AI-UXとAX(AI Transformation)というLayerXの挑戦
どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。
年末恒例になりました未来予測+来年の意気込みシリーズ。2021年末は「SaaS+Fintech」、2022年末は「コンパウンドスタートアップ」に関する記事でした。2023年末は「AI-UXとAX(AI Transformation)」を取り上げます。
LayerXにとっての未来予測は、評論家的な予測ではなく、自分たちが実践し、体現するものです。
SaaS+Fintechの文脈では、バクラクビジネスカードが好評で、決済額が年次で30倍の成長を遂げました。
コンパウンドスタートアップの文脈では、バクラクで6個のプロダクト、LayerX全体で計10個のプロダクトを提供しています。ARR(年間計上収益)はT2D3を遥かに超える速度で成長しています。
このように有言実行してきたのがLayerXの歴史であり、AI-UXとAXに関しても有言実行して実現していきます。
(2024/1/9追記)
偶然ではありますが、2024年1月にGoogle ResearchもAI-UXに関する記事を出していました。
ここではAI-UXの責任性。どうやってバイアスの少ないAI-UXを実現していくのかがメインで紹介されています。
AI-UXとAX(AI Transformation)
ChatGPTの衝撃はみなさんの記憶に新しいと思います。技術的な進化の速さはもちろんのこと、スマホ以来、久々に登場したUXの転換点であることも重要です。ChatGPTに刺激されて、今後さまざまなアイデア、UXが実現していくでしょう。
この変化から生まれる体験を、AI-UX(※弊社の造語です)と名付けたいと思います。AI-UXは、「AIを前提とした理想のUX」です。
大事な点は、AI-UXはAIですべてを実装しようということではないという点です。AIもAI以外のあらゆる手段も、「AIを前提とした理想のUX」を作るために総動員するという点です。
AIで体験を構築すべき部分とそうではない部分の見極めがとても重要です。
AIで体験を構築する部分も、AIの精度は100%にならないという前提で、いかにその間違いをUX的に吸収できるかを考える必要があります。AIとデザインの相互補完が重要です。現在はAIを完全な自動化手段と捉えるよりも、下書きをつくるもの、叩き台を作るものといったcopilotとして扱うことが重要です。そして足りない部分をデザインで補完する必要があります。
AIの精度を上げていくために、Human-in-the-Loop的な機構(データとその正解ラベルがループ的に集まる機構)をUXに自然に溶け込ませることが重要です。ここでもAIとデザイン、AIと既存のソフトウェア技術の融合が重要となります。
またAIの改善点を探るためのモニタリング基盤の構築、AIのアルゴリズムのデリバリーをしていくためのオフラインテスト・オンラインテストの仕組みの構築などMLOpsも重要です。
AIを知り尽くした上で、何のタスクを、どう解くかをデザインし、体験に落とし込む。どこでAIを使い、どこであえてAIを使わないか、全体の体験としてどう落とし込むかが鍵です。体験改善のモニタリングやアップデート基盤をどう構築していくか、というソフトウェアとデザインの総合格闘技戦になります。
(LayerXでの総合格闘技への取り組みは弊社の機械学習チームのマネージャーの松村の記事を参照ください)
AI-UXはプロダクトやエンジニアリング、デザイン以外にもビジネス組織全般にも影響を与えます。
マーケ、営業は「どういう期待値でUXを訴求すればいいか」がとわれます。100%自動化できますみたいな売り方は最悪でしょう。営業プロセスでも、実際の環境を顧客に触っていただき懸念点を解消していく、感動体験を届けるという営業が必要になるでしょう。GTMでもどういったターゲットのどういう規模のターゲットを選定すると、データ戦略上有利になるかという思考も大事になってきます。
カスタマーサクセス、サポートもAI-UXの前提で対応する必要があります。特にAIによる間違いが発生(これは絶対に起こります)した時に、どう顧客期待値を擦り合わせるか、その時の解決手段をどう提供するかは腕の見せ所になるでしょう。
このようにAI-UXはプロダクト・エンジニアリング・デザインにくわえて、ビジネス組織全般にも変化を及ぼします。ですのでこういったノウハウをいち早く溜めた会社がAI-UX時代をリードすると思います。一職業人としてもこうしたノウハウを素早く獲得することは、将来のキャリアプランに対して非常に有利に働くと思います。エンジニア、デザイナー、PdMはもちろんのこと、マーケ、営業、カスタマーサクセス、PMMなどの職種の方にとってもAI-UX前提でのビジネスノウハウは大きなキャリアの助けになるでしょう。
こうした洗練されたAI-UXで、ユーザーの体験を再構築していくことをAX(AI Transformation)と本記事では呼びたいと思います。
AI-UXで変わる世界
そうはいってもAI-UXのイメージはなかなか湧きにくいと思います。ここでは3つの例を紹介することでイメージを深めていただければと思います。
AI-UXの例1: 英語学習
まず初めに紹介したい「AI-UX」の例が、speakという英会話アプリです。
去年から今年にかけてかなり有名になったサービスであり、触ったことがある人も多いのではないでしょうか。私も例に漏れず、LLMの活用例ということで真っ先に触ってみたのですが、その体験に衝撃を覚えました。
今までの英会話学習は対人で英語が得意な人と会話するというものでした。speakが今までの英会話学習と決定的に違うのは「AIとの会話」による英会話学習であるという点です。
以下は実際のspeakでの体験です。
speakは個人にパーソナライズされた専属の英会話教師です。教師はAIですので、24時間365日いつでもどこでも英会話の練習ができます。学習内容は個々人の実際の発話データに基づき、合理的な修正ポイントを指摘してくれます。
英会話に限らず、AI教師のような「AI-UX」は今後教育の現場で当たり前になるでしょう。ぜひ触ってみてください。これが教育のAXかと体感できるはずです。
余談ですが、前日書いた 「LayerXの理想の営業組織を夢想する。 AIとデータによる営業生産性革命」 で、 "過去の商談動画を学習したAIが先生となって商談の質を上げるアドバイスをどんどんくれる" というアイデアを紹介しました。
これは、speakを実際に触ったことからヒントを得て、思いついたものだったりします。「AI-UX」という考え方はプロダクトだけではなく、社内の生産性向上にも使えるものだと思います。
AI-UXの例2: フリマアプリ
(※ 弊社の共同代表である松本との1on1で、松本より聞いたアイデアです。業界でLLMと誰よりも向き合ってる松本だからこそ出せる視点で、「AI-UX」ってこう考えるんだというヒントをもらった時間でした。)
これは思考実験です。もしフリマアプリをAI-UXに作り直すなら皆さんはどう作り直しますか?
今のフリマアプリは、ものを売ろうと思った時に、都度出品します。AI-UXでは出品という概念そのものがなくなります。
AI-UXのフリマアプリは例えばこんな体験です。
こういったフリマアプリが実際に流行るかはさておき、思考実験としては面白いと思います。実際、広告の世界ではRTB(Real Time Bidding)といって、上記のような体験が実現しています。物の売り買いの世界もAIの進化によってRTB化していくのかもしれません。
これ以外にも、AI-UXなブラウザはどんな体験だろう?AI-UXなECサイトってどんな体験だろう?AI-UXなゲームってどんな世界観なんだろう?…etc AI-UXであらゆるサービスを再構築したらどうなるかという思考実験ができるはずです。
AI-UXの例3: BtoB SaaS(バクラク)
(※すいません、自社の宣伝です)
BtoB SaaSのような、業務で使われるソフトウェアも「AI-UX」によって大きく変わっていきます
LayerX社が提供するバクラクも「AI-UX」によって、顧客支持を得ている例だと思います。具体的にはAI-OCRと請求書処理、AI-OCRと経費精算を組み合わせることによって、「アップロードしただけで請求書処理が終わる」「写真をとっただけで、経費申請の下書きが自動で作られる」といった体験を実現しています。
AI-OCR以外にも「AI-UX」で考えることで、BtoB SaaSの体験は劇的に進化します。例えばこんな体験が将来実現されていきます。
このようにAI-UXを考えることで、BtoB SaaSの体験も大きく再構築できます。バクラクでは法人支出にとどまらず、働く人のOSをつくっていくためにAI-UXを基軸に様々なバクラク体験を提供していきたいと思ってます。
日本の生産性革命はDXではなくAXによって始まる
AI-UXがすごいということ、実際に普及するか(AXするか)については大きなギャップがあります。
皆さんもご存知の通り、日本のデジタル化は非常に遅れています。それを打破すべく、DXという言葉が叫ばれましたが、それ対する無力感・虚無感を感じている人も少なくないのではないでしょうか。AI-UX、AXといった新しい言葉も結局同じでは?という疑問を抱く方も少なくないと思います。
LayerXでは現場に入り込んだ泥臭いDXを創業以来取り組んできました。そんな中で一つ逆説的な仮説に気づきました。日本の生産性向上の鍵はDXではなくAXにあるということです。DXを飛び越えて、いきなり紙からAIへのリープグロッグが起きるのでは、という仮説です。
いやいや、デジタルも扱えないのにAI…?と思う方もいるかもしれません。
しかし今年一年で皆さんはある体験を共通でしました。そう、ChatGPTです。
ChatGPTで、「文章を作る、要約する、絵を描く、アイデアの壁打ちをする、コーディングをするetc」といったさまざまな知的業務を行うようになりました。
ChatGPT以前にはデジタルの世界であっても、こういったタスクには専門的なプログラミングが必要でした。つまりほとんどの人にとっては、セットアップされたツールを使う以外にこういった知的業務を柔軟に取り扱うことはできませんでした。しかし今では誰もが自然言語でこういったタスクに取り組めるようになりました。これはデジタル化されたことのインパクトではなく、AI化されたことのインパクトなのです。(AIの民主化)
私見ですが、DXの恩恵を被るのは管理者、AXの恩恵を被るのは現場のユーザー(実際にそのサービスを触る人)だと思います。そしていつも事件は現場で起きています。
今までの現場目線では「DXしても現場はラクにならない、DXと言われて取り組んだけど結果的に業務量が増えてしまった。結局紙の業務とやることは変わっていない」ということが起こっていたのではないでしょうか。
AXのポイントは「業務そのものをなくす」ことです。
今まではDXしても意味がない、業務そのものは変わっていないと感じていた人にバクラクのデモを見せた時の「感動した顔」を私は忘れられません。
バクラクの新規契約いただくお客様のほとんどはデジタルやSaaSといったものと無縁の会社様です。ITセクター以外のお客様や地方の地場産業のお客様がメインの顧客層となっています。
AXというと少しとっつきにくそうなイメージですが、実際のAXは取り残す人を作らない、DXよりも優しいTransformationだと考えています。日本の生産性革命の鍵はDXよりもAXなのです。
おわりに
LayerXでは、AI-UXという考え方で最高にシンプルで磨かれた体験を作り、AX(AI Transformation)を通じて、日本の労働生産性に革命を起こします。
繰り返しになりますが、お客様視点では「AI」を全く意識させないことが大事です。AIという言葉でごまかさずに、実際のプロダクトの体験で「こういった業務がなくなります」「こういったコストが削減できるんです」ということを伝えていきます。
真に洗練されたAI-UXはこういった形でAXを実現していくものだと思います。
LayerXでは2024年、AI-UXを前提にした最高の働く体験をこだわって作り上げていきます。繰り返しになりますが最高のAI-UXを作り上げるにはAI以外のソフトウェア体験の磨き込み、改善基盤の構築も大事です。こういった基本を忘れずに、日本の最大の課題である、「人口減少の中での労働生産性問題」の解決に少しでも貢献できるよう努力を重ねていきたいと思っています。
こういった思想、理念に共感した方はぜひLayerXのメンバーと話してみてください。
Appendix
AI-UXに関する当社の発信です。