メタバースのフェーズについての見立て 〜メタバースで押さえたいポイント⑥
お疲れさまです。メタバースクリエイターズ若宮です。
今日は「メタバースのフェーズ」について個人的な見立てを書いてみます。
メタバースの「フェーズ」
これはメタバースに限らないことなのですが、新しいコンテンツプラットフォームやインフラによって、新しい情報空間が出来た時、それが広がる過程でフェーズが変化していきます。
初回の記事でも描いたように、メタバースは「ガートナーのハイプサイクル」にいう「過度な期待」の時期の後、幻滅期を終え、ここから実態として成長していくフェーズにあります。
弊社でも企業からメタバース活用についてご相談をいただく機会も増えてきているのですが、企業でのメタバースの活用については、フェーズごとにその機会が変わると思っています。
①メタバースのフェーズの第1段階:専門家の概念論
メタバースに限らず、コンテンツプラットフォームや情報空間の初期には、ビジネスユースの試みが成功しないことが多い気がしています。
ざっくりいうと、ここがガートナーのハイプサイクルの「過度な期待」の時期に対応していると思っています。この時期には「テクノロジー」の「目新しさ」に多くの注目が集まり、メディアの報道や企業の参入が一過性的に加熱します。
これが第一フェーズで、僕はこれを「専門家の概念論」に注目があつまる段階だとみています。賢い「専門家」たちはテクノロジーの「革新性」を強調するため、しばしばその可能性を実用性を超えていささか誇大に喧伝します。企業のR&DやCEATECなどでよくみるような「2050年のくらし」みたいな、ちょっと地に足がついていない感じをイメージしていただくとよいかもしれません。
②メタバースのフェーズの第2段階:専門家の概念論
第1フェーズの「夢想」が「過度な期待」だったことがわかると、急速に世間の関心が下がっていきます。そして期待の反動で、「メタバースは死んだ」等と言われます。
この時期に増えたり減ったりするのは「賢い大人」たちかもしれません。実用的な期待をもっていたビジネス大人はここでいったんいなくなりますが、実態としてそのプラットフォームのユーザーが減るわけではありません。
着実に増える一般の実ユーザー(住民)たちによって、この時期には「実用性」のあまりない、いわば「素人コンテンツ」が増えます。インターネットの初期も、まずは個人テキストサイトやホームページ・ビルダーでサイトを作り、設置したカウンターで訪問者の数を確認してニヤニヤしているような時代がありました。
個人的にはこのフェーズが一番面白いと思っているのですが、「実用性」や「有用性」ではなく、個人ユーザーが新しい遊び方を模索し、コンテンツを生み出す玉石混交のカオスから、熱量が生まれ、「居場所」になっていきます。VRChatなどはまさにこのフェーズです。
ただし、「素人」フェーズは実は盛り上がってはいても「マネタイズができない」タイミングでもあります。だからこそ「ビジネス大人」からみると「期待はずれ」になるわけですね。
しかし、この「素人コンテンツのカオス」こそが第3フェーズへの種火になります。
③メタバースのフェーズ、第3段階:プロコンテンツ・ブースト
第2フェーズは、一部の個人が趣味で楽しんでいるだけで、経済圏がそれだけでは生まれにくいところがあります。個人がサイトを作成してそれがバズっても、すぐに直接収入を生むわけではありません。
しかし、そうした活動が盛り上がりを見せ居場所としてユーザーが定着すると、そこに企業が参入する第3フェーズに移行します。
ただし、第3フェーズの企業コンテンツはあまり実用的なものでは無い、というところがポイントだと思っています。第2フェーズで一部のユーザーからボトムアップで生まれた「狂った」コンテンツや新しいカルチャーに注目し、資金を投じて良質なコンテンツをつくり始めます。
第2段階で生まれた「カオス」からのブーストな感じです。
そしてこの企業の参画により、ユーザー層が広がります。第3フェーズでは、第2フェーズよりもクオリティの高いコンテンツが生まれ、以前はニッチでオタク寄りだった活動が、より広いユーザー層に受け入れられるようになります。
このフェーズで増えるコンテンツはソリューション的な「実用」というよりは「遊興」的なコンテンツです。iモードでも初期から銀行のようなソリューション型のコンテンツは用意されていましたが、しばらくはあまり利用されず、企業コンテンツで大きな広がりを見せたのはむしろ「着メロ」「着うた」や「デコメ」のような新しい情報空間に楽しさを加えるようなコンテンツでした。
最近、企業の参入もまた増え始めましたが、現段階では役に立つ「ソリューション」よりも、音楽やファッションなど、メタバースならではの独自カルチャーの芽生えに注目した遊興的な領域の方が伸びるでしょう。コンテンツ的にもユーザー的にも、これからブーストフェーズへの移行期だと僕はみていて、そのモーメントにワクワクしているのです。
④メタバースのフェーズ、第4段階:ソリューションのスケール
そして最終的に、第4フェーズに入ると、再び実用的なソリューションやビジネスの参入が増えます。第3フェーズですでにユーザーが大幅に増え、メタバースはより日常的に使われるものとなっているので、そのユーザーベースに対して、ソリューションや実用的な用途が組み込まれるようになるのです。
B2Bスタートアップが増えるのはインターネットやスマホアプリが第4フェーズに入ってからのことです。
注意したいのは、「遊興的コンテンツ」と「実用的コンテンツ」の企業参入の順番です。なんとなく「実用から→余裕ができたら遊興」と思われがちですが、少なくともコンテンツプラットフォームやコミュニケーションテクノロジーにおいて、この順番が逆になることはあまりない気がしています。(Skype→LINE→Zoomは逆の順番では起こらないでしょう)
理由を考えてみると2つくらいある気がしていて、一つは「人は新しいコミュニケーションテクノロジーには実用メリットだけでは移行しない」んじゃないか、ということ。移行には実用性よりも”ワクワク”が必要なのではないでしょうか。
「役に立つ」というのはいわば合理的な、熱量の低い判断です。実用性から熱狂が生まれることは少なく、むしろ「非-実用的」で遊興的なところに熱量が生まれます。
もう一点、「実用」のものは、それが実用的な必要性をもっているからこそ、既存の手段でかなり整備されてしまっています。その旧来の仕組みに人間側の習慣も最適化されてしまっているので、スイッチコストが高いのです。DXがなかなか進まないのもこの理由によるでしょう。
フェーズとキャズムとの関係
この4つのフェーズは、ユーザーセグメント観点からいうと、「キャズム」とも対応しているように思います。
キャズム理論において、ユーザーのセグメントは変化していくのですが、最初に「イノベーター」が入り、次に「アーリーアダプター」が続きます。
その後に「マジョリティ」が来るのですが、そこまでには「キャズム」と呼ばれる深い溝があり、ここを越えられない場合は「マス」に楽しまれるものにはなりません。
「イノベーター」はしばしばテクノロジーに詳しい専門家や賢い大人たちです。この層はしばしば「未来的なソリューションの概念」を語り、便利さや新しさをアピールしますが、故に「過度な期待」になりやすいところもあります(第1フェーズ)。
「アーリーアダプター」がマジョリティに先んじて楽しむのが第2フェーズですが、その後にキャズムがあり、彼らだけでは「マス」に行けないところもあります。ここを超えて第3フェーズに入るには、企業がブーストし優良コンテンツが増えることで、マスに拡がることも重要です。
メタバースの住民はしばしば「ビジネス」や「企業の参入」を警戒・敬遠しますが、「キャズム」を超え文化として広がるためには、メタバースでも参入企業が増えて来た方がいいと思っています。ただ、それ儲けやロジックだけで考える「ビジネス大人」ではなく、メタバースの文化を一緒に面白がる「遊興的」な人たちがよいかもしれません。
そして、「マス」に拡大した後で、その上に「実用」の第4フェーズがもう一度やってきます。マジョリティがメタバースを日常生活の一部として受け入れるようになれば、他の手段でされていることも当たり前にメタバースで行われるようになり、実用的に使われるようになるかもしれません。
今回ご紹介したフェーズは、あくまで僕の見立てですが、重要なのは、コンテンツ的にもユーザー観点でも拡大にはフェーズがあり、プレイヤーの参入にも順番がある、ということです。
第2から第3フェーズへのキャズムを超えるべく、弊社はクリエイターと企業との協創機会を「遊興側」から増やしながら、メタバースをさらに多くの人に、より多くの楽しみを届けてまいります。
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