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なぜワクチンは日本に届かない〜では何故、国内ワクチンの開発は遅れたのか?〜OECD37カ国最下位の衝撃②

いつの間にか落ちていた国産ワクチン開発能力

「国産ワクチンを買い取ると政府が先に表明していれば、海外勢から価格を引き下げたり好条件を引き出したりする交渉ができたはずなのに」(バイオ製薬企業アンジェスの創業者森下竜一)

確かに国内のワクチン開発力と独自の治験データがあれば、前回見てきた海外製薬メーカーとの交渉においても有力なカードになったはずだ。

人類を苦しめてきたペスト菌を初めて発見したのは、北里柴三郎であり、黄熱病に多大な貢献をしたのは野口英世だ。戦前長崎大学には、中国大陸の感染症を研究する東和風土病研究所(現熱帯医療研究所)が存在した。

感染症医療先進国だったはずの日本が、なぜ今回のワクチン開発競争に負けたのか。

初期投資が大きく、需要が不透明なワクチン開発には、平時からの安定的に予算を確保した研究開発と、有事における集中的な国の助成金が不可欠となる

トランプ大統領(当時)は「ワープスピード作戦」の下、約140億ドル(約1兆5千万円)もの予算を23種類のワクチン開発の関連契約に投入し、他国を圧倒した。(結果、3種類のワクチンが緊急使用承認を獲得)

・モデルナおよびNIAID(国立アレルギー感染症研究所)=58億9600万ドル
・サノフィパスツールおよびグラクソスミスクライン=20億7300万ドル
・ジョンソン・エンド・ジョンソン=19億9800万ドル(4/8公表米議会予算局の報告書)

相当な予算が新型コロナウイルス感染症ワクチンおよび治療薬の研究・開発・製造および購入などの助成として計上されている。

翻って日本政府が昨年5月に第2次補正予算案で、新型コロナウイルス感染症対策に関する研究開発に対して計上した金額はわずか609億円。ファイザー1社の1/3にも満たない。

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予算の桁が違う。

 高い安全性が要求されるワクチンは大規模な臨床試験などで巨額の開発費がかかり、投資を回収するには世界で事業を展開する必要がある。だが、世界市場は欧米の巨大製薬が席巻、米ファイザーなど上位4社でシェア7、8割を占める状況で、参入障壁は高い。「わが国のワクチン産業は護送船団方式に守られ、国際的な潮流から取り残されつつある」

結局ここでも、携帯端末等様々な状況と同じ、護送船団のガラパゴスだ。

感染症対策か国家安全保障対策か

このワクチンに対する海外と日本の政府対応のギャップはどこから来るのか。それはひとえに、今回のコロナ禍とワクチン調達を一省庁担当の感染症対策とみるか、国家安全保障上の危機管理の問題と認識するかの違いだ。

冷戦終結で脅威は核から生物化学兵器に移り、ワクチンの重要性が高まった
「企業側も製造工程を一度つくると、流行がない限り赤字で補助金頼みになる。米軍は毎年数千万ドルをこうしたバイオ企業にばらまき、平時から多様な様式のワクチンを確保してきた。臨床試験の第1、2段階くらいまで進めておけばよく、いざパンデミック(世界的大流行)が起きたら、種の近い病原体のワクチンを応用して最短で大量生産・投入できる」
「背景にあるのはワクチンは安全保障の柱という考え方だ」(内閣官房・新型インフルエンザ等対策有識者会議メンバー福田充・日本大学危機管理学部教授)
米英独仏に中ロなど有力なワクチンメーカーを抱える国は軍を持ち、海外派兵時などの感染症に備えるためにワクチンは重要な戦略物資になってきたという。もちろんパンデミック(世界的大流行)から国民を守るためでもある。

前回述べたようにいざという時の国産ワクチンの開発能力がないと見透かされている日本政府は交渉においても足元を見られる。

今になって慌てて、衆議院選挙を見据えた公明党から、国産ワクチン開発の要望の動きが出てくる。

長崎大学の熱帯医療研究所等、感染対策専門家によると、これまで一律に削られてきた予算が急に付くようになったという。しかし今回の周回遅れの国産コロナワクチンに協力したい治験者はいるのだろうか。世界中の人々で実証済の海外ワクチンを接種したいのではないか?また開発できたとしても、海外市場は2022年には既に飽和しており市場はなくコストの回収できない。ビル・ゲイツは世界は2022年に正常化すると予測しているが、2022年に日本人も、世界中の人も誰も必要としないワクチンがそっと開発され廃棄さられるのではないか?

それでもワクチン開発は、先のモデルナのmRNA型ワクチンの様に10年単位の開発期間が必要となるため、次のパンデミックに備えては必要な投資かもしれない。いずれにしても国産メーカーからすると、過去20年予算を削るだけ削り今回も早々に海外からの調達に動いておいて、何を今さらという感じだろう。

とにかく「国民の命と財産を守る」ということが安全保障だとすると、20世紀の発想の「戦争をしない、戦争にいかない」という事だけではもはや語れない。

平時の治験手続きにこだわる厚労省、消えた?!5000万回のワクチン

EUから日本に向けて既に5230万回分出荷されているという情報もある。

少なくとも許可が降りたことだけは確かなようだ。

河野大臣もEUから相当数輸入していることを認めている。

「今、EU(ヨーロッパ連合)が、EU外に一番輸出をしているのが日本で、その次がイギリスです。今の私の頭痛の種は、EU外にワクチンを出す時には承認を取らなくてはいけないことです。これをとにかく止めないで、日本にちゃんと出してねという交渉をずっとやっています」(2021/04/26テレビ朝日 河野太郎大臣インタビュー)

首相官邸が発表している国内の接種実績(4月28日まで)は、医療従事者と高齢者合わせてやっと349万回超。もし既に出荷されたとしたら残りの5000万回分弱はどこに消えたのか?

一つの可能性としては国内での臨床試験だ。ファイザーのワクチンは、英国では12月上旬に接種が開始されたが、国内で改めて臨床試験を行う仕組みだった。

国内では160人が被験者となった。だが、たかだか160人に接種したくらいでは、何万~何十万接種に数件レベルの重篤な副反応は、適切に確かめられない。海外のワクチンメーカーにしてみれば、この非常時にただの「面倒な客」でしかないだろう。(久住 英二 : ナビタスクリニック内科医師)

すでに世界で約4万人の被験者で安全性と有効性が示されたワクチンにもかかわらず2月中旬にやっと国内承認された。

これでも、総理は「1ヶ月前倒しさせた」と胸を張っていた。

EUから日本に出荷された?5000万回強ワクチンの中には、ファイザー以外に治験承認の降りていないモデルナやアストラゼネカのワクチンも相当数含めれていると思われる。河野大臣が、ファイザーとの契約が終わってない中で、ゴールデンウィーク開けに数千万単位でのワクチン接種を展開するという見通しは、EUからの到着済?のモデルナ、アストラゼネカのワクチンの認可が済み展開できると目論んでのことか?(政府はゴールデンウィーク明けのファイザー製と説明中)

先日の記者会見で、ワクチン供給の遅れについて問いただされた総理は、苦痛に歪んだ表情で答えている。

「このワクチンについても国内治験、海外は国内治験を実は必要としない国がほとんどです。米国でこのワクチンが完成されればそれを使えるわけですけども、日本は国内でも治験をやるように、そうした仕組みになってます。ですからこうした緊急事態に対しての対応の法律を改正しなきゃならないと、私自身そこは痛切に感じてます。」(2021.4.23緊急事態宣言の発出についての菅内閣総理大臣記者会見)

こちらも、海外での国際共同治験の支援等の動きがようやく出てきている。

歪んだマスコミ報道によって作られた私達国民のワクチンに対する低い信頼

何故、このような緊急事態においても、160人規模の「アリバイ証明」のような国内治験のプロセスに厚労省はこだわるのか? それは、国民のワクチンに対する低い信頼と、過去の子宮頚がんワクチンのHPV薬害訴訟などに対する苦い経験が厚労省と製薬会社にはある。

英国の調査会社のワクチンの安全性・重要性、・有効性への各国住民の信頼度分析*によるとワクチンが安全と答えた割合の最低3国は日本(8.9%)・フランス(8.9%)・モンゴル(8.1%)と日本は極端に低い。(英国London School of Hygiene & Tropical MedicineのLarsonらによるもので、2015年9月~2019年12月に行われた149ヶ国(284,381名)を対象とした290件の調査データ)

過去のマスコミ報道の影響も大きい。

例えば、子宮頸がん予防ワクチンは先進国を中心に、70か国以上が接種費用を公費で助成し、WHO(世界保健機構)をはじめとする世界の主要な国際機関や政府機関があらゆる安全性情報を検証した上で、引き続き接種を推奨している。

にも関わらず、マスコミが反ワクチン報道を続ける中で、日本人はいつしか、ワクチンを危険なものと認識するようになってしまった

2010年代前半に朝日新聞が「副反応で人が死んでいる」というようなキャンペーンをやった結果、厚生労働省が接種勧奨、要するに接種をおすすめするのをやめてしまって、結果的に日本だけが子宮頸がんで死ぬ人が年間何千人もいるということになってしまったのです。

こうした一部のマスコミ報道が許せないのは、不安を煽るだけ煽っておいて訂正せず、世論の流れをみて姑息に削除すること

毎日新聞は掲載したオリコンニュースの記事を(毎日新聞WEBサイトから)削除し、ツイッターも削除。新潮も「コロナワクチンを『絶対に打ちたくない』と医師が言うワケ」という記事を(WEBサイト『デイリー新潮』から)削除。

官僚や政府に対しては、歴史の検証に耐えうる公文書管理を!隠蔽体質の政権!と批判するが自分達の記事は世論の見てこっそり削除隠蔽する。結果、歪んだ正義と非科学的な報道により国民にどれほどの誤ったワクチンに対する認識が広がったのか、後に検証できない。

国民のワクチンの安全性に対する信頼性が低ければ、厚労省も形式的にせよ時間のかかる国内治験の手続きを踏まざるを得ない。現に、国も製薬会社も複数の子宮頸がんワクチンに関する薬害訴訟を抱えている。

日本はこれまでのワクチンで色んなことがあったため、日本人にとってこのワクチンは安全なのかどうかを確認しようという声が非常に強くありました。(2021/04/26テレビ朝日 河野太郎大臣インタビュー)

私達国民も、流行爆発している海外各国で、その有効性と安全性が十分に検証されたワクチンをゆっくり後で買えば良いとどこかで思っていなかったか。

まとめ〜今回の経験から私達が学び認識を変えるべき事〜

これまで①なぜワクチンは日本に届かない〜グローバル企業と平和国家の交渉〜と今回②で見てきたようにOECD加盟国最下位の現在のワクチンの調達と接種の圧倒的な遅れには、複数の原因とその因果関係がある。

①日米同盟から2020夏にはワクチンは輸入で確保できたとの慢心

②ファイザー等のグローバル民間企業に対する政府の交渉力の弱さ

③国内ワクチン開発力の弱さ(海外と比べた政府支援の弱さ)

④国産ワクチン開発が国家安全保障問題だという政府の認識のなさ

⑤形式的な治験手続きにこだわる厚労省(薬害訴訟の影響)

⑥国民のワクチンに対する異常なまでの信頼の低さ(歪んだマスコミ報道の影響)

①〜⑥は順に連動している。

少なくとも、私達国民がワクチン接種の重要性と安全保障上の重要性を理解しない限り、開発が遅れている国内ワクチン開発メーカーもその助成支援が遅れた厚労省も、私達は今批判する資格はないように思う。

国民のワクチンの必要性に関する意識が低ければ、限られた予算を回して国内メーカーのワクチン開発の支援もできない。すぐにマスコミが特定企業との癒着だ税金の無駄使いだと批判する。

これまでの日本の一国平和主義での世界観科学的根拠を無視した日本人特有のゼロリスク安心信仰は改める必要な時期だと考える。

追記: 5/9 10:00

「ワクチンギャップはポリシーキャップ」

「科学とは信じる事でなく、理解する事。」ジェンナー

良くまとまった記事です。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL024HX0S1A400C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210509_A











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