「お金とは何か」を問う
MMTという新しい貨幣理論について別稿で書きました。
https://comemo.nikkei.com/n/n689d2e00c1de
この議論は「お金とは何か」という本質的な議論に繋がります。MMTという理論から導かれる政策の是非は一旦おいて、それ以上に大事な議論が「お金とは何か」だと思います。加えて、この議論は「経済成長とは何か」という議論にも直結します。上記の議論を考えているときに、この重要な点についても、従来私が考えていたイメージと本質はかなり違うという理解に至りましたでの、これを共有したいと思います。
結論からいうと「経済成長とは借金がどれだけ増えるか」であるということです。
経済活動では、法人や個人の間で貨幣をやりとりします。これは、実は、個人や法人間で貨幣の配分を変えているだけで、お金の総量は一円も増やしていません。いくら利益を出しても、実は、それだけでは経済成長に一円も貢献していないのです。ただお金の分配を変えているだけです。
経済を成長させるためには、貨幣の総量を増やす必要があります。
このための社会的な機関が「銀行」です。銀行は「融資」という形(借り手から見ると「借り入れ」という形)で貨幣を生み出します。借り入れが生じた瞬間に、預金通帳にお金が発生する訳です(お金の大部分は現金ではなく、預金の形になっています)。この融資/借り入れにあたり、どこかの通帳や現金を減らす必要はありません。純粋に借り入れ/融資によって、お金は発生し、純増するのです(この時、借用書とまだ実体化していない「信用」も同時に生まれます)。
企業や個人による経済活動とは、表面上で単純化すれば、この(1)「借り入れ」による貨幣の発生と、(2)デフォルト(貸し倒れ)による貨幣の消滅と、(3)法人、個人間での貨幣の再分配、しかありません。
そして「経済成長とは借金を増やすことで、貨幣を増やすこと」であるわけです。
ところが、多くの企業人の素朴な理解は「経済成長とは利益を増やすこと」と思っているのではないでしょうか。突き詰めると、利益を増やすことは、経済成長とは直接は関係なく、単に、自分の取り分を増やし、他の人の持ち分を減らして貨幣を再配分させただけです(もちろん間接的には、利益を出すことはデフォルトを避けて「信用を実体化する」意味があります)。
つまるところ経済成長と直接関係しているのは借金を増やすことです。だから、貨幣価値で表現できる価値(経済価値)の総量を、社会全体で増やすには、借金を増やさなければいけない訳です。
これはおそらく金融の関係者には当たり前のことをいっているだけかもしれません。
しかし、ほとんどの社会人には、「借金は悪いこと」という認識があるので、これはコペルニクス的な転回なのではないかと思うのです。われわれ社会人は一人一人、どうしたら借金を増やせるかを真剣に考える必要があるのです。