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対内直接投資に死角は無いのか~GDP vs. GNI~

対内直接投資促進の「負の側面」
ドル/円相場は高値圏で一進一退を繰り返しながらも、依然、円安局面を脱死とは言えない地合いが続いております。米5月CPIはとりあえず加速せずに済んだものの、FRBの利下げ期待が増し、円高は進んでいるものの、「まだ150円台か」という思いを抱く向きも多いのではないかと察します:

かかる状況下、本noteでは円安を新常態と捉えた上で円安抑止の処方箋に関して思索を巡らせてきました。その際、やはり王道としては対内直接投資の促進が期待されると強調してきました。このような方向感は「2030年までに100兆円」という残高目標と共に政府・与党内でも共有されています。なお、発表されたばかりの「骨太の方針2024」でも国内投資の強化は前年に引き続き強く謳われることになりそうです。その際、外資系企業の力を借りることは自明の前提でしょう

今年3月に立ち上がった財務省の有識者会議「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」でも、対内直接投資の促進が今後の日本経済浮揚にとって重要論点になることは認識されており、公表資料でも頻繁に登場しています:

既にTSMCの工場建設が進んでいる熊本県菊陽町を例に雇用・賃金環境の逼迫を期待し、対内直接投資の経済効果をポジティブに受け止める向きは多く、基本的に筆者も同感です。ちなみに第2工場の開所についても既に場所の決定がなされたという報道が先般あったばかりです:

とはいえ、政策には功罪が必ず付き纏うものです。対内直接投資を経済浮揚の鍵と位置付ける主張に対し、直感的に予想される批判の1つが「所詮は外資系企業の収益になるだけではないか」というものでしょう。結論から言えば、その批判は正しいものです。今回のnoteでは対内直接投資を主軸に成長をけん引してきたアイルランドの例などを通じて、敢えて対内直接投資促進策に伴う「負の側面」を議論してみたいと思います。
 

対内直接投資が増えればGNIは減る
仮に今後の日本において対内直接投資残高が積み上がり、九州に限らず日本の各所において外資系企業の工場や研究施設などが誕生したとしましょう。直接的にはそこから世界への財・サービス輸出が増えることになるため、国際収支項目で言えば、貿易サービス収支の改善を期待することになります。

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