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エンタープライズはWeb3とどうかかわるべきか まず検討したい5つの視点

高木聡一郎(東京大学大学院教授)

2022年8月31日、日本経済新聞の「経済教室」にWeb3に関する論考を掲載して頂いた。

これまでのWeb3に関する記事でも触れているが、Web3は、必ずしも経済成長や「便利な」サービスを実現する手段として発展してきたものとは限らない。むしろ、自律分散的な社会システムを実現するという社会運動の側面も持っている。

そうすると、多くの企業の方が疑問に感じるのは、「企業はWeb3とどう関われば良いのだろうか?」ということであろう。実際に、Web3とのかかわりに頭を悩ませているビジネスパーソンもいるのではないかと思う。

社会運動の側面があるとしても、巨大な経済規模に膨らみつつあり、また技術的にも先端的であるため、企業としても無視できない領域となっているのではないだろうか。

そこで、今回は企業がWeb3に関わる際の考え方を、5つの視点から紹介してみたい。


1.企業ユーザーとして使う

第1の視点は、企業がユーザーとして使ってみるということである。NBA(全米プロバスケットボール協会)は公式のトレーディングカード(実際には動画もあるため、従来の静止画だけではない)の販売にNFTを使っている。

他にも、小売店やアパレルであればメタバースへの出店が考えられるだろう。メタバースへの出店を検討している企業も増えており、以下の記事にあるように、メタバースに出店したり広告を出稿したい企業の支援も事業として有効かもしれない。

メタバースが流行語となる以前からあるZwift(バーチャル上のサイクリングプラットフォーム)では、様々な自転車メーカー等がバーチャル空間で使えるウェアや自転車などを提供している。コアな愛好者が集まるプラットフォームであるほど、自社商品の宣伝の場としても効果的であろう。

メタバースにWeb3的なものとそうではないものがあることは以前に指摘した通りだが、単に決済に仮想通貨を使うというところまで含めれば、両者の垣根は曖昧になる。また、一般ユーザーにとって両者の違いはそこまで重要ではなくなる可能性もあり、検討対象としては幅広く捉えても良いだろう。


2.ユーザーとWeb3をつなぐ役割を担う

Web3はNFTの購入から分散型金融(DeFi)の利用まで、幅広いものがあるが、総じて利用の技術的ハードルは高い。ウォレット(例えばメタマスク)の設定、仮想通貨の交換・送金、サービスへの接続など、自らかなり勉強しなければ利用できないものも多い。

使いたいユーザーとサービスを繋ぐことが、企業が参入する一つの観点としてはあり得るだろう。使いやすいアクセス用のサービスを開発したり、複数のインタフェースをラッピングしたサービスも良いかもしれない。

また、ブロックチェーンに基づくものは、一度間違った操作をしてしまったら永久に元に戻せないリスクがある。こうしたリスクを一定期間、オフチェーン取引等で企業側が引き受けることもあり得るだろう(もっとも、これは信頼の根拠として、どこからがブロックチェーンで担保されているのかをユーザーに正確に告知すべきである)。

米国ではビットコインを対象としたETF(上場投資信託)が普及しているが、こうしたサービスも、従来の顧客インタフェースのままでWeb3の世界を活用できるものであり、このようなアプローチは今後も重要だと思われる。

3.開発・運用プラットフォームを提供する

Web3の世界で最近重要になっているのは、Snapshotと呼ばれるプラットフォームである。これはDAO(自律分散型組織)を運用するにあたって、議論を行ったり、意思決定を行うためのプラットフォームであり、トークンの持ち分に応じた投票をサポートする機能がある。

例えば、猿のアイコンで有名なBored Ape Yacht ClubのDAOもこのプラットフォームを利用しているが、イベントの開催からゲームの開発まで様々な提案がなされており、それらに対して投票で意思決定が行われている様子を見ることができる。DAOに関心のある人にはぜひ一度見て頂きたいプラットフォームだ。

Web3に関する開発コードの管理は他の多くのオープンソースプロジェクトと同様にGithubで行われることが多い(Githubはマイクロソフトに買収された)。他にWeb3関連でどのような開発・運用プラットフォームが必要になるかは今後の検討次第であるが、サーバー管理、電力関連、トークン監査、セキュリティ診断など、検討すべき視点は色々とある。

このような開発者・運用者用のツールを提供するのも一つのチャンスである。但し、この分野では最先端のツールが無償で提供されることも珍しくないため、ポジショニングや価格戦略については留意が必要だろう。

4.サービスの評価・監査を行う

Web3界隈でおそらく継続的にニーズが高いのは、サービスやその開発体制の信頼性を評価することである。当初からブロックチェーン/Web3業界には、詐欺的なものや、セキュリティ対策が不十分なものがあると指摘されている。トークンの初期配布の状況、追加発行による変化なども検証が必要だろう。

こうした様々な観点から、Web3関連サービスを調査、監査し、評価をする仕組みがあれば、投資家、利用者、企業ユーザーなど多くの人にとって有益な情報となるだろう。

5.トランザクションの仲介プラットフォームを提供する

最後が、Web3で取引される様々な価値の取引を仲介することである。NFTのマーケットプレイスや、古くは仮想通貨取引所がこれらに該当する。軌道に乗れば大きなビジネスに成長する可能性があるが、規制の影響を受けやすい業態でもあるため、取り組みに当たっては細心の注意が必要であろう。


以上、今回は企業がWeb3に関わるための5つの視点を紹介した。ぜひ各社において関わりを検討する際の出発点として活用して頂きたい。

また、これで全てというわけではない。もし他にも良い視点を思い付いたという方がいらっしゃれば、ぜひご自身のアイデアとともにシェアして頂ければ幸いである。


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高木聡一郎(東京大学大学院教授)
東京大学大学院情報学環教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。チェロ弾き。