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正しい戦略よりも「熱量のある戦略」であることが重要ー負けない経営戦略の立て方〜不確実な時代に求められる思考法

2021年9月28日(火)に開催したNIKKEI LIVE「負けない経営戦略の立て方〜不確実な時代に求められる思考法」では、不確実性の高い現代において、小さな失敗を繰り返しながら、それをどのように自己成長につなげていけばいいのかについて議論しました。イベント内容の一部をご紹介します。

コロナ禍においてもサービスが非常に注目を集めていたオイシックス・ラ・大地社長の高島宏平さん、長年経営コンサルタントとして活躍され戦略の歴史に関する書籍も多数執筆しているKIT虎ノ門大学院教授で早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学客員教授も務める三谷宏治さんをゲストにお招きしてお話を伺いました。聞き手は、日本経済新聞社DXエディター杜師康佑が務めました。

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ー杜師エディター
まず参加者の皆さんに投票を募りたいと思います。「失敗を避けるために必要な武器はなんだと思いますか?」立場によっても回答は変わってくるのではないかと思いますが、この結果についていかがでしょうか。

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ー高島さん
この選択肢の中から選ぶのは、皆さんも少し難しいところがあったのではないかと思うのですが、そもそも「失敗の定義」をクリアにしたほうがいいと思います。今、失敗を避けることが本当に必要なのかというと、むしろ有事のときには大抵のことが当たらないので、いろいろやってみて上手に失敗して正解を見つけていくやり方のほうがいいような気がします。

失敗を避けるというよりも、大失敗を避けるために良い失敗を積み重ねて、最も確率の良いものに早く辿り着く、先が読めない有事のときはそのほうがいいのではないかと思います。

ー三谷さん
皆さんが感じている通り、新しいフレームワークを学ぶとか、そういうことではないんですよね。「これをやれば正解」「これをやれば勝てる」というものは、おそらくありません。やはり、試行錯誤をどれだけ早いスピードでできるか、正解があるわけではない中で、それをどれだけやれるかという時代になってきていると思います。

ー杜師エディター
絶対に成功するモデルはないと思いますが、一方で、理論化していくことも必要だと思います。何を軸にすればいいか非常に難しいとは思いますが、戦略には絶対性はないのでしょうか。

ー三谷さん
戦略論にはこれまでいろいろなものが出ていますが、大きく分けると、マイケル・ポーターを筆頭とするポジショニング派の「この山を攻めれば勝てる」という主張や、ジェイ・B・バーニーを筆頭とするケイパビリティ派の「こんな能力をもっていれば勝てる」という主張があります。

しかしヘンリー・ミンツバーグはそれらを、「そんなものは時と場合による」つまり「どんな戦略論も間違っている」と主張しました。その上で、私たちは1つを選ばなければいけない、なぜなら戦略は言葉であり、それが統一されていなければ進む方向もバラバラになってしまうからです。「間違っているけど1つを選び、それを全員で磨き上げていくこと」だと言っています。

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ー杜師エディター
社会の変革期には既存の戦略が通用しなくなり、企業は新戦略を求めるようになって、イノベーションも起こりやすくなるように思いますが。

ー三谷さん
そもそもイノベーションとは何かを考えるとき、縦軸を成果・性能で横軸を時間とするとこのようなグラフになる、「イノベーションとは量子的跳躍である」とよく言われることがありますが、これは典型的な誤った理解だと思います。

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イノベーションは「二重のS字曲線」になっていて「前のもの」があるわけです。それが成長し成熟して「新しいもの」が生まれます。「前のもの」は「新しいもの」の成長に追いつけずに滅んでしまいます。これがイノベーションです。

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イノベーションでは、プロダクトライフサイクルの変更だけでなく「担当者の変更」も起こります。変革によって前のプレイヤーたちがすべて新しいプレイヤーに変わってしまいます。

イノベーションを起こして大きくなった企業は、初期の頃につかみ共に成長してきた大切な顧客を常に見るようになります。そのことで、成長し成熟する段階で、新しく出てきた技術や新しい顧客への注意が向かなくなってしまいます。そして失敗します。顧客志向の優良企業ほど、次のイノベーションに敗れ去ると言われています。

パターン解によるイノベーションは難しいということです。

ー杜師エディター
オイシックスさんもコロナ禍では変革を迫られたと思いますが、どのような対応をしていましたか。

ー高島さん
昨年の2月頃に「有事」のスイッチを入れました。私たちは比較的、有事慣れしている会社だと思います。例えば、台風が毎年増えていますが、畑が直撃を受けたり、社員が配送センターに行けなくなったり、私たちにとって台風は有事です。それから東日本大震災のときも、放射能に対する不安など、あのときにも有事を経験しています。

有事モードに切り替えたら、普段の仕事はすべて止めて、有事にやるべきことだけをやればいいという状態にします。今回も、毎日zoomで40〜50人くらいのメンバーでミーティングを行い、有事のPDCAをどんどん回しました。6ヶ月くらいは有事モードで仕事をしていました。

ー三谷さん
普段の仕事をすべて止めるとなると、例えば、売上目標はどうなるのか、利益目標はどうなるのか、自分の評価はどうなるのか、といった不安は出てきませんでしたか。

ー高島さん
実際にはそう思う人もいたかもしれません。少し話がずれるかもしれませんが、戦略論の話をするとき「どの戦略が正しいか」という議論はよくありますが、「戦略の熱量」については議論されないことが多いような気がします。戦略の熱量は、実はすごく大事で、新規事業は失敗してからが闘いなので、失敗してもしつこく戦える熱量をもてるかどうかだと思っています。

正しい戦略と熱量の出る戦略は違います。戦略を決めるプロセスで熱量が出たり出なかったりもします。例えば、トップダウンで落ちてきたものと、みんなで議論を繰り返して積み上げたものでは、結論が同じでも熱量はまったく違います。

この熱量が、有事のときには非常に重要になります。戦略が正しいかどうか以上に、メンバーの熱量をどれだけ引き出せるかが大事だと思っています。

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ー杜師エディター
参加者の方から「後から挽回できないほどの失敗では事業が立ち行かなくなると思いますが、許容される失敗を繰り返し行うためのメソッドはありますか」という質問ですが、これについてはいかがでしょうか。

ー三谷さん
チャレンジすることのレベルによると思いますが、1つ紹介すると「リーンスタートアップ」という考え方があります。

「リーン」とは脂肪のない赤身のことで、筋肉質な状態を言います。有名な事例がトヨタの経営システムです。トヨタにとっての一番の無駄は、完成品が売れないことです。そこで試作品の段階、もしくは部品の段階、さらにはもっと手前の段階で無駄をなくすためのテストや調査を行います。ITベンチャーならば、一番の無駄は最大の資源であるエンジニアが無駄にプログラムを書くことです。これをさせないために、実際にエンジニアがプログラムを書く前に軽くテストを行うなどして、早い段階で絞り込みをすることです。

大きく突っ込んで最後の最後で失敗して大怪我をすることを避けるために、小さな失敗を上手にマネージメントしていく、これがリーンスタートアップの考え方です。

ー高島さん
小さな失敗をたくさんすることが大事なのではなく、成功することが大事だということを忘れないことです。「どうやって成功するか」と「どうやって失敗しないか」は違うイシューの設定だと思います。成功するためにはたくさんの失敗がついてきて、これは止むを得ないことです。

あらかじめ評価軸を決めておくことは大事ですが、とにかく打席にたくさん立って、兆しが見つかったらそこにリソースを寄せることではないでしょうか。イメージ的には、10個やって3個に兆しが見えたら、10個にかけていたリソースをその3個に寄せて、さらにその3個のうち兆しが見えたものに残りのリソースを投下する感じだと思います。

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高島宏平さん
オイシックス・ラ・大地社長

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1973年神奈川県生まれ。東京大学大学院修了後、マッキンゼー日本支社勤務を経て、2000年6月に「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を企業理念とするオイシックス株式会社を設立。2013年に東証マザーズに上場。2016年、買い物難民への移動スーパー「とくし丸」を子会社化。2017年には「大地を守る会」と、翌年には「らでぃっしゅぼーや」との経営統合を実現し、食材宅配3ブランドを擁する新会社社長に就任。2020年には東証第一部へ指定替え。2018年より一般社団法人日本車いすラグビー連盟理事長に就任し、経済界からパラスポーツを支援。2020年にはEY Entrepreneur Of theYear日本代表に選出。


三谷宏治さん
KIT虎ノ門大学院 教授
早稲田大学ビジネススクール 
客員教授
女子栄養大学 客員教授

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1964年、大阪府生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティンググループ、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして活躍。1992年、INSEADでMBA修了。2006年から教育の現場で活躍する。著書多数。『経営戦略全史』はビジネス書賞2冠を獲得、最新著は『オリエント 東西の戦略史と現代経営論』。永平寺ふるさと大使。


杜師康佑
日本経済新聞社DXエディター

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2010年入社、新潟支局を経て自動車や化学、エレクトロニクス分野を取材。2019年から大阪本社でエネルギーや機械、スタートアップなどを担当。日本の組織に合ったデジタルトランスフォーメーションのあり方を模索。


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