見出し画像

「キャリア資産」のアップデート・サイクル 〜Learn-Venture-Teach-Unlearn

お疲れさまです。uni'que若宮です。

先日、「キャリア資産」の話を書きましたが、今日はその続編でキャリア資産のアップデートサイクルについてもう少し詳しく書いてみたいと思います。


「教える」仕事をする時に気をつけていること

2022年度4月、福岡女子大学の客員教授に就任いたしました。

その他にもここ数年は、起業講座や企業の研修をお願いされたり、メンターやアドバイザーとして人に「教える」側の仕事も増えてきました。

自ら事業をつくるだけだと手も限られているので、事業や新しい価値をつくる人を増やすことも大事だと思っており、未来につながることとしても「教える」仕事はとても楽しんでやっています。

ただし、「教える」仕事が増えてきた時に気をつけているのは「教えるだけの人にならない」ことです。「教える」仕事をしつつも必ず軸足は「自ら新しい事業をつくる」ことに置く、というのを自分ルールにしています。

なぜかというと、「教える」側だけをやっているとキャリア資産が枯渇してきてしまうイメージがあるからです。

かつて大企業時代にあるコンサルティング会社にお願いしていたことがあります。コンサルティング会社の方たちはたしかにとても”賢い”人たちでしたが、机上の空論感がいなめず、正直新規事業においてはあまりバリューを感じませんでした。そんな時、コンサルではなく現役の起業家にアドバイスをいただく機会があり、そのアドバイスの質のちがいに驚かされました。起業家の方の言葉は、自ら事業をつくり試行錯誤しているからこそのアドバイスの重みがあったのです。

ときどき、コンサルタントやセミナー講師を生業としている方にも、同じような印象を感じることがあります。もちろん「教える」才能に特化している素晴らしい方もいらっしゃいますが、既存の知識や経験だけを頼みに「教える」ことだけをしていても、自ら試行錯誤していないために知恵がアップデートされていかず、内実が空虚だったり陳腐化していることがあるのです。

同じような感覚に、ITベンチャーにおける受託と自社サービスの開発があります。受託だけをしているところと自社事業としてサービスを回している企業の開発力を比べると、自ら試行錯誤する回転数の多さの分、自社事業をやっているところのほうがスキルが高いことが多い気がします。(もちろんこれは一般論的比較であり、受託専業でも素晴らしい技術をもっている企業はたくさんあります。その場合は逆に、受託案件であっても意識的に試行錯誤を繰り返す文化が根づいている企業だからこそ素晴らしいスキルを提供できる、といえるでしょう)

キャリア資産のサイクルの4フェーズ

といっても、僕は過去に蓄積した経験や知識などのキャリア資産を使って価値提供することを否定しているのではありません。

事業やキャリアにはフェーズがあり、赤ちゃんから子供になり成長期を経て壮年期・老年期へと進みますが、このうちで最も年収が高くなるのは壮年期です。壮年期とはそれまでに蓄積した資産を収益に変える(マネタイズ)フェーズだと言えます。

同じように、キャリア資産において「教える」というフェーズはそれまでに増やしてきた資産をつかって利益を上げることです。過去の経験やナレッジを引き出して、知りたい・習いたい人達に提供してお金を得ることができます。

ただ、ここで注意が必要なことは、「教える」ばかりをしていると、キャリア資産が減っていってしまうことです。(↓のループの下半分)

資産が増えたからこそ、溜まった資産を活用して「教える」ことができるのですが、そればかりしていると資産が目減りしてしまうので資産を増やす活動が必要なのです(ループの上半分)

ここで、キャリア資産のサイクルを4つのフェーズで説明してみます。

1)Learn(「習う」)

ループの左上は「Learn」のフェーズです。初めて取り組む領域や事業については最初は元手となる知識も経験もありませんから、まずは他の人の知識や経験をお手本にしてトレースします。これはまだ「習う」「倣う」という段階で、自分自身の資産にはなっていません。いわば「借り入れ」をしているような段階です。

2)Venture(「賭ける」)

次に借り入れた知の資産を元手にして、それを使い自ら試行錯誤して、「自分の知の資産」を増やしていきます。ここで大事なのは「自ら試行錯誤」というところ。失敗も数多くしながら自分自身を賭けることによって積み上げられていく知の資産は、他の人が持ち得ないようなその人だけのユニークな資産となります。
逆の言い方をすれば自ら試行錯誤を重ねることなく得られた資産は本質的には「借用」でしかなく、その人の純資産にはなっていません。

3)Teach(「教える」)

2のフェーズを経て知の資産が増加すると、これを他のひとに「教える」ことが出来る段階が来ます。大きな研究を成し遂げた人が教授になったり、優れた業績を残したスポーツ選手が監督やコーチになったり、事業を成長させた起業家が講演をしたり本を出したり、というのがこのフェーズです。すでに述べたとおり、このフェーズまでに資産が積み上がっていますからマネタイズは比較的容易です。

ただ注意しなければいけないのは、これは過去の資産を引き出して使っているのに近いので、2)Venture的なチャレンジを怠っていると資産が目減りしていってしまいます

4)Unlearn(「学び直す」)

「教える」のフェーズでもう一つ注意が必要なのが、一度積み上げた資産の価値もかならずしも不変ではないということです。資産は陳腐化したり老朽化したり、あるいは焦げ付いて不良資産になることもあります。こうした不良資産はB/Sを見かけ上大きくしますが実際には価値を生まず、贅肉のようにからだを重くしてしまうので、償却してスリム化した方がよいことがあります。償却し身軽になるとまたプラス側の上部ループにはいることができ、新しいことにチャレンジしていけるからです。

「教える」キャリアのフェーズに入ると「先生」などと呼ばれて持ち上げられることが増えてきて既存の経験やノウハウを過信したり慢心しがちなので、注意する必要があります。


資産を増やし、キャリア資産の自己資本比率を上げる

冒頭に述べた、「教えるだけの人にならない」というマイルールをキャリア資産のアップデート・サイクルに当てはめると、僕が気をつけているのは上部のループを怠らないようにする、ということになります。

上部ループをなくして下部ループだけでやっていくと、徐々に資産は切り崩されて減っていくか、陳腐化し不良資産化していってしまいます。行政主催の創業プログラムなどでは、もう何十年もアップデートされていないのではないか…と思われるコンサルタントの方が講座をもっていたりするケースがありますが、行政の仕事は一度受託するとそれほど変化がないため、過去のキャリア資産を頼みにイージーモードに甘んじてしまっているからではないでしょうか。(行政のシステム開発の受託にも似た課題がある気がします)

もう一つ、講師業が増えてくると、2)Venture(賭ける)という資産を増やす上で最も重要なステップをすっ飛ばして、1)Learn(倣う)⇔3)Teach(教える)だけの自転車操業になっていってしまうこともあるので注意が必要だと思っています。

自ら試して知の資産を増やすことをせず借り入れたものだけで回している状態は、いわば「純資産」が増えずに負債に頼っている状態であり、知の資産の自己資本比率が低い状態といえます。

そして自ら学ばない、あるいは借り物の言葉で済ます、いずれの場合でもそうした状態で「教える」ことだけをしているとあたらしい純資産が増えてこないため、かえって既存の資産に固執してしまったり、「先生」と呼ばれるうちに資産価値が目減りしていることにも気づけなくなったりします。すると4)Unlearn(学び直す)も起こらず、すでに価値の低下した不良資産をそのままに抱えてしばしば「老害」になってしまうのです。

「先生」こそVentureしよう!

だからこそ、「先生」と呼ばれる「教える」フェーズに入った人ほど意識的にチャレンジをすることが重要だと思います。すでに築き上げられた資産でマネタイズできているうちに、誰もやったことがないユニークな実験を自らを賭けてどれだけやるか?

そういうVentrueをしていればこそ、たとえ失敗したとしてもキャリア資産が増え、やがてまた経験がない人たちに「教える」という仕事ができるので、適切にキャリア資産のアップデート・サイクルを回し、資産を入れ替えていくことが重要なのではと思います。

もちろんVentureといっても起業に限るわけではなく、研究や組織でのチャレンジでもよいのですが、これからの教育では「先生」と呼ばれる人も、どんどん経験のないチャレンジをするべきだと思っています。(そういう意味で「副業先生」もよい刺激になったらいいなと思います)


キャリア資産の陳腐化のスピードはあがっています。構築した資産もあっという間に目減りし、陳腐化してしまいます。

「教える」フェーズに入った人こそ、「学び直す」こと、そしてまた新たに「習う」「賭ける」ということが大事になってくるのではないでしょうか?

いいなと思ったら応援しよう!