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テレワークが発揮する従業員の創造性~ライフスタイルにあわせた働き方の選択肢を~

 Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。コロナ禍より前の会社員時代から、自主的にテレワークを実践していました。

 毎回興味深いお題を提供してくれる日経COMEMO編集部さんから今回出てきたお題は「テレワークで上げる生産性」です。

 私の場合はというと、今の働き方は、テレワーク前提でないと成立しません。コロナ禍になり、多くのミーティングがオンラインになったおかげで、かつては実現不可能だったスタイルが実現できているのです。

 そのスタイルとは何かというと「育児と仕事の両立」です。

 そしてそんなスタイルを試行錯誤してみて思うのです。「テレワークの本当の価値って、生産性向上なの?」と。いや、ちゃんとやると生産性は上がるわけですが、それってもはや前提であり、大事なのはその先の目的意識を明確にすることだと思うのです。

 少なくとも私の場合は生産性向上を目的として、テレワーク主体のワークスタイルを実践していません。どんな目的でテレワークに邁進しているかというと「生活と仕事の境界線を上手に溶かして、育児と事業の両方をまわしていくため」です。

 そんな最近の日々を省みて思うのです。テレワークを採用する本当の価値って、1人1人のライフスタイルにあわせた働き方を整えられることなんじゃないか、ライフスタイルと仕事をそれぞれが工夫しながら融合させられることなんじゃないか、と。

 そう考えたときにテレワークにおいて大事なのは「企業の生産性」ではなくて「従業員一人一人がそれぞれのライフスタイルにあわせて発揮できる創造性」なんじゃないか。今回はそんなお話です。

育児をシェアして成立する夫婦の仕事

 2021年6月に長男が生まれた私は、日経COMEMOの記事でもいくつか書いた通り、自営業の身でありながら仕事の量をおおよそ半分に減らし、残りの半分を育児にコミットする「半育休」を実践していました。

 その顛末はこちらの記事に詳しいのですが、正直、9月に2ヶ月におよぶ半育休を終えた後の妻からの評価は「とってくれてよかった」というコメントこそでたものの、全体的には厳しいものでした。特に7、8月は育児に向かう意識に関してもめることも多く、今振り返ってみても確かに「そりゃ確かに奥さん怒るわ。もっとちゃんとしろよ」とその時の自分をたしなめたくなるような様でした。

 ただ、むしろ半育休終盤の9月初旬くらいから事態は好転しはじめます。お互いの役割がなんとなく見えてきて、信頼感も徐々に醸成され、チームとしての結束が増してきたからです。10月下旬にはだいぶ安定感が出てき始め、結婚式などのイベントだらけでてんやわんやだった12月も2人でなんとか乗り切ることができました。

 私自身も、自分の特性として、仕事をやりながらのほうがむしろ、メリハリを持って育児にあたれることがわかりました(その逆に、育児をしながら仕事のメリハリもつけられるようになりました)。子どもがまだ歩いていなくて、抱っこで面倒をみれる恩恵は多分にありますが、いくつかの手法で、子どもの面倒をみながら仕事を進める方法を編み出したのです。

20分程度の事務作業ならこの体勢でなんとかなります
抱っこ紐を使うと1時間はもちます
その間に集中して提案書を作成するスキルが身に付きました
寝かしつけの成功は仕事のアクセルを踏むサインです

 このスキルは夫婦仲の改善に大きく寄与しました。我が家は自営の共働きで、妻も段階的に仕事を再開しています。仕事があるのはお互い様。その状況の中で、子どもの面倒がみれる時間帯を臨機応変に分け合う「育児シェアリング」を実施することにより、お互いの仕事も育児も(どうにかこうにか……ではありますが)2人で協力しながらまわせているのです。

(4月からは保育園がはじまるので、とりあえず3月まではこの体制で乗り切りれるかな……と夫婦では話しています。ズリバイがはじまって動き始めると状況はだいぶ変わるでしょうが……そうなったらシッターさんも組み合わせて上手に乗り切る算段です)

 ちなみに面白いもので、育児と両立をはかることで仕事のパフォーマンス自体は確実に向上しています。子どもがおとなしい時間をチャンスタイムととらえ、その時間内に片付けられる仕事を手際よくこなそうとするせいか、無駄なく、タスクをこなすことができているのです。研修やイベントの企画など、クリエイティブな要素を含む仕事に関しても、子どもを抱っこして散歩に行きながら考えることでいいアイデアが生まれるようになっています。何事もそうですけど、新しい刺激は、パフォーマンスにいい影響を与えてくれるんですよね。

テレワーク時代でなければ家庭は崩壊していた

 そんな中、ふと思うのです。「仮にこのシェアリングができていなかったら、どうなっていたことだろう」と。

 私が毎日通勤時間をかけて出社しなくてはいけない会社員だったと仮定します。日中、妻はワンオペで自宅で子供の面倒を見て疲弊に疲弊を重ねます。夫からみても妻は手際よく、前向きに育児に取り組んでいますが、そうはいっても人間なので、電池切れを起こすことは多々あります。子どもは日中号泣を繰り返し、妻はぐったり、子どもをどうにかこうにか寝かしつけた後に会社から帰ってくる、育休の時にもあまり役に立たなかった会社員の夫。ここで「今日はどうだった?」という言葉を無責任に妻に投げたとしたら……妻の絶望感といったらないのではないでしょうか。

 ある程度は育児にコミットできるようになった今なら言えますが、完全にこれは完全なる「家庭崩壊フラグ」です。妻の愛情曲線は下がる一途で、取り返すことはかなり難しくなります。

 オンラインで自宅から仕事の多くが完結する時代になっていなかったら……と思うと本当にぞっとします。育児へのコミットは限りなくゼロに近づき、それなりの確率で、我が家は家庭崩壊を起こしていたことでしょう。

 この「外で働く会社員の夫と家でワンオペで子供の面倒をみる妻のすれ違い」を描いた「僕と帰ってこない妻」というWEB漫画作品(ちなきち作)があります。

 はじめての育児に情熱を燃やしていた自称イクメンの夫。元々は円満な夫婦だったのに、ある日突然、妻は子供を連れて出て言ってしまいます。その経緯をさかのぼって、何が起きていたかを描写している、実話をもとにした漫画なのですが……なんともまあ、男性目線でみても胸が痛む作品なのです。

 確かに主人公である夫に至らない点は多々あります。けど、起きていることの多くは「夫の見ているポイントが妻とズレていることによるすれ違い」です。そしてそのすれ違いのトリガーとなっているのは「会社における滅私奉公カルチャー」(特に極めて昭和的な組織文化と上司との関係性)なのです。作者のSNSアカウントでは公開されるたびに子育て経験のある女性からの主人公夫に対するバッシングが続くのですが、元サラリーマンの自分としては、この主人公夫に同情するポイントは多々あって、コメントを見るたびに心がちくちくしています。

 そして思うのです。もしこの夫が我慢してこの会社で働き続けるのではなく、コロナ後に子どもを持って、テレワークが許容される、働き方やライフスタイルの多様性に理解ある会社につとめるという選択肢を持てていたら、もっとマシな状況になっていたのではないか……と。

ライフスタイルを尊重する社会になれば日本は幸せな国になれる

 私の話に戻りますが、先日、妻が体調不良で急に寝込んだことがありました。その時間、私はクライアントとのZoomミーティングを入れていて、妻が子供の面倒をみてくれることになっていたのですが、背に腹は代えられません。初顔合わせのクライアントに「こういう事情で、子どもを抱っこしながらミーティング出席して大丈夫でしょうか?」と相談しました。

 幸いなことに先方は快諾してくれて、ミーティングは子どもと共にスタート。ずっと抱っこしていた子どもも泣き出すことなく、商談自体もいい雰囲気で、ミーティングは終了しました。仮にここでミーティングが台無しになると、休んでいた奥さんが気に病んでしまうことになってしまいます。というわけで、きちんと成果が得られるよう、普段のミーティングよりもむしろ集中して、クライアントさんと向き合うことができた感触がありました。

 クライアントさんに感謝の言葉をミーティング後にお伝えしたところ「むしろ和ませていただきました。こちらこそありがとうございます。」と温かいお言葉をいただきました。妻も休息したことで復活し、みんなにとってハッピーな結果になりました。

 そんな経験をして思ったんです。テレワークにおいて大事なのって、この「それぞれのライフスタイル構築に対する寛容さを社会全体が持つこと」なんじゃないかと。

 自宅や遠地から仕事にアクセスできるテレワークは、それぞれのライフスタイルにあわせた働き方を選択できることが大きな特徴です。育児中の人は育児と、介護中の方は介護と、勉強中の人は学業と、それぞれ向き合いながら仕事をすることが可能になります。そして、核家族がどんどん増えたり、超高齢化が進む社会の中で大事なのは、そんな風に、それぞれの事情と向き合える環境を、社会全体が整えていくことだと思うのです。(言い方はアレな心の叫びなんですが、社会がそのような環境をつくれないと、育児も介護も正直、仕事と両立するなんて無理ゲーなわけですよ!)

 そして個々の事情と仕事を両立していく上で、公助ではなく自助が大事ですよと政府や行政が言うような環境の中、企業の果たすべき責任は、とても大きいと思うんです。企業が従業員一人一人のライフスタイルを考慮して、それぞれの理想の働き方としっかりと向き合って選択肢を用意し、具体的にサポートできるところはしていければ、ちょっと大げさですけど、日本はもうちょっと暮らしやすい、幸せな国になれると思うんですよ。

「働きがい支援」で注目すべきは、生産性よりも創造性だ

 そんな従業員本位な話をされても、企業側の事情でいえばメリットがないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。言いたくなる気持ちはよくわかります。しかし、実は世の中の名だたる会社が既に、自社の成長のために、社員の働きがいを支援する動きを見せている、そんな事実がちゃんとあるのです。

 先日、キリンホールディングスで人事を管轄する取締役常務執行役員 人事総務戦略担当の三好敏也さんにインタビューする機会に恵まれました。

 キリンさんは、2013年から「CSV経営」を経営方針に掲げ、従業員の自律的な働き方を支援すべく、さまざまな人事施策に取り組んでいます。そして、2021年3月には、「コロナを成長の機会として捉えよう」というメッセージと共に「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」を発表しました。

 キリンさんでは、コロナ禍をきっかけに、それまで進めていた「働き方改革」を更に前進させるべく「働きがい改革」を掲げて、従業員一人一人が状況にあわせた仕事のスタイルを選択できるよう、制度を整えています。三好常務は、インタビューの中で、推進する理由について下記のように述べています。

三好:「働きがい改革」も「働き方改革」同様に生産性の向上が目的です。しかし、それで止まっていると「経営戦略」とつながらないとも考えています。では何が鍵になるかというと「創造性」です。アウトプットの創造性を高めていくことがイノベーションに繋がると思いますし、その創造性を向上させる源泉になるのは、従業員一人ひとりの充実感だと思うのです。(太字は筆者強調)

https://co-consortium.persol-career.co.jp/article/2021/11/15/03/index.html

 インタビューしながら、思わず「ですよね!」と強めのあいづちをうったのを覚えています。

 先ほど書いたような私と妻の育児と仕事の両立をするためのやりくりは、まさしく「創造性」という言葉に集約されると思っています。仕事、自分、家族が三方よしになるような、ライフスタイルとワークスタイルがゆるやかに共存するような関係性を、誰に答えを求めるわけでもなく、自分たちで工夫しながら構築しようとしているからです。

 仮に勤めている会社がそのような「ライフスタイル創造」を支援してくれるとしたら、従業員の会社へのエンゲージメントは上昇するはずです。そして、わくわくと、オーナーシップを発揮しながら、仕事に取り組んでくれるはずです。そんな会社で働きたいという方が外部から集まってくることで、採用にもいい影響が出て、活気ある組織へと変化するでしょう。

 キリンさんは、いわゆる外資系企業でもなく、新興企業でもありません。歴史と伝統を誇る「日本の大企業」です。そんな歴史のある企業でも、従業員の自律性と創造性を大事にするワークスタイルを実現しようと、日々試行錯誤を続けているのです。製造業だからできない、伝統を重んじる企業だからできない、という言い訳も、このような事例を目の当たりにすると、なかなかできなくなりますよね。

 キリンさんだけではなく、他にも日本の多くの企業が、従業員の自律的な働き方を支援し、働き方の選択肢を増やすための施策に取り組んでいます。テレワーク云々の手段の議論はもちろん大事ですが、まずは従業員の働きがいを支援することが会社の成長に寄与するのだというそもそもの目的に立ち返って、議論が進むことを、心より願っています。

社員の創造性をはぐくむコミュニティ思考研修やってます。お問い合わせはこちらのホームページのフォームよりどうぞ

#日経COMEMO #テレワークで上げる生産性

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