育児にまつわる「違和感」から感じるイノベーションの本質
Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーター・河原あずさです。
COMEMOにも何度か記事を書いていますが、昨年の6月に子どもが生まれて、3月19日に9か月になりました。妻も仕事をしていることもあり「半育休」というライフスタイルを6月から9月まで実践し、その後は、いわゆる「時短勤務」のようなかたちで育児にコミットしています。自分で会社をやりながらなので、いわば「育児起業家」といったところでしょうか。
これまでの顛末については過去の「半育休」にまつわる記事でも書いているのですが、完全にタスクを分けて「分担する」というよりは、お互いの状況にあわせてお互いのリソースを分け合って、やれる方がやるべきことをやるというスタイルに落ち着きました。紆余曲折はあったものの、チームビルディングとしては割とうまくいっているように思えて、ほっとしている日々です。4月になると子どもが保育園に通いだすので、それまで上手に乗り切れればと、夫婦で奮闘している日々です。
このようなライフスタイルを送る中で、さまざまな子育てにまつわる「違和感」に気づくことがあります。
例えば「母子手帳」というものがあります。子どもがいる家庭ならだれもが持っている、子どもの生育状況を記録していく冊子です。母親の健康状態の情報も含まれることはあるものの、基本的には「子どもの情報」の記録です。
このネーミング。なぜ「母子」なのでしょう?だって、子どもの情報なら、父親が記入してもいいはずではないでしょうか。
また、ありがたいことに、行政が、出産した家庭に様々なサービスを提供しています。助産師さんや心理カウンセラーさんによる「出産後面談」もその一つです。僕の住んでいる東京都北区にも存在しています。
この面談のネーミングは「ハピママ面談」と言います。事前アンケートは、母親向けで、メンタルヘルスに関する設問がとても多いのが印象的でした。
なぜ面談は「ママ」が対象なのでしょうか?女性の産後うつの問題はもちろん大事ですが、この数年、父親側の産後うつも非常に増えていて、問題になっています。産後のメンタルヘルスの問題は、女性に限った話ではないのです。
子どもを抱っこしてオフィスに出かけると、コワーキングスペースの会員さんからたくさん声をかけられます。自分の子どもを可愛がってくれるのはとても嬉しくて、大歓迎なのですが、声をかけてくれる方から、おそらく無意識に、このような声が発せられることがあります。「ママは?」
逆のケースを考えてみたときに、果たして妻が子どもを抱っこしてでかけているときに「パパは?」と声をかける方はどれくらいいるでしょうか。声をかけてくれる方は善意で声をかけているし、決して育児の男性参加に対して保守的な方ということもありません。そういう方でも、無意識にママの姿を意識してしまうほど、社会的に強いバイアスが刷り込まれているということかもしれません。
育児にまつわるシステムにおいて「父親の影」はなぜ薄いのか
そんなことを日々考えていたら、ライターのヨッピーさんのこんなツイートが拡散されました。リプライには、主に育児にコミットしている父親からの同意と共感の声が溢れました。
もちろん、世の中には、女性のワンオペ育児に起因する悲しい事件なども起きており、育児をしている女性に対して手厚い保護をすべきなのは事実です。それは否定しませんしどんどんやるべきなのですが、ここで確認したいのは、育児にまつわる社会のシステムや施策において「父親」の姿が限りなく薄くなっているという事実です。
しかし、このヨッピーさんの投稿が象徴するように、育児に参画する男性は、ますます増えています。定量的なデータがなくて恐縮なのですが、この数ヶ月、平日の日中に子どもを抱っこしながら奥さん抜きで街を歩いている男性の数が、確実に増えています。これはあくまで推測ですが、コロナウイルスの影響で保育園、幼稚園、小学校などが十分に機能しなくなり、母親だけでは面倒が見切れない結果、仕事の都合をつけて一時的に子どもの面倒を見る男性が、増えているのではないかと思うのです。
これらの状況から、着実に男性が育児に参画する意識は増してきている一方で、社会システムや制度の変化が追い付かず、なかなか社会バイアスの変化にまで至っていないというのが現状なのかな、と僕は考えています。時代の急速な変化に、社会の仕組みの変化が、追いつききれていない、というわけです。
ライフスタイルの変化と、システムの変化にはラグがある
行政の方や、仕組みをつくる側の方を責めるつもりはありません。なぜなら「ライフスタイルの変化と、仕組みやシステムの変化には、必ずラグがあるもの」だからです。
民主主義という制度は、基本的に多数決の原理で仕組みを決めていくものです。世の中でメジャーな考え方が支持され、仕組みとして採用されていきます。
一方で、世の中の価値観の変化は「マイノリティ」の側から起きるものです。価値観やカルチャーは、最初にマイノリティの方々が声をあげ、それに共感する人が増え、人々のライフスタイルに徐々に浸透していくことで、グラデーションのように徐々に広がっていくものなのです。
「変化は確かに起きている。しかし世の中の大多数の人は気が付いていない。」そのような過渡期の状況だと、制度やシステムはなかなか変わりません。
では、変化をもたらすためには何が必要でしょうか。それがいわゆる「イノベーション」と呼ばれる、新しい価値観を体現した事業やサービス、アウトプットの創出だと私は考えています。時代の変化に敏感な人たちが「こういうものが今の世の中に絶対に必要なのだ」という思いを元に、課題に対する解決策を提示していくことで、世の中への新しい価値観を促していく。これが「発明」や「イノベーション」の本質だと考えています。
自分が当事者意識を持っている領域に対して感じる「小さな違和感」は、こういったイノベーションを生み出すための重大なヒントです。違和感は、世の中に隠れた重大なニーズを体現するものです。この違和感から「時代の変化と実際のシステムのギャップ」を的確にとらえていくことが、新しい価値を世の中に提示していくにあたっては、とても大事ではないかと思うのです。
価値観の変化は違和感の言語化からはじまる
男性の育児に関しては、イクメンという言葉のちょっとしたブームからスタートし(この単語が死語になりつつあることが、男性の育児参画が以前より進んだ証とも言えますね)この数年で議論が盛り上がり、さまざまなソリューションが世の中に生み出されています。例えば、パナソニックの男性が開発した「産後の夫婦コミュニケーションを改善するアプリ」は、開発者の当事者意識から生まれました。
そして、いよいよ2022年4月1日から、男性の育休が義務化されます。価値観の変化に、制度が(バイアスの変化の不足に比べるとちょっと前のめりなスピード感で)追いついてきたと言えます。
ジェンダーや育児にかかわる価値観は、僕たちが生きる時代の中で、急速に変化しているものの一つです。男女雇用機会均等法の制定が1986年。僕が6歳の頃です。たったの35年前まで、男性と女性の雇用の機会は制度上、均等ではありませんでした。女性の参政権が制度上認められたのは1945年12月の公職選挙法改正の出来事です。まだ女性が投票できるようになってから、1世紀もたっていないということになります。そのような状況ゆえに、社会には女性の役割に対する強力なバイアスが未だに定着していて、なかなか払しょくできないでいるのではないでしょうか。
近年では、ますます価値観の変化は進み、選択的夫婦別姓制度やLGBTQなど、更にジェンダーに関わる議論は進んでいます。しかし、先述したバイアスの影響もあるのか、なかなか制度の変化が世の中の価値観の多様化においついていない印象を受けています。個別には紹介しませんが、制度をつくる側にいる政治家の方の、ジェンダー差別につながるような「失言」は、この事実を証明していると言えるかもしれません。
大事なのは、一人一人が、自分の身の回りの「違和感」に対して敏感でいることだと感じています。違和感をそのままにせずに言語化し、そこから得た気付きを発信することで、新しい価値観は徐々に波及していき、その積み重ねによって大きなシステムやバイアスの変化につながっていきます。逆に、その違和感を違和感のまま残しておくと、自分の中に抑圧された感情として蓄積されていきます。その積み重ねで、社会との向き合い方がどんどんネガティブになることだってありえます。
違和感の言語化は、課題の明確化を産み出し、その課題に対する解決策(ソリューション)の発案へとつながっていきます。これが新しい価値の提供に成功している会社員のみなさんや、起業家や経営者、クリエイターの方々が日々やっていることです。日常の中で出会った違和感を自分の中で受け入れながら、なぜその違和感が存在するのか、その違和感とどう向き合っていけばいいのか、ポジティブな状況に変えるためには何が必要なのかを、自分に問いかけ、行動の変化につなげていく方が一人でも増えるよう、僕自身、いろいろな新しい価値を生み出している人たちをサポートしていければと考えています。
ぜひ「コラボしたい!」と思った起業家、経営者、新規事業づくりをされている方がいらっしゃいましたら、いつでもご連絡ください。日々の違和感から新しいアイデアを創出するファシリテーションを通じて、ご支援できればと考えています。
こちらの記事は、下記のVoicyの投稿を下敷きに書き下ろされました。Voicyはじめたばかりですが、とても楽しいです!ぜひこちらもチェックしてみて下さい!