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従業員は「経営」にどうかかわるか

以前、以下の記事でも書いたとおり、人材版伊藤レポートのひとつの狙いは、人的資本ないし人材戦略についてコーポレートガバナンス・コードの中に位置づけることでした。

日本企業でも「従業員が生き生き働けるように」と従業員の利益を考えた施策が試行錯誤されています。

個人的にも「労働」と「コーポレートガバナンス」の関係には関心があり、機会があれば色々調べていましたが、商事法務様の「会社法コンメンタール」15巻の付録に丁度いい対談記事があり、とても刺激的でした。

今回、この記事も踏まえて従業員が経営の意思決定にどう関与しているかについて書いていきたいと思います。

会社は株主のものか、従業員等ステークホルダーのものか

さて、こうした議論がなされるとき、まず初めに議論されるのは、「会社はだれのものか」という点です。

考え方は大きく2パターンあり、まずは「会社は株主のものである」という「シェアホルダーモデル」を前提とする考え方です。他方で、「会社は従業員や取引先、債権者、地域住民等のステークホルダーのものである」という「ステークホルダーモデル」を前提とする考え方があります。

シェアホルダーモデルの典型であるアメリカでも、昨今ではステークホルダーモデルに寄ってきているという議論もあり、ばっさりと「どっちである」と決め難い議論ではあります。

日本はというと、従来から日本企業は「ステークホルダーモデル」と言われています。これには「株主軽視」という批判的な意味が込められる場合があり、コーポレートガバナンスコード策定以降、(やや乱暴にいえば)株主をより重視すべしという傾向にありました。ただ、日本もまた「やっぱりシェアホルダーも大事だよね」ということで揺り戻しがあったりでなかなか一様ではないところでしょう。

日本の法制度的には「シェアホルダーモデル」

しかし、会社法の仕組みからいうと、法制度的には「シェアホルダーモデル」となっています。

上記のとおり日本は「ステークホルダーモデルだ」と言われてきたわけですが、東京大学の荒木教授の論文等では、日本は 「慣行に依存したステークホルダーモデル」とされており、この点が日本の特徴だといえるでしょう。

制度的にも「ステークホルダーモデル」なのはドイツ

日本と異なり、制度的に「ステークホルダーモデル」を採用しているのは、ドイツであるとされています。
すなわち、ドイツでは、監査役会への従業員代表の参加が必要とされており、企業レベルで従業員が経営の意思決定に関与することになっています(ちなみに、監査役会の役割も日本と違っています)。
また、労働時間、休日等の労働条件を決定にするには、使用者側と従業員側の構成員で構成される事業所委員会の同意が必要とされているようであり、ここでも従業員が(経営ではないですが)労働条件の意思決定に関与することになります(事業所レベルでの従業員の参加)。

荒木教授によれば、企業レベルでの従業員の経営参加については、情報を共有し労使対立を回避するというシンボリック的な意味が強い一方で、事業所レベルでは、企業レベルでの共同決定で得られる経営情報が活かされており、この二つがセットであることに重要な意味があるようです。

人的資本政策への期待

さて、上記のとおり日本はステークホルダーモデルといわれるつつも、ドイツと比べると、それは慣行に異存したものです。
そうした観点からいえば、経営に対する従業員の利益の反映というのは、制度的な担保がなく不安定とも言えるでしょう。
そのようななかで、冒頭述べたとおり、人材版伊藤レポートはコーポレートガバナンスの文脈に人的資本ないし人材戦略を位置づけることを一つの狙いとしています。

今後、こうしたコーポレートガバナンスの観点から人的資本を捉え、戦略と施策が実行されていくことを期待したいところです。

※本稿が今年最後の投稿になります。今年一年、拙い文章をお読みいただきありがとうございました!
来年もたくさんの方に読んでいただけると嬉しいです!



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