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弱みだらけの不完全なリーダーたち-本物のオーセンティック・リーダーシップについて

こんにちはFunleashの志水です。
前回のNoteで" The power of vulnerability" (心のもろさ)について書いたところ、静かに反響があり、直接たくさんのフィードバックをいただきました。ありがとうございました。嬉しかったです。

前回のNoteに関していただいたコメントの中からいくつかご紹介します。

・以前は、本来の自分より良く見せたいと思い、自分を偽って無理していました。自分の弱さを見せれるようになってから周囲の人が助けてくれるようになったのでとても共感しました。(経営者)
・組織の上になればなるほど弱みを見せてはいけないと考えてしまいがちです。特にその分野で先頭を走っていると自負がある人たちにはかなり難しいと思います(企業の部門長クラスの方)
・Breneさんのプレゼン初めて知りました。たくさんの示唆があったので私の研修にも取り入れたいと思います!(人材関係の仕事をされている方)

「弱み」を見せることはかなり勇気がいると思います。一方で「ありのまま」の姿を見せることは、確実に周囲からの信頼や支援が高まります。
これは私自身も経験しています。ダメダメな志水をほっとけない!彼女の弱点をカバーせねば!権限移譲せずとも部下や同僚が自然と私を助けてくれるようになりました。お互いに助けあいが生まれてチームの業績も向上します。

下の記事を見ると、ビジネスだけでなく、スポーツも変わってきているのだと感じました。弱みは恥ではありません。

さて、いただいたコメントの中に「オーセンティック・リーダシップ(偽りのない本物の)リーダーシップについて詳しく知りたいという声がありました。

前回のNoteでは詳しく書ききれなかったので少し説明をし、具体的にどんなことなのかについて書いてみようと思います。(私が講師を務めるファンリーシュ・アカデミアではオーセンティック・リーダーシップにフォーカスしているのでもしご興味がある方はこちらを。第3期は11月開講)

オーセンティック・リーダーシップは単なる自分らしさではない

学問としてのリーダーシップの歴史は長く、実は1930年代くらいから研究が行われています。
学者によってリーダーシップの定義はさまざまですが、一般的には、与えられた環境で人や集団に「影響を及ぼす」プロセスや能力のことを指しています。(ここについて書きだすと膨大な量になるため、早稲田大学、入山先生の世界標準の経営理論をご覧ください)
一つだけ確実に言えることは、時代によって求められるリーダシップ理論やリーダー像がどんどん変化していることです。

オーセンティック・リーダーシップは、メドトロニック・インクの前CEOでハーバード・ビジネス・スクール教授のビル・ジョージが2003年に提唱しました。

オーセンティック(authentic)とは「その人本来の在り方」を表すオーセンティシティ(authenticity)という言葉に由来しています。その人が持つ「真正なもの、持ち味」といったものが一貫して発揮されている状態が「オーセンティック」だといえます。

オーセンティック・リーダーシップという言葉が欧米で使われるようになったのは約10年前と比較的新しい概念です。先進的な企業の研修などに取り入れられることで、従来とは大きく異なるリーダシップ論だと注目を浴びるようになりました。

実はこの概念ができたきっかけは、2000年に米国でおきた大企業の不正会計事件です。2001年にはエンロン社、2002年にはワールドコム社。それぞれ巨額の粉飾決算を露呈したことにより、経営破綻に追い込まれました。

カリスマ性のある独裁的なリーダーに権力が集中するとどんなことが起こるでしょう?パワハラ、不正・隠蔽、差別・・日本でも同様のケースがあったので想像できます。圧倒的な業績を出す完全無敵のリーダーには周囲も恐れて指摘できないため、組織が危険な状況におとしられる。その代償はあまりにも大きすぎます。

これがオーセンティック・リーダーシップが生まれた背景なのです。

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「オーセンティック・リーダーシップとは自分らしさを基本としたリーダーシップのこと」だと解説しているサイトを見かけますがこれはちょっと違います。
自分らしさ=好き勝手にやってもよいと勝手に解釈し、これが自分らしさなんだから受け入れない周りが悪いなどと勘違いする人もいるので注意が必要です。

提唱者のビル・ジョージはオーセンティックなリーダーには次のような特徴があると述べています。

・自らの確固たる信念や価値観に従って行動する
・目的を達成するための情熱を持っている
・他者に対する思いやりを持ち、時には果敢な決断ができる
・謙虚な学習者であり、成長のために継続的な努力をする
・高潔な品性と高い倫理観、自己統制力を持っている

高い倫理観を持ち、自分の中に根差している価値観に従って言動を一致させるという点が重要なのです。
強みも弱みも周囲にオープンにさらけ出し、周りに支援を求められる。誠実さを忘れない。だからこそ、周りから信頼を得られるのです。
単なる「自分らしさ」だけではないことを強調しておきます。(立教大学の中原先生のブログにも登場しています)

私が出会った弱みだらけのリーダーたち

私が長年勤めた組織には「オーセンティック・リーダー」がたくさんいました。自分のキャリアの中で最も誇れることは、尊敬できる彼らと出会えたこと。そして彼らと共に目標を(失敗も成功も経験し)成し遂げたことです。それぞれリーダーのスタイルはかなり異なりましたが、「情熱がある」「人を大切にする」「自らの目的を持っている」という共通点がありました。

もちろん最初から彼ら全員が優れたリーダーではありませんでした。どちらかというと、自分が不完全であることを認めたがらないタイプの人ばかり。高い業績を出し続けているという自負があるため自信に満ち溢れた強いリーダーでした。(外資はこのタイプが多いです)
けれども、想像を超える逆境や挫折に遭遇し、それらを乗り越える過程で、周囲から援助をもらいつつ、自分の弱みと向き合い、さらけだせるようになったのです。

たとえばこんなことが彼らの試練として挙げられます。

・業績を達成してもなかなか部下から信頼されない
・信頼していた身近な部下が前触れもなく突然退職する
・他部門の協力を得られずやりたいことが達成できない
・環境や戦略の変更により、正しいと信じて取り組んでいたことが頓挫する

リーダーは孤独であるゆえに周りを頼れず、一人で悩み苦しみます。部下に弱みを見せることは恥だと刷り込まれています。それでも人事のパートナーである私には誰にも見せない弱い姿を見せてくれました。それゆえに全力で、全身全霊で支援し、心の弱みをみせて周りから支援をもらうことを言い続けました。

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ある時、当時のB社長が朝一番で私のところに来て英語でまくしたてるのです。感情的になると私のモノを蹴とばす癖がある彼は、いつも以上にキャビネに当たり散らしました。(人前では絶対にしないのですが)

本社のCEOから彼の留守番電話にメッセージが残っていたと激高しています。
直近の米国の業績が予想を下回ったため、開催される予定だったグローバルのリーダーシップ・カンファレンスを中止とする。米国以外は各国で開催せよとの指示でした。

「直接言わないのはやましいからだ。なんて卑怯者なんだ!僕はすでに開催するから君たちも楽しみにしていてくれと部下に伝えている。とても興奮して喜んでいる彼らを騙すことになる。彼らの信頼を裏切ってしまう。
今から電話してCEOの決断を覆してやる。これでクビになるなら望むところだ。君も同席してくれ。」

私から伝えたのはシンプルなメッセージです。

部下から信頼されること、約束を果たすことがあなたにとってとても重要なのは理解してる。だから腹を立てる気持ちもよくわかる。でもそのことでCEOと揉めてクビになるのはどうかな。大切にしてる部下たちは本当に喜ぶの?そのことが理由で会社を去るあなたの姿を見たら、彼らはどう感じるのかしら?開催できなくなったことを正直に伝えて謝罪してみてはどうかな?理解してくれると思う。彼らの信頼を失うことはないはず。彼らのことを大切にしてるのは日々の行動で伝わっているからね。国内でやるのなら、予算の決定権はあなたにあるわけだから、むしろ自由にできるし。この際、予算を使いきって飛び切りクールでクリエイティブなイベントをやることを考えてみない?成功するよう全力を尽くしてお手伝いするから。とにかく今は感情的になっているから、CEOとは話さないほうがいい。まずは外にでてコーヒーで飲んで頭を冷やしてきて」

数時間スタバで過ごした彼が戻ってきました。カッとなって八つ当たりしたことを丁寧にお詫びしました。

「よく考えてみたよ。君のいう通りだから、今日は話すのをやめておく。その代わり、僕たちがやるイベントには口は挟ませないよ。この組織で働いて本当によかったと社員が思ってくれる最高のカンファレンスにしたい。僕のダンスからスタートするからね。一緒に企画してほしい。急にワクワクしてきたよ・・」

これ実話です。現在彼は、グローバル企業の副社長です。まあ、こんな出来事が毎日のように繰り広げられました。個性的なリーダーたちとのエピソードはありすぎて全部を紹介できないのが残念です。

良いリーダーになろうと必死でもがくリーダーたち。
彼らは自分の大切にしている価値観や規範に従って行動します。伝えるべきことは堂々と伝え、時には感情を爆発させます(笑)自分の価値観や信念は貫くものの、周囲から助けをえることは恥ではない。時には自分の弱さや不完全さを見せることも必要である。
率直、そして誠実に周囲に向き合うことが信頼や支援につながることを、たくさんの失敗やミスから学んでいました。

そんな不完全で弱みだらけのリーダーたちを心から尊敬していました。

強みも弱点も含めその存在をまるごと受け止める
その人の価値観や信念を心からリスペクトする
倫理・道徳に反することは全力で対峙する
その人が持っている長所を最大限に引きのばす

「オーセンティック・リーダーシップ」を体現するリーダーを組織で増やすために私が人事責任者として常に心がけていたことです。

最後に。リーダーシップは肩書や年齢とはまったく関係ありません。誰かの真似をしたり、背伸びをせず、誠実な態度で信念を貫く姿に周りの人は動かされます。

リーダーシップの旅はこれから一生続く。あなたも私も。

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