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人材版伊藤レポート2.0の公表(人材版伊藤レポート⑥:3つの視点、5つの共通要素とその後のアクション等)

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

ベランダのマリーゴールドが芽吹きました。マリーゴールドの成長が日々の楽しみになっています。

人的資本情報の開示については徐々に具体性を帯びてきています。

今回は人材版伊藤レポート解説の第6回として、人材版伊藤レポートで示した共通要素とそれを具体化した人材版伊藤レポート2.0、その他人材版伊藤レポートが影響を及ぼしたガバナンスコード改定について書いていきます。
今回は、中身の話というよりも、人材版伊藤レポートのその後が中心です。

3つの視点、5つの共通要素

人材版伊藤レポートでは、経営陣、取締役会、投資家のそれぞれの役割を定めています。
そのうえで、これからの環境変化を踏まえ、「今後これらの事項は普遍的に求められるのではないか」という3つの視点と5つの共通要素(3P・5Fモデル)を挙げています。
具体的には、以下です。

<3つの視点>

①経営 戦略と人材戦略の連動
②As is‐To be ギャップの定量把握
③人材戦略の 実行プロセスを通じた企業文化への定着


<5つの共通要素>

①動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活 性化
②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
③リスキル・学び直し
④従業員エンゲージメント
⑤時間や場所にとらわれない働き方


経産省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~」より

人材版伊藤レポートの狙いは、「経営戦略と人材戦略の適合」であり、経営戦略は個社ごとに異なることから、人材戦略も当然異なってくることになります。
そのため、このような普遍的な視点、共通要素を示すことには疑義もあり得るところです(そのため、「人材戦略は経営戦略やビジネスモデルに応じて個社性がある一方で…」と書いています)。

ですが、人材版レポートでは、これからの環境変化を踏まえれば、一定の視点、共通要素を示すことができるのではということで、これらを整理しています。

人材版伊藤レポート(1.0)以降の動き


さて、人材版伊藤レポートの内容の説明はここまでなのですが、人材版伊藤レポートには、「今後のアクションの方向性」という資料が、報告書とは別に示されています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_2.pdf

具体的には以下のような項目が挙げられています。

(1)人材戦略の変革に向けた国内外における機運醸成
(2)人材戦略に関する取締役会の役割の明確化
(3)人材戦略に関する企業と投資家の対話の促進
(4)先進的な取組を行う企業のインセンティブ設計

これは、人材版伊藤レポートは、それだけで完結するものではなく、今後、人材版伊藤レポートを基にして、これを具体化する政策が展開されることを示しています。

コーポレートガバナンス・コード改定

そこで、まず行われたのは、令和3年6月に改定されたコーポレートガバナンス・コードに、「人的資本」や「人材戦略」等が明記されたことです。

https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf

これは、人材版伊藤レポートの取締役会の役割と連動する内容といえるでしょう。

人的資本経営調査

人材版伊藤レポートの後、特に3つの視点、5つの共通要素をさらに具体化するために、人的資本経営に関する調査が行われました。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/survey_summary.pdf

人材版伊藤レポートが示した上記の点について、現状を把握する目的です。
ここでは必ずしもスコアが良いものばかりではないですが、それがまさに「現状だ」ということで認識せざるを得ないでしょう。

人材版伊藤レポート2.0

その後、「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書として、「人材版伊藤レポート2.0」が、令和4年5月13日に公表されました。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

ここでは、3つの視点、5つの共通要素を、上記調査も踏まえてさらに具体化しています。
詳細はレポートをご覧いただければと思いますが、かなり細かい項目レベルにまで落とし込まれています。

人材版伊藤レポート2.0は人材版伊藤レポート(1.0)と併せてみるべき

さて本稿で一番申し上げたいのは、人材版伊藤レポート2.0は人材版伊藤レポート(1.0)と併せてみるべきだという点です。
人材版伊藤レポート2.0は、細かな項目が書かれており、企業の方にとっては、とっつきやすい内容でしょう。
ですが、ここまでお読みいただければお分かりのとおり、これは人材版伊藤レポートが示した内容をより細かくしたもので、本質的な課題意識などは、やはり人材版伊藤レポート(1.0)をよく読んでいただく必要があります。


人材版伊藤レポート解説は、今回でひとまず終わりになります。
今後、人的資本情報の開示項目が具体的示されると思いますので、またこのテーマについては書いていきますので、お読みいただければ嬉しいです。
これまでの解説は以下をご覧ください。

※なお、6月15日発売の「労務事情」(産労総合研究所)から、人的資本に関する私の連載が始まりますので、そちらもご覧ください。


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