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高齢化が進行する中国で幼稚園が老人ホームに変貌する事例が出現。どんどん増加する高齢者はどう生きていくのか

高齢社会や出生率の低下について中国でも議論されることが増えてきたなと感じています。中国ウォッチャーの皆さんは、日本のSNSや報道で、中国の状況を伝える記事を度々目にしているかと思います。

先日、高齢社会に関するトピックについてのビジネス系のSNSを見ていたら面白い事例として「幼稚園が老人ホームに変貌 」というのがあったので、ぜひ紹介したいなと思いました。

取り上げられていたのは、24歳の幼稚園教師の周さんという方。就職して3年、今までは子どもたちに手遊びを教えていたのが、今では高齢者に太極拳を指導するようになったという話。勤務先の企業が山東省済寧市で、昨年だけで3園の幼稚園が閉鎖され、残りの園でもクラス数を減らす一方で、周さんは新設の高齢者施設に異動したとのこと。

その高齢者施設は老朽化した住宅街の1階。60歳から75歳の元気な高齢者を対象に、デイケア、リハビリ、卓球、手工芸教室などのサービスを提供しているそうです。高齢者が麻雀をしながら灸治療ができる天国とのこと笑。

ボクの住む北京でも麻雀や中国式将棋が大好きなおじいちゃんたち多いです。

中青报のWebページより。こういう光景は中国の街なかで毎日のように目にする風物詩

取り上げられていた周さんがこんなキャリアになった理由。それは、2017年の「全面的二子政策」(一人っ子政策終了)導入時、多くの人がこれから幼児教育が人気職種だと思っていたとのことです。

しかしこの考えは間違いでしたね。ご存じのように、様々な施策があっても出生率は大きくは伸びず、幼稚園、特に民営園が苦戦を強いられているとのこと。2020年の中国の出生率は1978年以来の最低。2023年の園児数は前年比で535万人近く減少、幼稚園数も1.48万園減少

(出所:上観新聞、データ:中国教育部)。出生率は下落のピークから向上も、依然低い

右肩下がりなことがグラフから一目瞭然ですね。各地で民営園がパン屋や火鍋店に置き換わる事例が相次ぎ、入園停止や閉園のところも多いのが現実です。

実際、周さんが務める企業で20年以上幼児教育に携わった園長の杨さん曰く「20年前は民営幼稚園の黎明期で、子供たちが私立園に殺到し親は一晩中並んで入園申請をしていた」とのこと。一方で今は「1人入園すれば園全体で花火を上げたくなる」ほど園児が少ないそうです。

また、園児が少ない状況に加え、親が非常に選り好みするようになっているのも大きな原因だと分析されています。他の民営園に差をつけるため、週末に園内体験会を開いたり、食事やプレゼントを用意し同時にSNS宣伝や周辺1km圏内での営業活動を行っているとのこと。さらに、サービス面での競争に加え「3年分前払いで半額」といった価格競争も激化しているとのこと。ここでも、中国文化の代名詞となった”内巻”が起きています。

競争で生き残るためにみんな必死です。人件費も削減されているし、多くの教師には解雇の恐れがあるとのこと。

ただ、幼稚園は減少して厳しい状況にあるのとは逆に、高齢者人口が増え続けたため、老人向け事業への需要が高まっているのです。例えば山東省の60歳以上人口は全国平均を2.2ポイント上回る20.9%に到達。

(出所:Sohu、データ:国家統計局)

↑ここ数年での60歳以上の人の数は右肩上がりで上昇中。2023年、中国の60歳以上の人口数がすでに2.9億を超えました。国家衛生健康委員会の発表では、2035年に中国の60歳以上の人口が4億人を超え、これが国民全体の30%を超えるとの試算です。

多くの老朽化した住宅地域では高齢者の活動スペースが不足しているという問題もこの業界には追い風。上の写真のような、広場のベンチは少なく定員オーバーで座れず、かつ年金が月に3000元未満の彼らは、公的な地域老人施設に頼らざるを得ない状況なのです。

そのため、幼稚園から老人施設に転身する企業や転職する人が増えているというのです。実際、記事に取り上げられていた周さんは、幼稚園時代は子供たちに付きっきり、親からは常に監視され、深夜まで問い合わせへの対応の連続だったのに、老人施設では仕事のペースが緩やかになり、水くみや靴の手伝い、老人と遊んだり話し相手になることが主な業務となり、自分のペースもつかめ充実していると回答していました。

他にも幼稚園教師から転職した人がインタビューで、「子供に習い事を教える時は作品の出来映えで充足感がありましたが、老人に教える時はお互いの交流の様子を見ることに喜びを感じる」と言っていたのが印象的でした。

また、療養が必要な要介護の高齢者については、幼児との交流を図る試みも行われています。例に出ていたものは、2020年経営する幼稚園に隣接して介護施設を開設し、子供と高齢者の交流プログラムを実施しているそう。高齢者と子供が接する機会を作るのはポジティブな要素も多いそうで、心温まる内容で紹介されていたのは

・高齢者たちは細かい手すりの向こう側から、庭で遊ぶ子供たちを眺めていた。2人の高齢者が廊下の窓際に座り、窓は開けられていた。陽気な騒ぎ声と微風が吹き込んでくる。「冷えますよ」と介護士が言ってきて、窓を閉めた。高齢者は口を動かしたが、声は出なかった。
・79歳のおばあさんは時々窓際に立ち、幼稚園の朝の体操の音楽に合わせて手を叩いていた。彼女は新しい施設で意識がはっきりしている数少ない高齢者のひとりで、記者に向かって溜息をついた。「今の子供たちは昔に比べてずっとかわいらしいわ」

孤独になりがちな高齢者の皆さんに触れ合いの場を提供するうえでも良い取り組みだなと思いました。

2018年の『中国の都市部と農村部の高齢者の生活状況調査報告』によると、介護が必要な高齢者のうち、医療・介護施設、家政婦サービス会社、その他の個人から介護を受けられるのはわずか5.4%にすぎないというデータもあります。この領域は、改善されなければいけない余地がたくさんあります。

これからさらに深刻化する老人ケアと幼児の減少という問題に対して、社会問題としてどう向き合うか。そして、そこにビジネスチャンスが生まれることは、高齢社会の先輩の日本の皆さんが参加するチャンスもあるのではないかと思います。引き続き、このテーマで新たな事例などがあったら紹介したいなと思います。ぜひフォローしてお待ち下さい!

(参考資料)


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