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On、アシックスのブランド構築を、西口一希3要素から検証する

日経クロストレンド主催の西口一希さんセミナー「西口氏が語る、ブランディングを成功させる「3つの目的」理解」に行ってきた。僕は、日経ビジネス「大人のトライアスロン」で最近取材したOnジャパン元代表の駒田さんのお話など重ねながら聞いた。

P&G出身、起業したマーケティング調査会社を大手企業に売却するなど資本家としても成功した、マーケティング/ブランディング論の西口さんは、稲葉浩志みたいな細身長髪にタイトな黒服+白スニーカーでかっこ良し。話もとてもわかりやすい。


(いきなり脱線します:スライド作り込みは無駄)

お話の全体からの印象を先に書こう。西口さん、スライドを(たぶん意図的に)キレイに作っていないところがある。たとえばユニクロ広告の綾瀬はるかの話をするとき、画像のかわりに、

(綾瀬はるかさん)

(スライドのイメージ、みたまんま)

のように、文字だけ、の雑なオブジェクトを使ったりする(法的には全く正しいが)。フォントも20世紀からあるようなMS系ので、プレゼン教室だとダメだしされそうなレベル笑。

僕の推測では、「デザインは、ブランディングにおいて、実はそれほど重要ではない」というメッセージを、自ら実演されている。

僕がパワーポイントのスライドを使い始めたのはドイツ系IT企業に入った20世紀、当時から日本人はこのデザインに莫大な時間労力を費やしてきた。アメリカ人とかドイツ人とか超雑なのに。だから日本人は労働時間を削れない。忙しいのではない、望まれてもいないのに自分で自分に圧をかけて勝手に忙しくしてるのだ(という面もある)。その最たるものが広告マーケティング業界ではないかな? そして西口さんはマーケ界隈の王様のようなポジションで、逆を実演してみせる、そこには社会的価値がある(※あくまでも僕の推測です)

「デザインが大事、という物語」はAppleを例に語られることが多いのだがが、すくなくとも業績目線でいえば、虚構である。Appleの有名なイメージ広告やデザイン性(だけ)で注目された製品は、売上にも株価にもほとんど貢献していない。こういう経営目線の事実は大事。自分の狭い分野しか見えていない専門家は多いけど。

では、ブランディングにおいて重要要素とは? (本題に入ります)
1.認知
2.感情価値
3.内部的・結束的アピール
だと西口さん。(表現は僕なりの理解による)

1.認知が最も重要

ランニングシューズといえば?」と問われて、真っ先に思い浮かべてもらえる第一想起になれているか?
日本のランニングシューズなら、認知につながる最大イベントは箱根駅伝だろう。たぶんダントツでそう。かなり差を離した2位がオリンピックとかのマラソンでの着用シューズ。

ちなみに2021年、1月の箱根駅伝ではNIKE着用率が96%にまでなった。

その夏、東京五輪では、アシックスなどが大きく盛り返していた。

未来は、たまに、予見できることがある。(以下ご参照)

(なぜ、Onの駒田さんにはできたのか?)

日経ビジネスで取材した駒田さんの場合、この認知を獲得するための予算がとにかく足りなかった。しかたなく行った無料SNS使い倒し大作戦は、後に「コミュニティ・マーケティング」と注目されたわけだが、

西口さんの話でいえば、2つめ「感情価値」を、顔が見えている特定のお客さんに対して、刺激するものになった。結果、少数ニッチ市場へ、最小コストで、売ることができた。ここのスライドの話 ↓ (ここは八田の私見)

(いや、スライドちゃんと作られてるじゃないですか!笑)

Onは今やさらにブームで、なんとなく買っている謎の客(=グレーの「不特定」部分)が大量に増えていそうだ。この売上はいずれ消えることもありうるが、ユニクロのように「特定×多数」の状態で拡大するシナリオもありうる。(円安はこの逆風になりうる)

2.感情の価値

感情的価値の好例はハイブランド。シューズとしての合理的機能性だけなら、最高でも数万円以内(ランニングなら今3〜8万円、10年前はせいぜい1.5万円)だが、ルイビィトン、バレンシアガ、などなどの感情的価値が乗っかると、何十万円とかに化ける。

ハイブランドとは、どれだけお金があっても、自分が売る側(※資本家として)に立てない、ただ買うことしかできない世界だ。80年代バブル以降の日本企業が多数この壁を越えようと挑戦し、失敗してきた。ファッションの山本耀司や川久保玲とか個人アーティストの規模では出るが、欧米のような巨大ブランドビジネス=欧州外部からの巨額集金システム=には育たない。

この壁を、部分的に超えた希少事例の1つが、アシックスの「オニツカタイガー」ブランドではないだろうか(ここも八田の私見です)

アシックスは2002年、オニツカタイガーをラグジュアリー路線に基づくハイエンドブランドとして再出発させることを決定。「メード・イン・ジャパン」の特徴を強調した象徴的な商品の開発に注力〜

 「オニツカタイガーはラグジュアリーブランドではなく、一般向けであることは変わっていません。にもかかわらず、ラグジュアリー戦略をヒントに、日本の歴史と文化的ルーツに基づいた強力なアイデンティティーを構築することで競合他社と差別化を図り、付加価値の高いニッチ市場での地位を確立することに成功しています。オニツカタイガーの取り組みから、多くの日本ブランドはインスピレーションを得ることができるはずです」

「欧州ラグジュアリービジネスの経営学」 ↓ ↓ ↓

このオニツカの感情的ブランド価値は、主力商品である普通のスポーツ向けシューズの価値も高める。「へー、アシックスは昭和の部活シューズじゃないんだー、買っていいんだー」的に中高年が買い始めれば、国内はさらに売れる。

(なぜアシックスには、できたのか?)

「勝つまで続ければあらゆる勝負に勝てる」みたいな企業体力の面はある。
ただもう1つ、創業者の鬼塚喜八郎(1918-2007)が存命中に始まったプロジェクトであるのは、大きいかもしれない。2007年2月の初回東京マラソン大成功を見届け(大会準備中から事務局に何度も直接顔を出したそうだ)、その年に亡くなった。2002年のオニツカタイガーの再ブランド開始から5年間ほどのチャレンジ(と失敗)の蓄積があった。今の成功が見え始めたのは、没後10年くらい後なのでは。

この関係は、Appleの今の地位を作ったiPhoneを、最初数年間は創業ジョブズが存命中だったこととも重なる。

同業では、アディダスが山本耀司と組んだ独自ブランド「Y3」、NIKEはヴァージル・アブロー等とのコラボ、など成功例もあるが、あくまでもアーティストやトップアスリートなど、会社以外の個人が主役だ。オニツカタイガーは創業者の名を冠した完全自社ブランド。ココ・シャネル(1883-1971)のCHANEL、のようなものではないだろうか。21世紀生まれの若者にとって、106年前も141年前も大差ないかもしれないし。

3.内部的・結束的価値

これは社内的なアピール。「なぜAppleが、iPhoneというスーパー高機能製品を作れたのか?」という点では超重要。つまりは、カネにならない無駄なイメージに大金を燃やし続けてきたことで、カネには換算できないファンが増え、いざ、というときに、社員や協力会社などの立場で、協力してくれた。

Appleがすごいのは、この点だろう。再現不可能、スティーブ・ジョブズの神の存在感あってのもの

なんだけど、

「再現性のない奇跡」があちこちで起き続けるのが、ビジネスである

経営史、あるいは人類史、結局これ

再現性を求めていたらダメ。AI時代とくにそう。

(オマケ:「AI西口一希」の可能性)

西口一希さんすごいのは、数百万字、という未公開原稿が溜まっていて、無料で読める仕組みを2024年に始めた ↓

" 新規事業として8月に新Webサイトメディアとして「Wisdom-Beta」を立ち上げ、様々なコンテンツを提供し、AIの実装を進め、来年2025年には、「Wisdom-AI」として、AIを実装した新しい学習とメディアサービスを市場導入します。"

と発表されている。スマホ音声入力で質問すると、AI西口一希さんが回答してくれる、という状態が、たぶん2025年ごろから始まる。中途半端なマーケティングコンサルタントなら、要らなくなりそうなやつだ〜 が実際、そうはならないのは、AIは現場に入っていけないから。現場で人と話せないから。

・・・

以上、数日前の記憶を頼りに、八田の私見まぜて書いた、無料の(=無責任な)文章です。正しく詳しく知りたい方はお金で解決してください。12月の最新刊『ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質』 ↓ ↓ ↓ お読みを


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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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