リスキリングを単なるブームで終わらせないために。これから必要なスキルを自分で定義することから始める。
皆さん、こんにちは。今回は「リスキリング」について書かせていただきます。
「リスキリング」については、国も重点政策に位置づけるなど、その必要性が一般的にも認識されていますが、各企業において、具体的な取り組みはまだまだ追いついていないのが実態です。
リスキリング導入をアピールしている企業も、オンライン講座を社員向けに提供し、一部費用を補助するに留まっているケースが多いです。
単なるブームで終わってしまうのか、生産性を高める大きな一歩になるのか。
これからのリスキリングのあるべき姿について考えていきます。
■#3年後に必要なスキル
今回のテーマである「3年後に必要なスキル」。
今後、時代の変化にあわせて新しく必要になってくるスキルとは何かを考えた時に、真っ先に「デジタルスキル」と答える人は多いと思います。
技術革新は今後もどんどん進んでいく中、個人が持つ知識やスキルは短期間で陳腐化していきます。人の仕事がAIにとって代わられていく一方で、データアナリストなど需要が高まる職種も増えていきます。
「今、自分は十分市場で通じるスキルを持っている」と自覚している人であっても、そのスキルの価値はどんどん変化していきます。現状のスキルに満足することなく、新しいスキルの習得に注力し続けなければいけないのです。
具体的に「リスキリング」の一環で、習得したいとされているスキルを考えてみると、
プログラミングスキル
統計解析スキル
データ分析スキル
デジタルマーケティングスキル
デザインスキル
財務・経理に関する知識
MBA・経営に関する知識
などが挙げられます。
他にも「プロジェクトマネジメント力」や「ディレクション力」、「指導力(コーチングスキル)」や「社会的洞察力」、「問題解決力」、「意思決定における判断力」なども、テクノロジーがどんなに進歩したとしても、人間が持つ重要なスキルだと思います。
個人的に注目しているのは、「戦略的学習力」。戦略的学習力とは、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授によって提唱された概念で、「新しいことを学ぶ際に、状況に応じて最適な学習内容や学習方法を選択し、実践できる力」のことを指します。
自分にとって、何を学ぶ必要があるのかを的確に見定めて、最適な学習内容や学習方法を考え、効率的に知識習得していく力が「戦略的学習力」です。
このように、「自分がどのような学びが必要なのか」、そのために「どのような方法で習得できるのか」を知るためには、
1、 現時点での自分のスキル(能力/知識/経験/得意なこと/強みなど)を言語化する
2、これから必要になるスキルを明確にする
3、2で挙げたスキルや経験を持っている人が周囲にいれば、どんな方法でそのスキルを習得したかを把握する
4、2を身につけるための学習プランを設計する
5、身につけたスキルを実践で活用する
というようなステップが必要です。
話を戻しますが、「3年後に必要なスキル」という短期的な目線で考えると、まずはやはりこれからのデジタル化時代に対応した、「デジタル分野で必要とされるスキル」なのだと思います。
コロナ禍を経て、個人の働き方が大きく変わっただけでなく、各企業のデジタル戦略が大幅に加速しました。これまでの仕事の進め方やスタイルも変わり、DX時代を生き抜くために新しいスキル習得が必須であることを認識すると同時に、ここ数年で多くの人が危機感を覚えたのが、「デジタル技術の乏しさ」であることは間違いありません。もっと多くの人が、デジタルの基礎知識の習得はもちろんのこと、デジタル技術(人口知能など)を理解し、活用できる状態を目指していく必要があります。
リスキリングの対象者は、何も、会社の中で特定のスキルを持った、一部の社員だけではありません。若手からミドル層、ベテラン層、経営層まで、全ての社員が対象になってくるはずです。
これまでOJT形式で、実務経験を積んできた人たちも、既存の業務を推進することを前提とするのではなく、現存しない業務を遂行できるようなスキル習得が必要なのです。それが、新しいビジネスモデルの開発や、新しい付加価値の高いプロダクトやサービスを創出することにつながっていくのではないでしょうか。
■リスキリングが企業にもたらす効果
社内の業務オペレーションや顧客へのサービス提供において「デジタル化を進める」だけではなく、その先の、「デジタルを活用して新たなビジネスを創出しようとする」DXの取り組みが、コロナ禍を機に急速に広がりました。
DX推進をリードするプロジェクトマネージャーやシステム構築を担うエンジニアだけに限らず、あらゆる職種の人がデジタルの知見を持つ必要性に迫られていますが、企業がDXを推進するためには、デジタル人材の採用・育成が欠かせません。
中途採用では人員確保に限界があり、既存の社員を再教育することが急務になっています。
リスキリングの必要性が叫ばれる背景としては、他には以下のようなポイントがあります。
業務効率化・生産性向上につながる
新しい事業やサービスなどのアイディアの創出につながる
人材の入れ替えが必要なく、企業文化が維持・継承されていく
新たにラーニングカルチャーを醸成することができる
社員の離職防止やエンゲージメント向上につながる
採用コストの削減が可能
社員の自律的なキャリア形成の実現につながる
さらに、以前こちらに書かせていただいたように、社員を「人的資源(コスト)」として捉えるのではなく、投資をして価値を高める対象である「人的資本」として考えると、社員のリスキリングに投資をするということは、企業の業績や生産性、価値創造に直結し、企業価値向上にもつながるのです。
多くの企業が人材不足という課題を前にして、いかに既存の社員の活躍の幅をリスキリングによって広げ、新たな挑戦を続けていくか、また、新たな価値を創造していけるかが、今後の企業の未来を左右するほどになると言えます。
■リスキリングの成果をどのように測るか。
引用した記事に、
とある通り、各企業のリスキリング導入においては、社員にただ学習機会を提供するだけでは不十分です。
社内の教育システムを見直し、職場以外の教育や訓練を積極的に導入したり、社外でも通用する技術を習得するための講座受講を推奨する企業が増えてきてはいますが、「技術習得の機会を提供」するだけでなく、それによって成果につながった数などの「数字で測れる成果指標」を追求することがセットで必要なのです。
想定される成果指標としては、
DX人材の輩出数
現存しない業務を遂行できるようなスキル習得に成功した社員数
新しい職務や職種にキャリアチェンジした社員数
1人あたりがスキル習得にかかった時間(いかに短縮できるか)
提供できるスキル講座数や講座内容のバリエーション
新卒採用や中途採用への貢献度(採用人数や社外向け講座などの受講数)
リスキリングに注力することで得られる会社のブランディング効果
などでしょうか。
リスキリングは本来、「新しい仕事のやり方や新しい職務に移行するためのスキル習得」を指し、単に「新しいスキルを身につける」ことではありません。
リスキリングを形だけの導入ではなく、どれだけ効率を高めて成果に結びつけるかが重要で、社外人材を獲得することに躍起になるよりも、社内にいる社員に対してのリスキリング投資をすることこそが、DX戦略の大きな柱になっていくと思います。
最後に、これまで、企業にとっては「社外でも通用する知識やスキルを持つ社員が増えることを避ける」傾向がありました。なぜなら、そういった優秀な社員ほど他社に転職してしまう可能性が高いからです。
ですが、今そんなことを言っていたら、従業員のリスキリングに積極的に投資している企業と比べて、大きく出遅れてしまうことは間違いないでしょう。
このようにグローバルで見ても、人材育成に『10年で2800億円も投じる』企業すら出てきており、日本との差は開いていく一方です。
企業側が、いくら社員に「スキルを習得しろ」「とにかく勉強しろ」と無理矢理強制しても、期待する効果は得られません。
社員一人ひとりがリスキリングの必要性を認識し、自発的に学ぶ意欲を持ち、これから先の仕事や人生の選択肢を広げることにつながるということを理解した上で、楽しみながら新しいスキルを習得していけるような環境を構築していく必要があるのだと思います。