、セブンイレブンを参照点として設定することにより、その強みをファミマの「らしさ」として取り込むことと、チャレンジする方とされる方、と言う構図を提示することによって、2社とその他、と言う関係性を顧客の心の中に構築していくことが意図なのではないかと思います。
日本には大きな広告代理店がたくさんありますが、電博と言う言葉により、電通・博報堂とそれ以外、と言う見方がされます。一年前に始まったこのキャンペーンが今後も継続されることにより、それと相似系の「らしさ」がファミマのブランドに組み込まれることになるかもしれません。

詳しくは、一年前のキャンペーンを見て、ファミマの戦略を想像してみたこちらの記事をご覧ください。

以上、本日は、ブランドとは何か、どうやってできるのか、実際の企業施策とブランディング上の意図の想像・紐付け、といった話を差し上げました。
少しでも読者のご参考になれば幸いです。


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