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心理的安全性は双方向 〜パワーバランスを整えよう
お疲れさまです、メタバースクリエイターズ若宮です。
今日も組織の話を書きたいと思います。「心理的安全性」についてのお話です。
フラットなチームワークのためには「心理的安全性」が必要
前回の記事で、「選手同士のコーチング」について書きました。
サッカーでは試合中選手たちは常に声を掛け合っていますよね。個人のプレイヤーが一人称の視野だけでは見えていないことを補完するために「右スペース!」とか「後ろから来てるよ!」など、声かけが重要です。これを選手同士の「コーチング」と言います。
個々人がボールを進める意識を持つことは大事ですが、それが行き過ぎて無理な場面でも一人で突破しようとしたり、ボールを持ちすぎて潰されてしまっては意味がありません(それはスタンドプレーです)。せっかくチームでやっているのですから適切にヘルプを求め、チームとして連携してプレイすることが大事。
チームとしてボールを前に進めるために、「声を掛け合う」ということなのですが、「選手同士のコーチング」を円滑・活発にするためには「心理的安全性」が必要になります。お互いに自由に意見を言える環境があることで、チーム全体のパフォーマンスが向上するわけですね。
Googleが研究によると、能力の高い個人がいるかどうかよりも、心理的安全性の高いチームの方がパフォーマンスが良いことが分かっています。
彼らは会社を良くしようとする活動の一環として、社内でもっともパフォーマンスの高いチームとパフォーマンスの低いチームとの違いを分析した。構成メンバーの優秀さが決め手になるだろうという予想に反し、実際にはそのような結果にはならなかった。もっとも重要な要素はチームメンバーがどうやってお互いに接しているかであった。
ミーティングは発言しやすい環境なのか、間違いをオープンに話せる雰囲気になっているのか、臆せずに質問や発言をできるようになっているのか。グーグルはこうした基準をもとに心理的安全性という名前をつけ、分析結果を公にした。
このコンセプトの推進者は、ハーバード大学ビジネススクールのエイミー・エドモンソン氏だ。グーグルは彼女の研究を参照していた。彼女による定義はこうだ。「そのグループのなかではリスクをとっても安全であるということをチームメンバーが共通に信じている状態。また発言しても恥をかかせられたり、拒否されたり、懲罰されたりすることはないという自信でもある」
そして「心理的安全性」は双方向のものとして考えるべき、この記事で言いたいポイントです。
下から上への「心理的安全性」
「心理的安全性」は、お互いに自由に意見を言い合える環境のことですが、よくある誤解として「批判的なことを言ってはいけない」と一面的に捉えて、「なんでも肯定」みたいな感じになるのは間違いです。
それは逆に、意見を言わずに飲み込んでしまっているので、むしろ心理的安全性が低い状態になってしまいます。家族とかでもそうですが、簡単には関係が壊れない、という信頼関係があるからこそ厳しいことを言い合ったり本音でぶつかれるのです。
「心理的安全性」については、特に日本では目上の人に意見を言えないことが問題視されることが多いと思います。失敗を報告したり異論を唱えると怒鳴られる、みたいな環境では上司に反対意見を唱えることができません。
やがて部下は上司の顔色を伺って忖度し、自分の意見を控え、「イエスマン」ばかりが増えてしまうとトップが「裸の王様」と化し、組織全体が誤った方向に進んでしまうこともあります。組織としての自浄作用が働かなくなった結果、どうしてもっと早く止められなかったのか、気づかなかったのか、というような大きな事故や不祥事が起こってしまう。
また、「心理的安全性」の低さはハラスメントの温床にもなります。上司が部下に対して不用意な発言をしても、部下がそれを指摘できない環境が「ハラスメント」を生み、エスカレートさせます。
ハラスメントをする上司の側が、「悪気はなかった」とか「好意を伝えただけ」と言ったりしますが、たとえそうだったとしても、部下が立場的にそれを断ることができなければ、それはハラスメントになってしまいます。なので特に権力を持つ側の人は、自分の発言や行動に対し、部下がきちんと断りや反論をいうことができる「心理的安全性」を心がける必要があるでしょう。
上から下への「心理的安全性」
「心理的安全性」が担保されない環境では「下から上」のコミュニケーションの阻害が問題視されますが、実は「上から下」のコミュニケーションにとっても阻害要因になると思っています。
「下が言えない」というケースの方が相対的には多い(単純に上司より部下の数の方が多いせいもあり)とは思いますが、心理的安全性が低いと「上も本音を言えない」ということが起こります。
前回の記事に続きサッカーに例えてみましょう。
たとえばプロ選手が幼稚園児と一緒に試合としているのをイメージしてみてください。この時プロ選手は全力でプレーすることはできません。もし本気でプレーすれば、幼稚園児に怪我をさせてしまう可能性があるからです。
相手のパワーのほうが強い場合だけでなく、相手のパワーが弱い場合にも遠慮が生じてしまい、本音が言えない。
「Z世代の新入社員は少し注意しただけですぐに辞める」といった話もよく聞きます。事実なのかはよくわかりませんが、上司が何か指摘すると部下がすぐに傷ついてしまう、辞めてしまう、としたら上司の側は本音をいうことができないでしょう。
部下の成長や組織の成果のために必要なフィードバックであっても、相手が傷つき安すぎて指摘することができなくなり、腫れ物に触るように躊躇したり、なあなあで見過ごすようになれば組織としてパフォーマンスはあがりません。
「心理的安全性」のためのパワーバランス
「心理的安全性」を高めるためにはどうすればよいのでしょうか?
僕は一つ、「パワーバランス」を適切に保つことが重要だと思っています。
「下から上」であれ「上から下」であれパワーバランスに大きな偏りがあると、どちらも本音のコミュニケーションができません。「間違いをオープンに話せる」「臆せずに質問や発言をできる」ためには、きちんと両者のパワーバランスが拮抗していることが重要です。
これはプロのスポーツ選手が子どもと対戦するときに、ハンデをつけることでお互いが全力で楽しめるようにするのと同じようなもので、パワーバランスを拮抗に近づける工夫ができると思います。
例えば、会議では相対的に立場の弱い人をエンパワーするために多くの発言機会を与えたり、逆にパワーが強い人の声が大きくなりすぎないよう「コミュニケーションのある種のハンデ」を設けたりするとバランスが整うかもしれません。
また、育成も大事です。
新入社員は元々いるメンバーと比べると経験も浅くどうしてもパワーが弱いものです。そういうメンバーがいる時には無意識にチーム全体に遠慮が生まれ、少し力を抜くような状態になったりします。新入社員にもスキルが身につき、対等に話ができるようになってくると、チーム内でも本音で意見がぶつけ合えるようになり全体のパフォーマンスが高まる、という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
グーグルの「心理的安全性」にも因果が逆で、そもそもパワーが拮抗したメンバーがそろっているからこそ心理的安全性が高く、パフォーマンスも高い、というところもあるかもしれません。
ジェンダーのことなど、社会や組織ではまだまだパワーバランスの非対称性が存在します。それは相対的弱者である女性にとっても望ましくありませんが、相対的強者である男性にとっても「本音が言えない」状況になってしまっているかもしれません。
ジェンダーバランスというのは女性の味方をする、とかそういうことではなく、お互いに本音を言い合える一緒のチームとしてパフォーマンスを最大化できるために、パワーバランスをみんなで是正していけるとよいなあと思っています。