【アート・シンキングの学校 #00】「自分」起点で世界をふるわす方法〜イベントレポート〜
日経COMEMOの主催で行われる「アート・シンキングの学校」は、昨年大反響をいただいた「アート思考×ビジネス」をテーマにしたシリーズイベントの続編です。前回に引き続き、新著『ハウ・トゥ・アート・シンキング』も話題の若宮和男さんのプロデュースにより、4月から開講します。
今回は、その開講直前のプレイベントとして、若宮さんが今、最も注目するアーティスト・山崎阿弥さんをゲストに迎え、「自分」起点で仕事をしていくための手法を学び、体感するイベントが行われました。
■若宮和男さんからアートシンキングのレクチャー
アートシンキングの中心の軸となる考え方が「自分」起点。「自分」起点のユニークな価値を生むことが、アートシンキングの重要なポイントであると若宮さん。ここで若宮さんから会場の皆さんに質問がありました。
家にある箱ティッシュのブランド名を答えられますか?
たいていの人は銘柄を覚えておらず、それは、販売されているさまざまな銘柄の箱ティッシュに、ほとんど「差がない」からだそうです。例えば、好きな銘柄の箱ティッシュがあっても、他の銘柄のものが50円安ければそちらを買ってしまうでしょうし、在庫切れしているなら「他の店舗を探してもらえますか?」「予約したいんですけど」とはなりませんよね。
一方で、こちらの質問には即答できる方は多いのではないでしょうか?
使っているスマートフォンのブランド名を答えられますか?
「iPhone11です」など、ブランド名どころか世代番号まで答えられるはずです。また、箱ティッシュのときのように、例えば「iPhone11」の発売を楽しみにしていて買いに行ったのに、5000円安い別の銘柄を買ったりはしません。「他の店舗を探してもらえますか?」「予約したいんですけど」となるはずです。
若宮さんのお話では、「箱ティッシュ」と「スマートフォン」のこの違いの原因は「代替不可能性」と呼ばれるもの。つまり、「箱ティッシュ」は替えがききやすく、「スマートフォン」は替えがききにくいものということです。
次に、また若宮さんから会場の皆さんに質問がありました。
この絵画はいくらだと思いますか?
示されたのは、赤一色で塗られた1枚の絵画です。実はこれは「バーネット・ニューマン(アメリカの美術家)」が描いた、およそ100億円もする作品です。
便利に使える「箱ティッシュ」は5個入りで約200円程度。何に役立つのかわからない「絵画」が1点100億円。
「おなじもの」をたくさんつくれることが価値であった時代から、「ちがうもの」がつくれないと価値として認められない時代に変化してきて、不確実性が高い時代になり、今は3年後に何が売れるのかを予測できる人はいないと若宮さんは言います。
「理屈」で正解を見つけることが難しくなった時代に
ものや事業をどのように生み出していくのか?
自分の価値をどのように生み出すのか?
↓
アートシンキング
そしてレクチャーの最後に、若宮さんから「身体性」に関するお話がありました。
アートシンキングのキーワドの中に「身体性」というものがあります。ビジネスの現場には「身体性」がとても少ない。オフィスには音や匂いがなく、「頭」と「目」しか使わずにみんな仕事をしている、つまり「理屈」ばかり考えて、ビジネスをしているということだと若宮さんは言います。
新しい価値を見つけたり生み出したりするためには、身体的な体験が重要だということを、山崎さんのパフォーマンスを通して体感してもらいたいとおっしゃっていました。
■山崎阿弥さんのパフォーマンスと耳のワーク
パフォーマンスの前に、山崎さんから自己紹介がありました。
山崎さんは、声を使ってパフォーマンスをしたりインスタレーションをつくる、「声のアーティスト」です。「エコ・ロケーション(反響定位)」と呼ばれる、音の反響を利用して空間を認識する方法がありますが、山崎さんはこれに近い方法を使って歌っています。
「エコ・ロケーション」は、クジラやイルカやコウモリなど、海の中や暗闇で暮らす生き物たちが、「どこに餌があるか?」「どこに危険があるか?」ということを認識するために、音や音波を発してその跳ね返りを受け取り、世界を認識する方法です。
人間でも、例えば目が見えない方がこの方法で自転車に乗ることができるなど、技術を上げて、生活に活用できるレベルまで使える方もいるそうです。
実際の山崎さんのパフォーマンスは、こちらの動画でご覧いただけます。
今回のイベントでは、まず山崎さんの「歌」を聴いてから、「耳のワーク」に入りました。さまざまな「音」に耳を傾け、聴覚を拡張させて、聴くことを通じた「身体性」の変化を体感していくワークです。
ワークを通して変化した「耳」で、もう一度、山崎さんの「歌」を聴きます。さらに、自分が「どれくらいまで聴こえたか?」を、周りの参加者の方たちとシェアしました。もちろん、ここに聴き方の「正解」はありません。みんなで感想を話し合いました。
当日、実際に参加されて、山崎さんのパフォーマンスを体感された方からは、このような感想が寄せられていました。
■若宮さんと山崎さんのクロストーク
クロストークでは、若宮さんが今回の「アート・シンキングの学校 #00 」に山崎さんを招いて話したかったことを中心に、トークが行われました。
もともと世の中にない「声のアーティスト」にどのようにしてなったのか、アーティストとして他者からの影響をどんなふうに受けたのか、「歌う」ということにどのような感覚をもっているのか、自分自身や世の中にある音やものをどのような感覚で捉えているのかなど、アーティストとしての山崎さんの「身体的な感覚」のお話を聞きながら、トークが進んでいきました。
その中では、最初の若宮さんからの「アートシンキングのレクチャー」のお話にあった、「自分の価値をどのように生み出すのか?」ということにかかわる重要なポイントとなる話題もありました。
山崎さん:
川口隆夫さんという踊り手の方がいるんですけど、その方が「大野一雄について」というダンスを踊られたんです。
大野一雄さんというのは舞踏家で、いろんな方に尊敬されている大踊り手の方です。「大野一雄について」は、その大野さんを「コピーする」というコンセプトで行われたものでした。コピーできるような存在ではないということは、川口さんもわかっているし、みんなも「川口さんほどの踊り手がなぜこれをやるんだろう?」と思ったはずです。
でも、川口さんは「コピーすればするほど己が出てきてしまう」と。できないし、できると思ってやってないけど、大野さんに重ねていけばいくほど、そうではないものばかりが前に出てくる、ということなんです。
私はこれを初めて見たとき、「大野一雄さんと川口隆夫さんのデュオ」に見えて、コピーなんてものははるかに超えていると思いました。
そして私も、その後実際に、自分がそれまでにたくさんインプットしたことを、一度自分の体でコピーして、コピーしきれずにどうしても出てきてしまう「私」を、見つけてみようと思いました。
若宮さん:
ここのニュアンスって、なかなか伝わらないんですけど、そもそも「ちがい」ってわざわざつくるものではないんですよね。
「学ぶ」は「真似ぶ」と言って、真似するところから始まるんですけど、合わせようとすればするほど「差分」があることがわかって、そこに自分が現れてくるんです。
でも、そこを切り落としてしまうことがほんとに多い。「真似ぶ」ことをやりながら「自分のことを観察している」ことが重要で、そこでもう一度「自分に出会い直す」ことが本来必要なんです。
僕も大企業でサラリーマンをしていたことがありますが、そこにあるポジションや役職に、みんな合わせにいっちゃう。体のどこかから「これはちがう!」「自分はこっちじゃない!」と思えたときに、自分らしいやり方ができるようになると思います。
合わせるからこそ「ちがい」に気づくみたいな意味では悪いことではないのですが、本来の目的を忘れて、ただただそっちに合わせにいってしまうと、すごく息苦しくなる気がします。
そして最後に、若宮さんから、今回の「身体的な体験」と「アートシンキング」が、ビジネスとどうかかわっているかということについて、コメントがありました。
若宮さん:
「こういう話がビジネスにどう役立つのか?」とよく聞かれるんですけど、最初にもお話ししたように、ビジネスの現場には「身体性」が少ないんです。五感をほとんど封じて仕事をしている状態では、今日ここで体感してもらったような世界の感じ方に比べて、10%くらいしか感じ取れていないと思うんです。
世界の10%程度しか感じ取っていない中で、思いつく「ニーズ」とか「アイディア」は、もっと「身体性」を使うことで、より人を揺さぶれるようなものにできる確率を上げられると思うんです。
抽象的な話で、ビジネスには関係ないように思えるかもしれませんが、僕自身実感していることなので、今日はそのようなお話が山崎さんからも聞けてよかったと思います。
■最後に「アート・シンキングの学校」のお知らせ
今回のイベント「アート・シンキングの学校 #00 」は、昨年大反響をいただいた「アート思考×ビジネス」をテーマにしたシリーズイベントの続編の、開講直前プレイベントとして開催されたものです。
4月から開講される「アート・シンキングの学校」に関する詳細情報は、改めて日経COMEMOの公式noteに公開しますので、こちらをチェックしていただければと思います。
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若宮和男さんの最新のnote記事、そして新著『ハウ・トゥ・アート・シンキング』は、こちらからどうぞ。
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今回のイベントに特別ゲストとしてご登場いただいた、山崎阿弥さんの最新情報はこちらからどうぞ。
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「アート・シンキングの学校 」主催は日経COMEMOです。
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