多数決で決めない!?心理的安全性高い組織における議論のつくり方
Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。みんなが安心して働ける、心理的安全性の高い「コミュニティ型組織」づくりが最近のマイブームです。
というわけで今回も、日経COMEMO編集部から1ヶ月前に出されたお題「#心理的安全性を確保するには」をもとに3本目の記事をお届けします。面白いなと思った方はぜひ、ハートマークを「スキ!」として頂けると執筆のモチベーションになってとても嬉しいです。
傾聴型のマネジメントだと物事を決められないのでは?という疑問
今年から本格的に取り組みをはじめた「コミュニティ型組織開発プログラム」が徐々に軌道に乗り始めました。「マネジメントスタイルの変革」「心理的安全性組織のファシリテーション」「1on1コミュニケーション」「ビジョンづくり」「コミュニティ思考」などなど、様々なトレーニングを組合わせて、大手企業向けに、マネジメント層から若手層まで広く提供しています。
いわば企業のコミュニケーション変容のためのプログラムなのですが、その入り口になっているのが、主にマネジメント向けの「1on1トレーニング」です。このトレーニングでは、コーチングやファシリテーションにおける対話スキルを軸としながら、すぐに実践可能なコミュニケーションの型を提供し、ロールプレイなどを通じて小さな成功体験をつくっていただくことで、旧来の「昭和のコミュニケーション」からの変容を促しています。
アンケートなどをみるととても満足度が高く「期待せずに参加したのだけど、想像以上に面白かった」という反響を聴いてはニヤリとしています。「面白い!」というポジティブな感情でトレーニングに向き合うことで、効果は最大化していきますし、ファシリテーター冥利につきるというものです。
そんなトレーニングを提供する中で、頻出している質問があります。 「自分から答えを示さずに、しっかり傾聴をして、相手の考えを言語化する伴走役になることが1on1において大事ということですが、すべての会議でそれをやったのでは、組織がまわらないのでは?決めなくてはいけない会議のときに、メンバーが答えを出すのを待っていては間に合わないのでは?どうしたらいいですか?」というものです。
この質問がけっこうたくさん出てくるのもあり、当記事ではみなさんに共有しながら「心理的安全性高い組織における議論の仕方」について考えていければと思います。
心理的安全性高い組織における「議論」と「対話」
まず前提として「話し合い」には2つの種類があります。それが「議論」と「対話」で、この2つを明確に分ける必要があります。
先述したとおり、1on1には「自分から答えを示さずに、しっかり傾聴をして、相手の考えを言語化する伴走役になる」という鉄則があります。これは「対話」のコミュニケーションのあるべき姿です。チームとメンバー、リーダーとメンバー、メンバー同士と、お互いが考えていることを緩くつなぎながら、相手のことを理解するためのコミュニケーションが「対話」なのです。
一方で「チームで何かを決める話し合い」が「議論」となります。ミーティングがある際には、この場が「議論」の場なのか「対話」の場なのかを、ファシリテートする人間がしっかりと明確に提示してからはじめることが大事になります。
議論の「発散」と「収束」のフェイズで心理的安全性を醸成するには
さて、一般的には、チームで何かを決めるときには、お互いの見解のちがいを抽出して、戦わせて、多数決をとるという構造に陥りがちです。そのような議論の進め方をすると、チームの心理的安全性を保つのはなかなか難しいものです。では、議論の場で心理的安全性を担保するにはどうしたらいいでしょうか。
ここで大事なのは「目的を軸にしてそれぞれの見方をシェアしていく」ことです。何かを決めるというのは、何か課題があって、その対応策を検討しているということです。課題の解決にあたって、みんながどうするのがいいのか考えているのか意見を聞いて、それぞれの考え方を明らかにすることが重要になります。
ここで意識したいのが「発散」と「収束」という議論のフェイズごとの心理的安全性の担保の仕方です。
「発散」とは、いわゆるブレインストーミングに代表される、それぞれが思いついたことをどんどん出し合ってテーマを広げていくコミュニケーションのことです。このフェイズにおいて心理的安全性を意識するには「Yes, and…」が連鎖するコミュニケーションを設計することが大事です。
「Yes, and…」のコミュニケーションとは、誰かが「アイデアA」をしゃべったら、別の人が「いいね!そうしたらさ…」とかぶせていく、つまり「相手のアイデアにのっかって、どんどん足し算をしてふくらませる」ことです。批判的な意見が出ないようにルール設定しながら、相手のアイデアへの肯定の連鎖をつくることで、意見がどんどんでやすい空気を醸成されます。
それぞれのアイデアが肯定されることで、場の心理的安全性は自然に高まり、いわゆる「ワイガヤ」な状況が生まれるのです。
心理的安全性高いチームは「多数決」で決めない
「発散」の後に、物事を決めるためにまとめるフェイズが「収束」です。心理的安全性を保つために必要な収束のルールがあります。これが何かというと「多数決で決めない」ことです。
物事を決めるときに、民主主義国家に生きる僕たちはどうしても、手を挙げて多い人数のアイデアを採用するという流れをとりがちです。それがいい局面ももちろんあるのですが、心理的安全性の高い組織をつくりたい際には「多数決に頼らない意思決定の仕方」を採用するほうがむしろ効果的な場合があるのです。
多数決をとろうとすると、議論の過程で、お互いの意見へのマウントをとるコミュニケーションに向かったり、多数派をとろうとするポジショントークに向かったりしがちです。お互いの腹を探り合うようなやりとりが生まれ、お互いに本音を開示しなくなる傾向があるのです。
重要なのは「収束」の際に「本来かなえたい目的・ゴールは何か」を意思決定の基準としてものごとを決めることです。チームの目的に立ち返って、最も合理的で感情的にも納得感のある方法(最適解)を採用することが大事なのです。
極端なことを言うと、リーダーが「えいや!」で決めていいのです。ただし、メンバーのみんなにとって納得感のある「えいや!」を発動することが大事になります。
ただし、合理的判断だけで「えいや!」と意思決定すると、メンバーの納得感はなかなか得られません。自分は何も意見しないうちに、あいつが勝手に決めた、マネージャーが勝手に決めた、という風に思われがちなのです。
しかし「発散」のフェイズを経ていると、「Yes, and…」の連鎖でみんなが「ポジティブに議論に参加した」という感覚が残ります。そのため「自分の意見を踏まえて上で決められたのだ」という納得感がそこで生まれるのです。
心理的安全性高い組織づくりにおいては、議論の際に「発散」の時間をしっかりとることが大切です。みんなから出てくるアイデアを、どんな小さなアイデアでも肯定し、受け入れて、承認して褒めることで、それぞれの本音の考え方がしっかりと共有され、意思決定への納得感も生まれるのです。しっかりと対話が進んでいて、ビジョンやミッションも共有されていて、マネージャーへの信頼やエンゲージメントがある組織であれば、多数決を使わずとも、納得感ある意思決定が生まれる可能性は上がるのです。
もちろんそれでも慎重な議論が要求される事項については、納得感が得られないケースはあります。多数決はそんな際に物事を決めるための最後の手段ととらえておくと、ちょうどいいバランスになるのではと考えています。
心理的安全性高い議論をつくるためのファシリテーターの役割
いろいろなアイデアソンやワークショップで、ファシリテーターとして数多くの議論をつくってきましたが、みんなの発言量ができるだけ均等になるルール設計をしながら、お互いのアイデアの断片を提示しやすくする、そんなプロセス構築を心がけています。
そして、だんだん「ワイガヤ」が起きてきた後に、アイデアのまとめかたについて軽くインプットをします。この際に伝えることは「多数決で決めないでください。A案、B案で多数決をとってどっちにするか決めるのではなくて、A案、B案を踏まえた上で一緒にC案を産み出す、そんなスタンスでまとめていってください」ということです。
僕たちは多数決の文化に慣れているので、なかなか苦労される方も少なくないのですが、この「AとBを戦わせるのではなく、AとBを踏まえてCを産み出す」ことが、コラボレーションを軸とした新しい価値創造(オープンイノベーション)の大事な要素になります。それを、外部の目線で丁寧にガイドするのが、ファシリテーターの大事な役割なのです。
そんなわけで、チームの対話とビジョン形成を軸にした「コミュニティ型組織開発」のプログラムを提供しています。参加メンバーがフラットに関われるように変容するためのインプットと数々のワークを組合わせてデザインして、心理的安全性高い組織づくりを支援しています。ご興味ある方はぜひホームページのフォームよりお問合せ下さい!
また「Voicy」ではCOMEMO記事の元ネタになる10分ビジネス小噺をほぼ毎日放送しています。記事が「面白い!」と思ったみなさま、ぜひ聞いてみてください!