「タブー視されて見えなかった、女性がこんなに悩んでいる健康課題」ー2021年の新鉱脈〜急拡大するフェムテック市場
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「タブー視されて見えなかった、女性がこんなに悩んでいる健康課題」ー2021年の新鉱脈〜急拡大するフェムテック市場

この記事は5月11日(火)に開催した、オンラインイベント「2021年の新鉱脈〜急拡大するフェムテック市場」の内容をもとに作成しました。

「フェムテック」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、一方で「よくわからない」という方も多いと思います。

企業だけでなく日本全体の成長にも大きく関わってくる「フェムテック」とはいったいなんなのか、今後の市場の広がりやそれによりどのような変化が起こるのか、3人の専門家をお迎えして考えてみたいと思います。

女性とテクノロジーとアートをテーマに第一線で活躍されているスプツニ子!さん、日本を代表するフェムテックベンチャー起業家のAminaさん、マーケティングや新事業創出の専門家である江端浩人さんをゲストにお招きしてお話を伺います。聞き手は、日経新聞の大岩佐和子編集委員が務めます。


■フェムテック市場伸長の背景を知る

ー大岩編集委員
まず、フェムテック市場がなぜ伸びてきているのか、その背景についてそれぞれお話を伺いたいと思います。江端さんからお願いできますでしょうか?

ー江端さん
世界的なフェムテック市場の伸びの背景の1つには、SDGsが世界中で広がっていることがあると思います。他にも、人類の半分である女性の健康、女性の社会進出、国家間の平等など、そういった分野も関与していると思います。

イギリスでは今年の1月から生理用品にかかる付加価値税が撤廃され、スコットランドでは生理用品の無償配布という動きも出てきています。日本もこれらの動きを受けて、例えばファミリーマートが今年の3月、生理用品を2%引きする「応援価格」というキャンペーンを実施しています。

実際の伸び率についてはいろいろな調査が出ていますが、総じて言えることは10%以上の伸びを示していることです。このデータでは、2027年には6.6兆円になるという予想が出ています。

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ベンチャーへの投資も8年で17倍に。2012年に60億円だったものが、2020年には1000億円を超える投資がフェムテックベンチャーに対して行われています。

Googleトレンドを調べてみると、これは教育のテクノロジー「エドテック(Edtech)」関連の検索と比較したものですが、フェムテックは2018年頃から検索されるようになり、どんどん伸びていることがわかります。日本の市場の関心が見えると思います。

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これをバックアップしていることの1つは、税金の投入です。事業をする人・事業を受ける人の両方にお金が流れ始めています。

例えば、経済産業省はフェムテックサポートの実証実験をやり始めていて、執行する団体の公募を2月に実施しました。現在は、フェムテックサービスを受ける側の補助金の公募が始まっています。世界中でフェムテックの動きが加速していて、日本も国を含めて動いている様子が見られます。

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ーAminaさん
私からはまず、「フェムテック」という言葉の話からしたいと思います。この言葉は2012年頃に出てきたもので「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」という2つの言葉の造語です。もともと投資家と起業家の間で使われていた言葉で、女性の健康課題を解決するために開発されたテクノロジーやサービスを指していました。

私たちは「CHAOS MAP」というものを作っています。これを初めて作った2019年には、フェムテック関連企業は221社くらいしかありませんでした。

生理、妊娠、お母さん関連、女性の健康周り、セクシャルウェルネス、更年期、メンタルヘルスなどに分けていますが、生理や妊娠関連には開発のためにお金が入っていますが、セクシャルウェルネスや更年期、メンタルヘルスなどにはまだまだ資本が入ってきておらず、企業数が少ないことがわかると思います。

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これが、昨年は2倍くらいに増えています。

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日本国内のフェムテックマップも作っています。今は大手企業も含めて97サービスくらいありますが、2019年には50サービスしかなかったので、こちらも1年で2倍くらいになっています。

日本ではこの1、2年、欧米とは違う動きをしていまして、女性の心や体に関する「タブー」などに対する「価値観を変えていこう」というムーブメントになっています。

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2012年以降、グローバルでフェムテック市場が段階的に成長してきていますが、2019年が特に興味深い年になっていまして、アメリカで有名な家電見本市「CES(セス)」で、初めてセクシャルウェルネスの商品が展示されました。フェムテックの領域でも「セクシャルウェルネスが大事だよね」という理解が深まりました。

具体的なプロダクトとしては、自宅で自分の「妊孕力(にんようりょく)」を計れる血液キットが開発されたり、デバイスを妊娠中のお母さんのお腹に貼ることで赤ちゃんの心拍や心電図をとることができるもの、膣の中に入れた膣筋トレイナーをアプリと連携させていろいろなゲームをしながら膣の筋肉が鍛えられる商品などがあります。

2020年以降はさらにテクノロジーを使って、これまでは早期発見ができなかった女性特有の疾患などにもフォーカスがいくと思います。

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これまで、女性の健康の進化があまり進んでいなかった背景には、「女性の健康はタブー視されやすかったこと」「女性が医学の治験に参加しづらかったこと」「投資家や起業家、医療の現場などに女性の割合が少なかったこと」などが挙げられると思います。

ただ、今はどんどん女性の割合が増えて、お金も回るようになってきているので、女性の新しい経済圏が生まれていると言われています。

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ー大岩編集委員
 参加者の方から質問が寄せられています。「日本において更年期の市場化が遅れている理由はなんでしょうか。更年期が苦しいのに言葉にできない女性リーダーが多いのではないかと思います。」

ーAminaさん
「どこと比べて遅れているか」ということが大事だと思います。グローバル視点で見ても更年期の商品は少ないと思います。

フェムテック関連企業にはスタートアップが多く、スタートアップには若い世代の人が多いので、最初は自分の身近な課題になっているからではないかと思います。ただ、今は更年期を経験した方たちが声をあげるようになってきたので、これから5、6年後には商品が増えてくると思います。

ースプツニ子!さん
私からは社会的な背景を話そうと思います。これまでの歴史の中で、テクノロジーの世界、ビジネスの世界、政治の世界は男性中心で作られてきました。最近になってやっと女性活躍がしっかりと叫ばれるようになり、社会で活躍する女性が増えてきたことで、いろいろな仕組みや構造が「男性に合わせて設計されている」ことにみんなが気づき始めたと思います。

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「生理」についても、ここ1、2年で日本のメディアでも話されるようになりましたが、ずっとタブー視されてきました。

仕事のパフォーマンスも影響を受けますし、女性はさまざまなトラブルを抱えているのに、「タブーだから他の人に言っちゃいけません」となっていました。男性は、悪気なく無自覚に、女性がこんなに悩んでいるとは知らなかったのだと思います。

女性に働く上での健康課題を聞くと、1位と2位が「生理」の問題なのですが、上司、87%が男性なのですが、女性部下で対処に困った健康課題を聞くと、「メンタルヘルス」が1位になっていて、完全に誤解されてることがわかります。

男性も女性が不調だということをよくわかっていない。現状、何が起きているのか、フェムテックで知識を広げることが大事だと思います。

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女性の生理の問題を解決する最も有効な方法の一つが「低容量ピル」です。アメリカやヨーロッパでは60〜70年代に一気に承認されましたが、日本はアメリカより40年も遅れた1999年に承認されました。

これがどれくらい遅かったかと言うと、国連加盟国の中で最も遅く、日本と同じく最後の最後まで承認しなかった北朝鮮の1994年の承認から、さらに5年遅れになっています。

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女性にとって大事なピルが承認されなかった理由は、政治に関わりルールメーキングをしている人たちの女性への偏見、「女性の性生活が乱れるんじゃないか」など、女性の声がそこに反映されないまま議論が進んでいたからだと思います。

もう1つ、皆さんに知っていただきたいのが「バイアグラ」が出てきたときの話です。バイアグラは副作用で100人以上の死亡例がありましたし、男性の性生活も乱れる薬だと思いますが、日本は半年で承認しました。

ピルに40年、バイアグラに半年。日本のジェンダーギャップを見ると、テクノロジーやサイエンスはみんなに平等に進んでいると思えますが、政治や医療にどんな人が関わっているかによって、承認されるもの、広がるものが変わってしまいます。

実は、ジェンダーギャップとテクノロジーの広がりには相関性があり、これは無痛分娩の普及率のグラフですが、ヨーロッパでは無痛分娩は主流でフィンランドでは89%が無痛分娩で子供を産みます。日本はたったの6%です。

その国のジェンダーギャップと無痛分娩の普及率をマッピングすると、きれいに相関します。「痛んでこそ母親」とか、「この痛みに耐えられないのは女じゃない」とか、古い価値観が根強い文化とテクノロジーは相関するということを、皆さんに知ってほしいです。

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■フェムテックの課題

ー大岩編集委員
今後、フェムテック市場が拡大するには、どのような壁があって、それをどうやって乗り越えていけばいいと思いますか?

ーAminaさん
「なんで日本ではデバイス的なものが開発されていないんですか?」とよく聞かれることがありますが、これはフェムテックに限った話ではなく、ヘルステックあるあるだと思います。

アメリカはプライベート保険が多いので、自分の体は自分で管理しなければなりませんし、できるだけ病院に行かないようにしようというモチベーションです。日本は皆保険で、患者さんも病院に行ったほうがいいし、病院も患者さんに来てもらったほうがいい、という仕組みになっています。

自分でデバイスを買わなくても病院に行けばいい、家で使うようなヘルステックのデバイスが開発されにくい環境なのではないかと思います。

ー大岩編集委員
参加者の方からの質問をご紹介させていただきます。「女性がオープンに話しにくい雰囲気は、子供の頃からの教育不足もあると思います。この問題を考えるときに教育改革のようなことも必要になるのではないかと思うのですが。」

ー江端さん
私も大学で教えていますが、これからフェムテックにしてもいろいろな課題を解決していく上で、理系の女子が少ないということがあると思います。テクノロジーをどうやって自分の問題解決に活かすか、というところで女性ならではのものを体現できる人を増やしていかなければいけないのではないかと思います。

ー大岩編集委員
もう1つ参加者の方からです。「男性側の理解を得ることが大切なのではないか、男性の理解を得るには実際にどうしたらいいのでしょうか。」

ースプツニ子!さん
私の秘訣は数字とデータを見せることです。グラフを作って数字で見せると、明確すぎて「あー」となります。訴えてもわからないところを客観的な情報として見せる、ということをやっています。

その意味で組織診断なども重要になると思います。きちんとアンケートをとって解析して、組織のダイバーシティが今どういう状態かを見せることです。

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ー大岩編集委員
サービスや商品の提供者側である起業家、大企業、投資家に求められることは何か、ご意見を伺えればと思うのですが。

ースプツニ子!さん
最近、インパクト投資が話題になっていますが、目先のお金を作ることではなく、地球環境の問題を解決したり、ダイバーシティを良くしたり、世界をより良くしたくて起業するタイプの人がいますが、フェムテックに関わる人にはそういう人が多いと思います。

インパクト投資をする企業のいいところは、短期的な利益ではなく、継続して応援して利益度外視で推してくれる仲間に恵まれることだと思います。そこがフェムテックの強みでもあるなと。

共感してくれる人はいっぱいいます。男性もいますし熱い思いでサポートしてくれるのでそこがポイントかなと思います。


■フェムテックは日本社会をどう変えるのか?

ー大岩編集委員
フェムテックの広がりは、今後の日本社会の姿をどう変えていくと思いますか。

ースプツニ子!さん
日本の昭和型の組織、「みんな男性」「みんな日本人」「縦割り」「ヒエラルキー」のようなものが、コロナで混乱している今の社会を見ていても、ベストな組織の作り方ではないとみんな実感していると思います。

ダイバーシティがあることで、意見が言い合えたり、いろいろなアンテナで新しい課題を発見できたりします。日本は殻を破らないと、タイタニック号として沈没してしまうので、そのダイバーシティのカギとなるフェムテックが重要だということを、ぜひ皆さんに理解してほしいなと思います。

ーAminaさん
近い将来「フェムテック」という言葉が使われなくなる社会になればうれしいと思っています。「当たり前になる」ことが一番だと思います。

私が日本に帰ってきて思うのは、この国のものづくりの質の良さです。日本の生理用品は、世界で一番の質です。そういう意味でも、フェムテックが日本の1つの産業として世界に出ていけるものになればいいと思っています。

ジェンダーギャップ指数では、日本は下のほうにいて悲しいですが、ちょっと先の未来、この新しい産業を日本が世界に誇れるものにできるくらい大きくなればいいと思います。

ー江端さん
フェムテックは、ジェンダーギャップをなくしていきますし、女性がもっと社会進出できる基盤を作るものだと思います。これが発展していくことで、日本もしくは世界中でもっとイノベーションが起こり、いい世の中になっていくと思います。

また、働き方などに関しても、自分が興味をもっているいろいろな分野に出ていって、自分ができることで貢献していくようなことも、今後ダイバーシティを担保するためには必要なことだと思います。そして、企業側がジェンダー平等に貢献する社員を応援したりサポートしたりすることも、とても重要になるのではないかと思います。

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■登壇者プロフィール

スプツニ子!さん
アーティスト
東京藝術大学デザイン科准教授

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【スプツニ子!さんのプロフィール】
インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボ 助教に就任しDesign Fiction Group を率いた。その後東京大学生産技術研究所特任准教授を経て、現職。2017年 世界経済フォーラム「ヤンググローバルリーダーズ」、2019年TEDフェローに選出。著書に「はみだす力」


Aminaさん

fermata共同創業者 / CEO

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Aminaさんのプロフィール】
1988年、千葉県生まれタンザニア育ち。英ユナイテッド・ワールド・カレッジに入学。ドイツの大学を卒業後、東京大学大学院で修士号を取得。その後、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学の博士号を取得。国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。19年10月から現職


江端浩人さん
エバーパーク代表
iU 情報経営イノベーション専門職大学教授
Wonder Bowline 代表取締役

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江端さんのプロフィール】
米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベン チャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングVP、日本マイクロソフト業務執行役員CMO Lead、アイ・エム・ジェイ執行役員CMO、DeNA執行役員メディア本部長、MERY副社長などを歴任。現在は各種企業のDXやチーフデジタルオフィサーシェアリング、次世代デジタル人材の育成 に尽力している。 著書に「マーケティング視点のDX」等


大岩佐和子
日本経済新聞編集委員

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【大岩編集委員のプロフィール】
1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。日経MJデスクを経て、2018年4月より現職

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