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【学び直し】東京藝大(先端)での修士1年目のカリキュラムを振り返ってみた

修羅場だった東京藝大での社会人修士1年目も無事に終了し、悠々自適の春休みに突入しました。
このタイミングで自分のための整理もかねて、大学院で取り組んだ1年間のカリキュラムを思い出せる限り書いてみるという狂気じみた行いに取り組んでみます。

【注意】基本的にすべてがいち学生としての経験からのざっくりした説明なので、公的なカリキュラム説明ではないことご承知おきください。


1年間のカリキュラム

入学〜5月末ぐらいのことまではこちらにまとまっています。入学してすぐのオリエンテーションで「修士の新入生は、再来週からみんなで展示しましょう。自己紹介も兼ねて」はビビりました。
それにしても、この頃は全てが新鮮だった……。

【5〜7月】共通レクチャー

藝大先端の卒業生を中心に、様々な分野で表現活動に携わっているゲストが毎週3時間のレクチャーを行ってくださる必修授業。いろんな表現手法、生き方、テーマ性に触れて、さらに毎回の同期との議論・レポートを通して自分が興味を持ちうるテーマのスコープが広がった感覚がありました。

個人的に、山城知佳子先生の招聘でいらっしゃった編集者の安東嵩史さんの授業で、自分の先祖のルーツのひとつだった「ハワイ移民」について考えるきっかけになったり、早稲田での学部時代に調べていた監視社会論やノイズ排除といった興味分野が、実は近代社会の価値観の根底を成すものだということが繋がったのが結構大きな発見になりました。

【6〜7月】レキシコン

美術ジャーナリスト・藤原えりみ先生の引率・解説のもと、同期たちとゾロゾロと色々な博物館を訪れ、美術や表現の長い歴史から現在の自分につながる文脈を掘り起こすプログラム。単純に、美術全般に広いご見識を持つ藤原先生の解説で、いろいろな時代の表現を見れるのが超贅沢でした。

これまでメディアアートという比較的新しい表現分野を対象としていたこともあり、古美術の分野についてはかなり疎かったのですが、その中にも現在を生きる自分の感性と共鳴するものが見い出せたり、戦争画などプロパガンダに美術家が従事した時代の絵画から我が身を振り返ったりと有意義でした。

余談ですが、今年に開催された油画科の小林正人先生の退官トークで、「歴史に背中を押される」という感覚についてお話されていたのを思い出しました。自分はまだその感覚に至っていないですが、歴史との向き合い方としてそういった感覚をインストールできるように今後も自主的に歴史を掘り起こす活動はやっていこうと思います。


【4〜7月】ドローイング演習

選択授業として苦手分野にも関わらず履修したドローイング演習も、なんとか最後まで完走できました。悪戦苦闘しながらも「描く」という、アーティストとしての基礎力に向き合い、色々な初期衝動のようなものを思い出す不思議な時間でした。

最終課題のアートブック制作が意外と面白くて、こういった「情報と物質の狭間」みたいなものづくりは今後色々と展開したいなと思うなど。今作りたいものは、ディストピアのヤギ教団のバイブルです。

【7月・番外編】ゼミ合宿@鴨川

前期の終わりに小沢ゼミの合宿で千葉県の鴨川にも行きました。毎年、夏といえばクーラーの効いた涼しい室内にこもって仕事しかしてなかったので、炎天下のなか屋外作業したり、クーラーの付いていない古民家に宿泊したりする体験はかなり新鮮ながらハード。しかしこれほどまで自然の解像度の高い日々は稀有で、充実の合宿でした。楽しかった。

あと思えば集団行動が超絶苦手なので「合宿・・・!?」とおののいていたのですが、小沢研合宿はマイペースな人々の集団なので逆に居心地が良かったです。合宿のレポートも結構気合いを入れて書いたので、どこかで公開したい。

ちなみに小沢研、夏休みもさらに合宿がありました。研究室主催の「ヤギの目ビエンナーレ」に向けた企画・制作合宿なのですが、自分はビエンナーレ出展しないこともあり、会議したり飯をつくって食った記憶しかない・・・(これはこれで楽しかった)

【9月・番外編】藝祭アートマーケット

大学院は8月〜9月と長い夏休みがあるのですが、藝祭アートマーケットに出展する同期の子たちにお誘いいただき、便乗して私もお店に参加させてもらいました。

結果、予想以上の売上になって驚きだったのですが、何より久しぶりの学生としての夏の良い思い出になりました(学生気分で藝祭楽しめたのでよかった、よく考えたら美大芸大の現役学生として初めての学祭だったし)。

アートマーケット撤収後、日暮里のサイゼに同期と集合し、みんなで商売人モードで札束を数えたのも楽しかったです。
藝祭で稼いだ札束とともに、翌週からホクホクしながら一週間ほど京都滞在した記憶があります。これも良い思い出。

【9〜10月】Alive展

おそらく修士1年の山場になったのがこちらのAlive展のカリキュラム(例年はアトラス展という名称で開催)。大学院に入ってから色々と考えたことの中間発表として、すべての学生が新作の制作発表を求められます。お手並み拝見感。

修士1年+博士の合同展なのですが、修士学生は作品展示だけではなく展示運営もやることになり、これがなかなかヘビーでした。修士1年のカリキュラムで一番大変だった・・・。自分は広報班リーダーをやってみたのですが、かなり業務が多い立場だったことが担当してからわかりました😇(社会人にはおすすめしないぞ!)
しかしよく考えたらこれが同級生同士でのはじめてのガッツリとした協業でもあるので、みんなの人となりや仕事ぶりがわかったりで、良い思い出になったかもしれません。

学生の要望により、先端の教授・准教授の先生方全員ひとりずつから展示講評を受けられる仕組みにしていただいたのですが、実はこれが人生初の展示講評(卒制とかの講評する側はあれど、講評受けるのは初めてだった)だったので、独特の緊張感ありました。でも稀有な体験でありがたかった。自分のクセに気づけたり、色々なリファレンスも教えていただけました。

余談ですが、人生初の学生としての講評が終わってからそのままシンガポールの美術館で始まる展覧会のオープニングに出席するため飛行機でシンガポールに直行し、そのまま寝ずに朝から現地で記者ツアーに対応するやばいスケジュールになり、ゾンビになりました。体力限界突破。

顔がゾンビになりながら不眠で記者発表会に参加した現場

【11月】V.A.(ヴィジティング・アーティスト演習)

展示が終了したら次はすぐに「V.A.(ヴィジティング・アーティスト演習)」というカリキュラムに。ゲストの投票選定、リサーチや企画書づくり、司会なども学生たちで担当するのですが、学生リーダーというのを調子に乗ってゼミの同期と一緒に手をあげてしまい、当日の司会やゲストの先生の送迎なども担当することになりました(トークの仕事で慣れてるし、と思っていたが、予想以上に緊張した)

我々の代は学生投票により、「ラブホテル進化論」を執筆された金益見さんをゲストにお迎えしたのですが、当日素晴らしい講義を展開してくださって感動した記憶が・・・。リサーチのプロセスで、日本におけるラブホテル文化のことも少しだけ詳しくなり、人間の根源的な欲望が時代に応じて適応・カンブリア爆発していく様子が見て取れ、興味深かったです。

先生方がアサインされた他ゲストも、小説家の平野啓一郎さん、写真家の長島有里枝さん、また学生投票によるもう一人のゲストとして芸術人類学者の中島智さんと豪華でした。

(上記の、↑「自己の無意識を管理統制する手綱を〜」という感想書いた学生は自分でした)

【10〜12月】映像演習(聴講)

山城知佳子先生の「映像演習」をずっと聴講したかったので後期からようやく合流。後期は講師としてプロの照明家である山本圭太先生をお招きしての照明・光がメインテーマだったのですが、ものすごく実践的で興味深い内容でした。作家として、現場で即戦力で使える知識が多かった。

そしてなんと、11月に東京都現代美術館での展示の設営現場に行ったら、この授業の講師の山本先生が現場の照明担当・・・!
実践編で現場でも勉強でき、展示の照明もバキバキに仕上げていただき、一挙両得でした。

【11月・番外編】ヤギの目ビエンナーレ(ゼミ活動)

所属先の小沢剛ゼミが主催した「ヤギの目ビエンナーレ」、自分は仕事の現場の佳境が重なってしまい出展作家として展示はしなかったのですが、トークイベント「ヤギの目で世界を捉えなおす」を企画・開催しました。当日は司会進行を担当したのですが、蓋をあけてみたら盛況となり嬉しかったです。

【12月】FOOD CAMP

修士1年目の最後のグループワークとして、FOOD CAMPというカリキュラムに取り組みました。取手校地を舞台に、食に関して自由にテーマを設定してリサーチと実食を行うのですが、我々の班は「宗教・儀式」を主軸にした食のあり方をみんなで考えた結果、以下のような異常なアウトプットとなりました。

食べ物だけでなく、地味に空間・祭壇・宗教具・装身具・ヘアメイクなどみんなで得意分野を持ち寄りながら総合的に食の儀式を作り上げました。評判良かった気がする(ビジュアル的には黒歴史だが)。

【1月】学年末課題・学年末プレゼンテーション

修士1年の最後に、この1年間を踏まえて修了制作において何を実現したいのか、を小論文やドローイングにまとめました(提出が正月三が日なので、新年早々に実家で修羅場を迎えた)

また、さらにその内容を5分間のプレゼンテーションにまとめて、先生方や同期に発表する会もありました。ここで同期のみんなの制作プランを見るのがかなり色々とヒントや刺激になりました。

自分の修了制作テーマは以下。バチバチに気合いいれて制作する予定ですのでご期待ください!

【2月・番外編】東京都現代美術館でゼミの先生とアーティストトーク

さらに春休みの番外編として、東京都現代美術館での参加中の展覧会「MOTアニュアル2023」の関連事業として、ゼミの指導教官の小沢剛先生をお招きして修了制作について制作指導をいただいたり人生相談したりする様子をトークイベントとして公開しました。
「世界の小沢剛先生の無駄遣いではないか」と戦々恐々としつつ、ゼミの学生のわがままにお付き合いいただき、お忙しいなかご出演いただいた小沢先生に心より感謝です。

1年通しての感想

それにしても1年間のカリキュラムを書き出すとバタバタで、「仕事しながらよくやったな」と我ながらビビります(これとは別に、いつも通り国内外での展覧会、講演業、メディア出演、行政の大規模案件のディレクションなどが走っていた)

ただ、どれもわざわざ大学院に入らないと体験しなかったであろう経験だったので、この1年は本当に「体験が濃かった」という印象です。
(入学時期としてもちょうどコロナがあけた年で、それもあって体験がより濃かったように思います。入学年の同期もみんな面白かったし、なんだかんだで人生においてベストなタイミングでの入学だった気がする)

カリキュラムについて

藝大先端の修士、「作家の自分探しプログラム」的な側面が強いので、どのフェーズの作家が入り直しても何気に学べることや気付くことがある気がします(実技特訓というより、本当に自分探しの1年だった)

修士1年目の最後の修了作品の企画プレゼンで、先生から「ディストピアという題材について、単純にファンタジーだけだったらあんまり題材が入ってこなかったけど、市原さんのご先祖の話とかが加わることで、現実味を持ってスッと入ってくるようになった」とフィードバックをいただき、
自分のルーツや先祖といった要素にスポットを当てることはおそらく大学院でそういったテーマ性に出会わない限りは絶対になかったと思うので、新しい切り口・表現のテーマとたくさん出会う機会を豊富にもらえた1年間のカリキュラムの醍醐味や成果を感じた瞬間でした。

1年間本当にいろいろなことがありましたが、すでに満足です!(やはり、自分のなかで色々と価値観の転換や感性の醸成があったのを感じる)
残りの1年は実技の習得に励みつつ、修了制作においては自分の新機軸になるような大作を完成させたいと思います。

文:市原えつこ
アーティスト。1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、フリーランスに。
日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品で文化庁メディア芸術祭優秀賞、アルスエレクトロニカで栄誉賞を受賞。2025大阪・関西万博「日本館基本構想事業」クリエイター。近年の主な展覧会に「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館)、「New Eden」(Art Science Museum、シンガポール)等。現在、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻に在学中。

https://etsuko-ichihara.com/

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市原えつこ(アーティスト)
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