2020年に変わる時間と距離の感覚。たとえば船旅が復権するかも?という話
ここしばらくを振り返って、自分の中で何が変わったのだろうと思うと、時間の感覚が大きく変わってしまったように思う。なんだか時間の流れがとても早い気もするが、一方で3月からそろそろ約半年が経とうとしているほど時間が経っているとは思えないのだ。
こうした時間の感覚の変化が他の人にとってどうであるかは分からない。ただ、こうした時間感覚の変化が、これからのビジネスを考える上で大きなポイントになるのではないだろうかと、最近考えるようになった。
私自身が新型コロナウイルスの蔓延に応じて仕事のスタイルを基本的にリモートないし自宅勤務に変えたのが3月。元々リモートで会議に参加するといったことは、自分がスタートアップの一員として仕事をしている上では以前からごく日常のことであったから、さほど変わっていないと言えば変わっていない。一方で、大企業との仕事においてはそれまではリモートでのミーティングをお願いしても拒まれることすらあったので、こちらについては大きな変化があった。実際に4月の緊急事態宣言以降は、大企業の動きが変わった、端的に言えば非常に遅くなったと感じた。
一方でスタートアップの仕事については特にこのコロナの時代に求められることに関連するスタートアップの仕事をしていたこともあって、コロナ以前より忙しい日々を過ごしていた。
こうした時期を約6ヶ月過ごして自分で感じていることは時間の進み方が何か遅くなってしまったように感じるということだ。
例年であれば3月からこの8月までの間に数回の海外出張は必ず定例的なものとして行なっていたし、それに伴う様々な打ち合わせなどもリアルで行なっていた。そういったものが全てなくなってしまうか、オンラインに移行してしまった。
そのせいか、3月以降の約半年間というのがすでに半年が経ったという実感があまりない。もうすでに夏も終わりに向かっているということが何か信じられないような気持ちになってしまう。それは、たとえば梅雨の時期に、雨を気にしながら移動することが極端に少なくなったり、夏に夏らしい行事をしていない、たとえばビールを飲みながら花火を楽しむとか、今年はまだかき氷を食べていないことにこの原稿を書きながら気が付いたが、そういう「当たり前にあったこと」がなくなってしまったからなのだろうか。
一方で、私自身が3月のCOMEMOに書いたようにこのコロナウイルスの問題は時計の針を早めて進めている部分があるということも事実だと思う。大企業の経済活動もここしばらくで動きが復活してきて、リモートでの会議などもごく普通のこととして行われるようになってきている。これもコロナウイルスの問題がなければ、おそらくまだ数年先の未来を待たなければ起きていなかったことだろう。
そして、大企業かスタートアップかという企業の規模の問題や、日本か海外かといった地域の問題を問わず、世界中のビジネスパーソンがリモートでの会議が当たり前になることによって、会議だけにとどまらず、例えばオンラインでのカンファレンスといったものも、ごく当たり前に開かれるようになった。この3月からの半年間で自分が参加したオンラインでの各種のビジネス系のイベントの数は、正確にカウントしてはいないが、昨年と比べても非常に数自体は増えたのではないかと思う。会食の回数が減った分、オンラインイベントへの参加が増え、平均して週に3回は少なくても予定が入っている状態だ。
そのおかげで多くの新しい取り組みや考え方を吸収できた部分もあったと思うし、そうしたオンラインのミーティング参加をきっかけに購入した本の数も増えた。
一方で時々指摘を見かけるように、オンラインのコミュニケーションはオフラインに比べると密度が薄いといわれるし、自分もそういう傾向があるように感じる。一つには画面に映ったものにしか反応ができないし、また同じ人と対面して同じ時間話をしていても、オフラインに比べ情報量が格段に少ないという問題はある。例えば端的に例をあげると、匂いや香りをオンラインで感じることはないから、例えば香水の香りが人に関する記憶とセットになる、ということは現在のオンラインコミュニケーションでは起こらない。こうしたことから、オンラインのコミュニケーションは密度が薄いということは言えるのだろう。
こうしたリアルな経験が伴わないことによる時間の過ごし方の「薄さ」が、何か時間の経過がゆっくりであるかのような気持ちになってしまうことの原因になっているのかもしれない。
一方で、様々な分野についてこれまで以上に色々なカンファレンスに出て、こういうものの考え方があるのかとか、こういった世の中の動きがあるのかというものを知るという意味においては、格段に速いスピードで物事が動いているという一面もある。このようにして2020年(以降)の私たちの時間の感覚は、それまでとは非常に大きく異なりはじめているのではないだろうか。
そして、こうしたオンラインの動きであれば開催される場所あるいは会おうとする人がどこかという距離の問題は全く関係がなくなってしまう。相手と自分がオンラインにで繋がれる場所にいるのであれば世界のどこであろうとも関係がないのだ。あるとすれば、時差の問題だけが残るのだ。
これによってコロナウイルス蔓延以前のビジネスで、時間と距離に関係するものが大きな変容を迫られているということはすでに各種報道されている通りだ。
その典型の一つは、旅に関するビジネス。これまで出張をするということであれば時間と距離を跨ぐために移動していたわけだが、これが検疫上の問題で移動ができなくなってしまうという問題が発生している一方で、上に書いたようにオンラインであれば何時でも相手とのミーティングをすること自体は可能になった。
こうして時間と距離に関する私たちの考え方や実際に取り得る方策は変わってしまった以上、新たな時間と距離に対する感覚にあわせることが新しいビジネスを生み出すために求められているのだと思う。
例えば、新型コロナウイルスの問題に伴って国境を越えて移動する場合に2週間程度の自己隔離と呼ばれる待機期間を取るように要請されるケースが増えている。必要があればその2週間の待機時間を取ってでも移動する人たちが、僅かではあるかもしれないが一定の数いることは間違いがない。そうであるとすれば、この自己隔離期間を移動中に行なってしまうという考え方も、ひとつのビジネス仮説としてありうるのではないだろうか。具体的には船旅によって自己隔離期間を船の中で過ごすということが可能になるのであれば、飛行機代と自己隔離のためのホテル代に相当する船旅の料金であれば、出張移動を船の中で過ごすということも選択肢になってくるのではないか。極東アジアから欧州方面への移動なら、シベリア鉄道での移動も同じように考えることが出来る。
もちろん船の中で発症者が出ることが大きな問題になるということは、ダイヤモンド・プリンセス号の件で日本はその当事者であるからよく分かっている。この問題をどうクリアするかということは大きな問題であるので、あくまで思考実験に過ぎないかもしれない。しかしそういった感染の蔓延を防ぐような船の構造が取られたり、あるいは発症者を緊急にヘリコプター等で陸上に移送し隔離するような体制を取ることができるのであれば、船旅をしながら自己隔離し、目的地に着いた時点から待機期間を経ずに移動できる、といったことが各国の検疫当局の承認も得て実現できるのであれば、こういった選択肢も一つの検討材料になるであろう。
これは交通機関に関する一例に過ぎないが、コロナ後のビジネスを考える時に、この時間と距離の感覚がどのように変わってきているかを考えることは、一つの中心的な検討ポイントではないかと思う。