利用者を欺く「ダークパターン」に制裁金が課される日
UXを高めるためには、ユーザの心理や行動特性を把握し、サービスやプロダクトの設計時に活用することが求められます。一例ですが、情報が多く書き連ねてあるとユーザは斜め読みをして読み飛ばす傾向にあるため、重要なポイントを強調すると伝わりやすいといった配慮は必須となります。
このようなユーザの行動特性を逆手に取ると、ユーザに不利な情報を伝えないまま、購入や登録といったサービス提供者に便益の高い方向へと誘導することも可能になります。
「お試し購入後、一定の期間は解約ができない」といったユーザが購入を思いとどまるような情報を大量の情報に意図的に埋没させてしまえば、ユーザは自分にとって不利な情報を考慮せずに購入を決めてしまうことになります。このように、提供者が利己的にユーザを騙す設計を「ダークパターン」と呼んでいます。
企業のダークパターンへの向き合い方
たとえ分かり難くとも、情報が画面上に記述されていれば法的には罰せられてこなかったことで、多くの企業はダークパターンの抑制を真剣に考えてきていません。2021年の日経新聞社の調査では、国内主要サイトの6割でダークパターンが確認されています。
これまでの法的な枠組みでは、ダークパターンを取り締まれないことが以下の判例から読み取れます。
2022年3月に「消費者被害防止ネットワーク東海」によるネット通販会社ファビウスの景品表示法違反での名古屋地裁への訴えは原告の敗訴が確定しました。
ファビウス社の青汁の通販サイトでは、定価から8割以上値引きした初回支払額の630円を大きく強調しつつ、4回以上の継続が条件であることを画面下部に表示していました。初回だけお試し購入ができるような誤認を誘発していたかどうかが論点となっていました。
裁判所は「常識のある人なら間違えないはず」という判断をしていますが、私はこれまでの経験から、大量の情報が存在する場合に強調ポイントしか読まない人が大半であると捉えています。そのため多くのユーザが実際に誤認して購入してしまっていたのではないかと推察しています。
ダークパターンを違法化する流れ
同様のトラブルが消費者センターに相談される件数は大幅に増加しており、ついに22年6月には特定商取引法の改正法が施行されました。
この改正法は購入のみに焦点が当たっていますが、ダークパターンの問題はデジタル取引のいたる所に散見されるため、この改正だけで違法化の流れが留まることはないでしょう。
欧米での規制強化は、2020年前後から強まってきています。
「同意欄の事前チェックが初期値で入っている状態」にすると欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)に抵触するリスクが指摘されています。
また米連邦取引委員会は、複雑な退会手続きで退会を困難にしている企業を提訴し、その企業は1000万ドルの解決金を支払っています。米ワシントン州やカリフォルニア州はダークパターンを規制する方向に動き出しています。
そして、米国ではより巨額の罰金が課せられ始めています。
2022年11月に米連邦取引委員会は通信会社の退会処理の複雑さに対して1億ドルの制裁金を課しました。
12月には世界最大規模のオンラインゲーム「Fortnite」を運営するエピックゲームズは、個人情報保護違反とダークパターンの使用に対して5億2000万ドルの制裁金を課されました。
日本でも同様にダークパターンに制裁金が課される日は遠くないはずです。
デジタル上でビジネスを営んでいる企業にとって、先んじて対策に動き出す必要性が高まってきています。
次回は、ダークパターンを抑制するための対策につてい論じます。