2022年振り返り:これからの人事に欠かせない視点とは。
こんにちは。Funleashの志水です。いつもnoteを読んでくださりありがとうございます。
激動の2022年が終わろうとしています。KOL(キーオピニオンリーダー)として定期的にNoteを書き出して早2年。今年もさまざまなテーマで発信してきました。静かに目を閉じて去り行く1年を振り返り、新しい年に向けて思いをはせる。1年の中でももっとも穏やかになれるお気に入りの季節です。
年内最後のNoteは、弊社が実施した先日のセミナーの中での議論を振り返りつつ、そこで得た気づきを書くことにします。人事界隈で話題になったさまざまなテーマ。新しい年に取り組みたいと考えていらっしゃる方のヒントになれば幸いです。
セミナー実施前に今年1年メディアや人事セミナーなどに度々登場したキーワードを整理しました。
セミナー前半では、これらのバズワードの中でも重要なテーマとは?
今年、書籍や人事セミナーなどで幅広い領域で活躍された二人の識者にそれぞれ気になるテーマを選んでもらいました。
心理的安全性の効果を高める
最初のゲストである(株)ビジネスリサーチラボ代表の伊達さんが選んだのは「心理的安全性」。グーグルのアリストテレスというプロジェクトの成果として世の中に一気に広まった概念です。経営や人事の仕事をされている方なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「心理的安全性」とは、平たく言うと「職場の対人関係においてリスクをとっても安全であるとメンバーが感じていること」を指します。
例えば、職場の中やプロジェクトチームの中で 「問題提起ができる」、異論を含めて「自分の意見やアイデアを発言しても拒絶されない」という状態ですね。
皆さんはご自身の職場で遠慮や忖度なく自由に異なる意見を言えますか?
ここで発言するとチームの雰囲気を壊すな、上司から「そんなこともわからないの」と叱られる可能性あるから黙っておいた方がいいな。これは「心理的安全性が担保されてない」状態です。
研究によると、心理的的安全性の高い職場は学習が進む傾向がある、メンバーのパフォーマンスが高い、チーム内で必要な情報が共有される、 エンゲージメントが高いなど多くの効果が明らかになっています。とはいえ、これだけ聞くとふーんという反応かもしれません。
伊達さんは、以下の観点から「心理的安全性」について少し掘り下げて考察すべきだと指摘しています。
心理的安全性は「対人関係性におけるリスク」という背景から、
①職場の人間関係を見直してみる
年功序列や勤続年数の長さなどが影響して、若手や新しく参入したメンバーが自由に発言できない環境がになってないだろうか。上司とメンバーやメンバー全員がフラットな関係であることが、自由な発言を引き出すポイントである。
②上司のマネジメントの方法を再考する
心理的安全性性が高い組織では、上司が自分の「脆弱性」(心の弱さ)をメンバーに見せているという共通点がある。わからないからぜひ教えてほしいとメンバーから学ぶなど謙虚な姿勢が上司に求められる。
③優秀なメンバーだけではなく普通のメンバーの力を引き出す
平均的な能力を持つ普通のメンバーがチームにいたほうがアイデアを出すハードルが下がり、活発な意見がでるなどチーム力の向上が強くなるという研究がある。能力も含めてメンバーの多様性をうまく引き出せばパフォーマンスの高いチームが生まれる。
ここから議論が深まり、「心理的安全性」の効果を高めるためのポイントとして以下が示唆されました。
①上司のリーダーシップの転換
②メンバーの強みや持ち味を引き出す
③チームメンバーの状態を把握して良い人間関係を築く
心理的安全性の高い職場は、厳格な部下の管理、部下を引っ張っていくなどの強いリーダーシップではないということがさまざまな研究でわかっているそうです。
もう一つのポイントは、チームの状態を把握することの重要性。タスク過多でリソースが足りない、納期が切迫しており、猶予がない。絶対に納期までに仕事を完遂させなくてはならない状態において心理的安全性を担保するのは難しいだろうという点がセミナーでは指摘されました。これも上司のマネジメントに関わる点です。
職場で重要な役割を果たしている上司のマネジメントの在り方が限界に達していて、過去に成功したマネジメント方法がもはや通用しなくなっています。世の中がものすごいスピードで変わりつつある先の見えない時代に、上司がすべてを完全把握してメンバーに正解を与えることはできない。
上司という立場にある人は、この事実を受け入れて自分のマネジメント手法やリーダーシップの在り方を今こそ見直し、学び直さなくてはいけないと思います。
グーグルのようにメンバーが超絶優秀という理想のチームは一般的にはありえません。優秀なメンバーもいれば平凡、あるいは少し能力が足りないメンバーがいるかもしれません。メンバー全員の強みや持ち味を生かしてチームの成果を高めるリーダーシップに転換する必要があります。
謙虚で周囲に弱みを見せる「オーセンティック・リーダーシップ」、メンバーひとり一人を理解して強みを引き出す「インクルーシブ・リーダーシップ」に注目が集まっている理由はこういった背景があります。
心理的安全性を高めるリーダーシップについて以前書いたNoteを共有します。
幅広いキャリア自律の考え方
次に「自律」という言葉について議論しました。「主体的に取り組む社員を増やしたい」「社員にもっと自律してほしい」経営者や人事責任者から「自律」というテーマによる講演依頼が増えました。
2人目のゲストである(株)エスノグラファー代表の神谷さんは、特に「キャリア自律」という概念について注目しました。そもそもキャリアという概念には自律という意味合いが含まれていると言う神谷さん。
雇用の保証がない外資ではキャリア自律は自分で創っていこうという意識が社員にある。一方で、日本企業では従来終身雇用が前提であるため、キャリアとは組織の中で上に上がっていく、キャリアが狭い意味で使われていることが大半である。
会社が提供する研修プログラムを受けて、職場でのOJTを経験し、会社が決める定期異動やジョブローテーションに乗っかっていた。
従来の長期雇用を前提とする日本の雇用環境からか、キャリアのオーナーシップは会社が持っていましたが、キャリアを決める主人公を社員に戻さなくてはいけないという背景から、最近になってキャリア自律がさかんに叫ばれるようになったと神谷さんは指摘します。
キャリア自律が高い人材には自分の手でキャリアを作ってくという高いモチベーションに導かれて行動するという特徴があります。
組織内外の有効な情報を集めつつ、社内外のネットワークを活用して、自分のキャリア形成のために投資をするような行動がとれるそうです。会社から言われるから研修に参加するというのではなく、自ら学んで自身の資本を高めていく。
キャリア開発が会社から個人に向かっていることは多くの人が感じていると思います。とはいえ、まだまだ会社主体でのジョブローテーションや定期異動は残っているという矛盾も見られます。
顕著な例は、やはり「組織内部」でのキャリア開発しか視野に入っていない点でしょうか。越境学習やパーパス(個人の存在意義)経営などを語るとき、社員が外部に流出したらどうすればいいのか?といった質問を考えると、経営・人事の考えが従来の雇用慣行のままで、アップデートされていないことがわかります。
本当の意味でのキャリア自律とは、組織内の労働市場で考えるんじゃなくて、外部の労働市場も踏まえて、 幅広い視野を持って社員が自分のキャリア考えていく必要がある。転職や副業も含めて複数の組織に所属しながら、社員自身が自身が楽しい、面白い、やりがいがあると感じるものを起点として、キャリアを創っていく。
前述した「心理的安全性」とも共通しますが、メンバーそれぞれの文化の違いや、家庭の違い、価値観や信念、キャリア観などの「違い」を 認めた上で、個人のニーズを支援していくことが上司や人事に求められます。
会社・チームへの帰属を前提にして、他の組織は見ないでうちのチームのためにだけ貢献してほしい。こういう利己的な思想はメンバーの士気をさげます。自由に発言できる職場になるはずがありません。「信頼関係」が生まれないからです。
皆さんのことをもっと理解したいから、ぜひ教えてほしい。応援するよ。
これからはこういうスタンスが上司や人事に求められる時代が到来しています。皆さんの職場には、自分のやりたい仕事や挑戦したいキャリアについて自由に発言できて、それを応援してくれる人事や上司がいますか?
あるいは皆さん自身もパラダイムシフトできていますか?
視座を上げて人事施策を立体的に考える
セミナー後半では、日本の人事界の第一人者である今野浩一郎先生(学習院大学名誉教授)が特別ゲストとして登壇してくださいました。
今野先生の鋭い指摘により、それまでの議論がぐっと深まりました。
先生の問いかけは以下の通りです。
さらに、こういった指摘もいただきました。
今野先生のお話から浮かんだ問いは以下の通り。
・以前は日本企業にあった「心理的安全性」や「キャリア自律」という概念がまわりまわって現在また脚光を浴びている理由はなんだろうか。
・時代背景(外部環境)や舞台(組織内部)の変化がどのようにこれらの概念に影響しているのだろうか
人事が戦略や施策を考えるときに、目の前の課題解決に注力し、一元的な視野に陥りがちであるということに気づきます。時代背景やその概念が成り立つ状況とそうでない状況や当てはまる人材とそうでない人材など相対比しながら、「立体的に考える」ことで複数の仮説やシナリオを考える必要があるのではないか。今野先生の鋭いご指摘に身震いしました。
新しい時代の人事に欠かせない視点
ここ20年くらい、日本的な経営の在り方が問われるようになりました。
競争力の維持につながっているのか、人々の幸せに繋がっていくのか、社会に変化をもたらせているのか。
日本企業の競争力に陰りが見え始めた90年代くらいから、欧米で流行っている概念を日本企業がぞくぞくと取り入れる動きが起こりました。
新しい概念を取り入れる⇒効果が得られない⇒また別の概念に挑戦する
新しい概念やプロダクトを導入させたいコンサル・人材サービス会社の営業の口車に乗せられてが自社の課題を解決してくれる魔法の杖だと信じて導入させたものの、現場に混乱を招き、組織のあちこちに残骸が残っているなんてことがあちこちで起こっています。
今回のセミナーを終えてあらためて私自身が感じたことです。
・人事の施策を考えるときには、流行っている概念に飛びつくのではなく、目線を上げて俯瞰して「本当に適切なのか」「それが有効なのはどういう条件が必要なのか」という批判的な思考を持つ。
・経済の状況や時代の流れ、文化的な要素と絡めながら、自社の組織をつくっている文化や人材を丁寧に紐解いて「「自社にとって最も適切なものは何か」を見つける
・人事こそ、転職や副業を通して組織の外に飛び出してみる。「組織への帰属」を前提とした思想で、戦略や施策を考えるために矛盾が生まれて、その結果、本当の意味で社員との信頼関係が構築できない。
人事が生まれて約100年。経済が疲弊した80年代の米国では人事が大きな転換を迎え、経営が大きく変化しました。そのときと同じような状態の日本にいて、今こそ日本の人事が変わる最大のチャンスなのかもしれません。
「未来の人事を創るのは君たち実務家の役目だぞ」という今野先生の言葉を耳に残っています。新しい年に挑戦したいことの作戦を考えましょう。