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エンジニアバブル崩壊後に広がる「歪み」 転職市場で経験者が苦戦する理由と対策

2022年11月に収束したエンジニアバブル。依然としてコンサル業界はバブルのような強気の状況が続いていますが、コロナ禍での資金余剰によって恩恵を受けていた外資系IT企業、SaaS、スタートアップの多くは、採用活動が急速に減速しました。

それから約2年が経ち、エンジニアバブルの影響が転職市場にも現れています。このnoteでもお話してきましたが「企業が求めるのは単にエンジニアの頭数ではなく、実力のあるエンジニア」であるため、未経験・微経験層の転職は非常に難しくなっています。しかし、経験者であっても転職に苦戦するケースが増えています。その代表的な理由がエンジニアバブルで発生した「歪み」です。

市場の状況が悪いため、転職を積極的に勧めることはできませんが、会社が経営不振に陥ったり、レイオフされたり、開発部門が縮小されて業務が無くなったり、経営陣が金銭的な余裕を失ってハラスメントの傾向を見せ始めるなど、転職を考えざるを得ない状況もあります。

今回は、経験者エンジニアが転職に際して直面するエンジニアバブルで発生した歪みと、それを乗り越えるための方針について整理します。

代表的な歪み

年収

エンジニアバブル期には「出世するより転職した方が楽に年収が上がる」と言われ、年収が1.25倍、場合によっては2倍になる例も見られました。コンサル業界や外資系IT企業、SaaS、スタートアップでは年収がオークションのように高騰していたこともあり、年収の相場感が不透明でした。

2024年夏現在、コンサル業界はまだ勢いがありますが、SaaSやスタートアップ、そして日本企業では、自社の基準に従った保守的な年収提示が増えています。エンジニアバブル下であっても保守的な年収提示をしていた企業が継続的に採用しているという側面もあります。外資系ITでは求人が減少し、年収が実力以上に高かった人々は転職が困難になっている状況です。

特に希望年収が1200万円を超えると、多くの日本の中小企業では執行役員クラスの給与レンジに突入していきます。期待されるバリューが高いので内定が出ないこともあれば、内定を出せる場合であっても企業側の要求するスキルが天文学的であり、入社後に厳しくなる場合もよく見ます。

転職回数

2024年夏現在、経験者が書類選考で落ちる大きな要因の一つが「転職回数」です。エンジニアバブル期には「人材の流動化」が許容され、職歴を問わない企業も少なくありませんでした。特にスタートアップでは、転職回数が多くても懸念点には挙げられるものの正社員数を稼ぐために内定を出すところが多々ありました。そのためジュニア・ミドル・シニアを問わず毎年転職している方も許容されて来ました。

しかし、バブル後の現在では、「すぐに辞めてしまうのではないか」という懸念から、転職回数が多い候補者を敬遠する企業が増えています。背景の一つには人材紹介フィーの高騰があります。未経験・微経験を多数求める企業が減ってきたためそちらで売上が上がらず、経験者を45%や50%で紹介する人材紹介会社が増加しつつあります。

地方在住でフルリモート

「ニューノーマル」という言葉はほぼ死語となっていますが、フルリモートの普及を想定し、ここ数年で地方に移住した方々がいます。介護理由のようなセンシティブな理由もあります。しかし円滑に事業を回すための月1回の出社すら難しい場合や、まとまった費用になってしまう出張費や宿泊費を給与とは別に求めるケースがあり、資金に余裕のない企業には厳しい条件です。

現職で信頼を築いてから地方在住・フルリモートを交渉する場合は受け入れられる話が今でもありますが、特に当該企業で実績のない人に対する地方在住・フルリモートは非常に難しい状況です。

海外移住で帰国するので正社員転職…と見せかけてからの業務委託

「円安のため日本で働くのは不利だ」とワーキングホリデーで海外に行った方々も居ます。そこで仕事がなくなり、ホームレス向け炊き出しに並ぶ日本人の姿がニュースになったのは記憶に新しいところです。

ITエンジニアも例外ではなく、スカウト媒体経由での面談でお会いすることがあります。カナダ、アメリカなどでITエンジニアの求人が見つからないため、海外在住を続けながら日銭を稼ぐために業務委託を求めるというものです。中には「日本に戻りたい」と言いながら正社員応募するも実際には戻る気がなく、面談が進行していくと急に海外フルリモートの業務委託を希望するパターンもあり、企業にとって頭を悩ませる状況です。

海外在住ITエンジニアの応募について決定的だったのが北朝鮮工作員が外貨を獲得するため、日本のスカウトサイトやクラウドソーシングを利用しているという報告でしょう。再委託も含めて企業は海外在住の候補者に対して非常に慎重になっています。

活路

厳しい転職環境ではありますが、転職しなければならない事情を抱える人もいます。ここでは、そうした方々のためにいくつかの方針を紹介します。

転職に向けて

近しい業界の企業に転職することで待遇が合いやすい傾向がありますが、注意点もあります。特に転職回数が多い場合、書類選考の基準は3年が一つの目安となるため、次の企業で3年働けるかどうかを考慮することが重要です。

入社経路としては、リファラルをしっかりと検討するべきでしょう。特に転職回数が多い方の場合、リファレンスチェックよりも、きちんとした太さの友人・知人から「職歴は多いのですが人物面は保証します」「次はしっかりと長く働きたいとのことなので私も協力します」とまで言わせると選考が進む傾向が見られます。

現実的な方法としては、アルムナイ(前職復帰)があります。待遇が現職での実績に基づいてプラスに再評価される企業も増えているため、一考の価値があります。

起業は…多くの場合お勧めできない

転職先がないということが後押しになり、フリーランスや起業を考える人もいますが、多くの場合は茨の道です。特にフリーランスの場合、先の北朝鮮問題からフリーランス活用に慎重になっている企業も増加しているため、在職中に案件の目処をつくっておかないと非常に危険です。

人材の流動化ってこういうこと?

IT業界では「人材の流動化」が過剰になっていると感じます。数年間分の需要を前借りしてしまったというのが実情ではないかと捉えています。事態が落ち着くにはまだ時間がかかるでしょう。

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久松剛/IT百物語の蒐集家
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