100万人が参加、気候変動について学ぶフランス発ワークショップ「クライメート・フレスク(Climate Fresk)」
今年の夏を振り返った際、猛暑・酷暑日、先週のハワイでの山火事、世界中で起きている異常気象とその被害を思い起こさずにはいれません。映像などを見るにつけ、改めてその被害の甚大さを感じます。
気候変動との関連が指摘され、気候変動対策や脱炭素の話題は折に触れて目にするものの、時に難解で広範囲なため、体系的に理解することが難しいと感じる人も多いのではないでしょうか?
昨日のニューヨーク・タイムズの記事において、『パリでのトレンディな夜のお出かけに、気候変動ワークショップはいかが?』というタイトルで、フランス発で世界中で100万人以上が参加した気候変動ワークショップ「Climate Fresk」のことが紹介されていて、とても興味を持ちました。概要をご紹介してみたいと思います。
Climate Fresk(クライメート・フレスク)とは
Climate Freskは、フランスで開発された気候変動教育ワークショップで、現在世界50カ国以上で約100万人の参加者に利用されている。科学的、視覚的、協働的、そして楽しい方法で気候変動の全容を学ぶことができる点が特徴
このワークショップでは、気候変動の基礎科学について学び、プロのファシリテーターとともに、気候変動に対するアクションについてディスカッションする機会を提供
ワークショップの構成(3つのステップ)
IPCC報告書に基づいた情報が載った42枚のカードを使ったゲーム形式で気候変動の全体象をインプット。42枚のカードはすべてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のデータに基づくもので、参加者はチームの中で気候変動に関する共通の知識の土台を形成することが可能
得た知識情報をもとに意見のアウトプット
とるべきアクションの考察
ワークショップ終了後、参加者は脱炭素社会への関心、行動へのモチベーションを高めることができる
企業や組織においては、チームビルディングや経営層トレーニング、クロスファンクショナルな取り組みなど、さまざまな活用例がある
*公式YouTubeチャンネルでの紹介動画
日本国内でも認定ファシリテーターとして運営されている企業や、実際に企業内でワークショップを実施した事例などが紹介されてます。
ニューヨーク・タイムズの記事によると、参加者がカードを使って「フレスコ画」を描くことから名付けられた「クライメート・フレスク」の人気は、ヨーロッパの多くが気候変動に伴う暑い夏に直面している中で生まれ、現在はフランスで流行のナイトアウトとなっていて、フランス国外でも50カ国語に翻訳され、米国を含む海外での参加者数は約20万人と報じられてます。
開催の様子も以下のようにとてもカジュアルに実施されていることが伺えます。
なぜフランス発?ヨーロッパにおける気候変動への意識の高まりとフランスでの相次ぐ異常気象
クライメート・フレスクがなぜフランスで人気か?との疑問に関しては、「フランス南部で猛威を振るう山火事や、ノルマンディーのDデイ・ビーチを浸食する増水など、フランスに影響を及ぼす環境変化を理解することへの関心の高まりと呼応している。」と指摘されてます。
昨年フランスで最も売れた本は、気候危機を題材にしたコミック本『Le Monde Sans Fin(終わりなき世界)』で、50万部以上売れたとのことです(アマゾンでも2300以上もの評価がついてます)。
ワークショップをきっかけに、温室効果ガス排出の主な原因である肉の消費を減らしたり、雇用主により環境に優しい習慣を導入するよう働きかけたりするなどの行動を起こすようになった人もいるそうです。
また、見逃せないのが比較的簡単で運営・参加しやすいことにもよるとのことです。 カードのテンプレートはオンラインで無料で入手可能で、ファシリテーターになるためのトレーニングも数時間で完了するそうです。
このワークショップへの関心は高く、現在ではフランスのエリート大学数校の入門コースに組み込まれ、BNPパリバ銀行などの大手企業でも教えられていて、フランス政府は、来年末までに25,000人の上級公務員を対象にグリーン・トランジションに関する研修を実施する計画において、このワークショップを取り入れることを検討しているとのことです。
国内においては市民が議論を積み重ねて政府や自治体に提言する「気候市民会議」等が実施されてますが、クライメート・フリスクの「バーで、数時間で、気軽に、楽しく」という構成が敷居を下げてくれるのかもしれません。
求められる気候変動対策・脱炭素に取り組むための共通の知識・認識の土台
一部の環境活動家や環境専門家からの批判的な考え方として、このワークショップは気候変動を加速させた政治的・経済的決定に疑問を呈していない、或いは、グリーン・ウォッシングに利用する場合もあるのではないか、という声もあるそうです。とはいえ、ただでさえ難しいと言われる気候変動の複雑で広範で体系的な知識を得て、組織内でのリテラシーを高める、という点において、とても効果的な方法なのではないかと個人的には感じます。
私自身も過去にコーホート型のオンライン教育プログラムの「Terra.do(テラ・ドゥ)」、米国NPOのClimate Interactiveとマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で開発したエネルギー・気候政策シミュレーター「En-ROADS」、或いはFinancial Times社が昨年開発した「クライメート・ゲーム(Climate Game)」等を体験したことがありますが、参加・運営のしやすさ、100万人という参加者の裾野の広さ、という点において、クライメート・フレスクの可能性はとても大きいのではないかと感じました。
日本においてはエネルギー資源を海外に大きく依存している点、福島における原発事故の経験、地震・台風等の自然災害に対する諦念的な感覚、気候変動について普段から話題にしにくい空気感等、海外の状況・教育コンテンツがそのまま活用しにくい部分も当然あると思われます。
ただ、今年の酷暑を体験し、来年も今年以上に地球温暖化が進むことが予想されている今、気候変動対策・脱炭素に取り組むための共通の知識・認識の土台を築くことが今まで以上に求められているのではないかと感じます。「グリーン分野のリスキリングが大切である」と政府からも呼び声がかかる今だからこそ、改めて考えてみたい大事なテーマであるのではないでしょうか。
cover image: Canva
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