本業で同僚や上司に認められることが、副業でたくさんの仕事をとる一番の近道!(倉成英俊さん×本谷亜紀さん)〜「日経COMEMO」×「日本経済新聞」連動企画〜
この記事は1月19日(火)に開催した、オンラインイベント「働き方innovation #08 それでも組織に属する理由」の内容をもとに作成しています。
コロナの影響で働き方が急速に多様化している中、ここ最近「働き方の新モデル」として注目されているのが、会社を辞めずに仕事を複数もつ「マルチワーカー」です。フリーランスでもなく会社員でもない。マルチワーカーにはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
電通に20年間勤務され昨年起業、電通社員でありながら個人の活動(B面)をもつ社員で「電通Bチーム」を結成し活動した経験をもつ倉成英俊さんと、株式会社divで広報の仕事をする傍ら、ラーメン評論家としても活躍されている本谷亜紀さんにお話を伺いました。聞き手は、働き方について30年以上取材を続ける日経の石塚編集委員です。
■はじめに
ー石塚編集委員
昨年はコロナの感染拡大の影響もあり、働き方が大きく変化した1年でした。その中でも注目されているのが「副業/複業」です。2021年も引き続き副業解禁の流れは加速していくのでしょうか?
実際のところ組織に属する利点は多く、一例を挙げると、社員の育成にコストをかけて成長機会を与えていることなどがあります。そのような点をないがしろにして「副業ブーム」のような流れを作ることには、少し違和感を感じます。
そこで今回は、組織に属しながらその枠を超えて活動や仕事を広げることについて、実践した経験をもつお2人、倉成英俊さんと本谷亜紀さんにお話を伺いたいと思います。
まず、今回のイベント開催にあたっての事前打ち合わせで、お2人が話していたことを動画にまとめましたので、こちらからご覧ください。
ー倉成さん
僕は昨年まで20年間、電通に勤めていました。その中で「個人的なB面」をもっている人、例えば、私的な活動や趣味の中ですごいことをやっている人、前職で違う分野の経験をもっている人、大学時代に特殊な研究をしていた人などを集めて、「電通Bチーム」を立ち上げました。
「側面で本業の仕事をするとどうなるか?」「組織に属しながらも、個人の才能を活かすためにはどうすればいいか?」ということにチャレンジしていました。
ー本谷さん
私は今、プログラミングスクールの「TECH CAMP」を運営している株式会社divで広報のリーダーをしています。社会人になってから10年で、現在3社目ですが、ずっと広報の仕事をしています。
そして、どちらが本業かわからないような状況なので、副業と言っていいかどうかわかりませんが、ラーメン評論家としても活動しています。商品やメニュー開発のアドバイスをしたり、ラーメン番組のレポーターや雑誌記事のライティングをしたりしています。
その他に、フリーランスで広報支援の仕事をしたり、昨年は友達6人と会社を起業したりもしました。
ー石塚編集委員
組織に属していながら、その枠にとらわれず活動しているお2人ですが、まだまだ一般的には本業一本の方が多いのが現状です。これについて本谷さんはどう思われますか?
ー本谷さん
私の周りでは副業をしている人は多いですね。逆に、会社員一本でやっている人のほうが、会社の中にも少ないような気がします。やっぱり、副業している人の周りには副業している人が集まるものなのだと思います。
ー倉成さん
僕が15年前に最初に作ったプロダクトが、紙飛行機の形のポストカードでした。同期とお金を出し合って作って、ミュージアムショップで売っていました。
これは会社公認でやっていたことで、副業と言えば副業なのですが、対価を得ずに、純粋に自分のやりたいことを趣味などを通して追求している人もいると思います。本谷さんのように最終的にそれが生業になっていくようなものは、世の中から見れば副業になると思います。
■肩書を複数持つ必要ありますか?
ー石塚編集委員
先日まで日経COMEMOでは、「肩書を複数持つ必要ありますか?」というテーマで投稿募集を行っていました。たくさんの方にご意見をお寄せいただいて、過去最多の投稿数となりました。「肩書」に対する皆さんの関心の高さが伺えました。
倉成さんご自身も投稿を寄せていますが、改めて肩書についてのお考えを伺えますか?
ー倉成さん
僕は肩書は嫌いですが、テーマとして「肩書」というのはいい投げかけだったと思います。例えば、「お金についてどう思いますか?」とか「恋愛についてどう思いますか?」とか、そういうものと同じくらい人生観を反映しているのが「肩書」だと思います。
僕は「人の才能」しか人類の資源はないと思っています。僕の仕事はプロジェクトを成功させることですが、「誰に頼むか?」という最初の一手を間違うと、とんでもない方向に進んでしまいます。だから、どういう能力や才能をもっている人か、どんな人柄なのかなどをよく見ています。
肩書で人を見誤ることが、世の中あまりにも多いような気がします。
ー石塚編集委員
本谷さんは「ラーメン評論家」という肩書は、いつから、何をきっかけに名乗り始めたのですか?
ー本谷さん
私が自ら名乗ったのではなく、テレビを見てくれている視聴者の方やメディアの方が「ラーメン評論家の本谷亜紀」と呼び始めたことがきっかけでした。
私は当時、ただラーメンが好きで毎日食べている女子大生というスタンスでやっていましたが、世の中が「ラーメン評論家の本谷亜紀」がわかりやすくて、そのほうが流通しやすいならそれがいいと思いました。それで、後になって自ら「ラーメン評論家」と名乗るようになりました。
肩書は相手ありきのことなので、わかりやすさを求めて名乗るのはいいと思いますが、自分を大きく見せたり自慢げに振る舞ったりするためのものなら、むしろつけないほうがいいと思います。
ー倉成さん
さっきと逆のことを言うようですが、戦略的に面白い肩書をつけるのはいいと思います。その肩書が作る世界観がエンターテイメントになっているような、見ていて楽しかったり、イタズラだったり、わざとその名前を名乗ることで何らかの変革を起こそうとしているなら、僕は賛成です。
ー本谷さん
私は広報の仕事をしているので、何にでもタイトルをつけがちなのですが、タイトルとしての「ラーメン評論家」というのが世の中的にわかりやすいような気がしています。そのわかりやすさで、お仕事もいただけているのだと思います。
私の場合、このタイトルで自分を演出している、PRしているということです。
■副業実践者を組織は受け入れてくれるのか?
ー石塚編集委員
日経新聞朝刊「働き方innovation」面で、みずほフィナンシャルグループが副業を解禁したという記事を書きましたが、このとき社内では「副業するような人は愛社精神がない」と、副業に反対する意見が出たそうです。
そもそも制度として認められていない会社も多いですし、認められていても周りが許容してくれない会社もあるようです。
本谷さんは、社内の人たちから冷たい視線で見られたという経験はありませんか?
ー本谷さん
今の会社は、副業をもちながら入ってきている人の集まりなので、否定されることはありません。私は転職するときには副業ありきで考えているので、副業を認めてくれる職場しか選ばないと思います。
イベント参加者からの質問:できる社員はスキルアップして還元と捉え、できない社員はうつつを抜かしていると捉えられそうでビクビクしてるのですが……。
ー倉成さん
副業をしようとしている人や何か新しいことをしようとしている人は、サボりたいと思っているのではなく、より自分の人生を良くしたい、会社のこともしっかりやりたい、と思っている人が大半だと思います。
だから組織は、そういう社員を信じたほうがいいと思います。企業が喉から手が出るほどほしい「イノベーター人材」になるのですから。本業と副業の2つの情報ソースをもって、それを組み合わせられるような社員が、わざわざ中途で採用しなくても手に入るわけです。
もっと社員を信じてほしいですね。
ー石塚編集委員
その考えには賛同します。ただ、では社員の側はどうやって会社を説得すればいいのでしょうか?
ー倉成さん
就業規則を読んで、いい意味でそれを「ハッキング」することを考えればいいと思います。規則に触れていないのにノーと言われる筋合いはないわけですから。「いい」とは書いていないけど「ダメ」とも書いていない。それならばとりあえずやってみればいいと思います。
そしてそれを、ちゃんと会社に還元することです。「仕事を2つもっていまして……」と言っても何の自己PRにもなりませんが、どんな価値を生んで成果を上げられるのか説明できれば、物事は動いていくと思います。
ー本谷さん
私の場合、新卒のときは「本業で成果を出していないのに副業をやりすぎるのはよくない」ということが肌感覚でわかっていたので、当時テレビの仕事などがたくさんありましたが、土日の範囲にとどめていました。
「副業のせいで本業がおろそかになっている」と言われないように、特に同期の中では一番成果を出せるように本業をかなり頑張りました。最初の5年くらいはほとんど遊んだ記憶がないくらい、とにかく本業に力を入れていました。
ー倉成さん
「電通Bチーム」のメンバーにアンケートをとったことがあったのですが、「自分のB面を会社や周囲に認めてもらうためのコツはなんですか?」という質問に、「まずは本業を頑張ること」と答えていたメンバーがいました。
本業をちゃんとやっていない人が、B面や副業を認められるというのは難しい。とにかく本業を頑張って成果を上げて、その後に「私はこういうことがしたい!」という主張をした、という意見がとても共感を集めました。
ー本谷さん
倉成さんの言う通り、本業がとても大事だと思います。私に副業の仕事をくれるのは、社内の人や以前勤めていた会社の人たちです。独立したとき、副業を始めたとき、そういう人たちから「それならば仕事を手伝ってくれないか」と言われました。
本業で成果を出していたから、私が会社を辞めた後も仕事をくれるのだと思いました。
本業を頑張って社内の自分の口コミをよくしていけば、それが副業につながっていきます。同僚や上司に認められることが、副業でたくさんの仕事をとる一番の近道だと思います。
■最適な副業先の選び方
ー石塚編集委員
副業先を選ぶときに重視しているポイントについて伺いたいのですが、本谷さんはいかがでしょうか?
ー本谷さん
私の場合は「社長との相性」ですね。本業の場合、自分を生かすも殺すも上司や社長次第のところがあります。直属の上司や社長が副業に理解があるかどうか、その関係性を重視して選びました。
副業の場合も、会社の規模に関係なく「決裁権のある人の近くで働けるかどうか」がポイントだと思っています。副業の場合、連絡などが後回しにされがちなので、決裁権のある人の近くで働けないと仕事もしづらいですし、そうなると私自身の経験や成長につながっていかないからです。
ー倉成さん
とにかく、いろいろやってみればいいのではないかと思います。「答えがない時代」と言われているのに、つい答えを求めてしまっているような気がします。答えがないから新しいモデルを見るけることが楽しい時代ですから、なんでもやってみればいいと思います。
本谷さんの場合、実際になんでもやってみたから、「ラーメン評論家」と「広報」という2つのポジションを獲得されて、人気者になっているのだと思います。
ー石塚編集委員
やってみたいこと、やりたいこと、他人から見たら一見苦労のように思えることを、楽しみながら継続してやることが重要なんですね。
ー倉成さん
そう思います。僕が紙飛行機の形のポストカードを作ったとき、経理的なことはあまり考えていなかったので、大きな利益を上げたわけではありませんでしたが、これを作ったことで300人以上のバイヤーやプロダクトデザイナー、ショップの方と出会うことができました。
それが数年後、本業にとても生きたんです。これが財産だと思いました。
何でもいいのでとにかくやってみると、そこからたくさんの出会いが生まれるので、その先で何が起こるかわからなくなって楽しいと思います。
ー本谷さん
私が副業を始めたいと思っている人に伝えたいことの1つに、あまりお金を中心に考えないほうがいい、ということがあります。
副業でストレスを感じたくはありませんよね。仕事だと思わないくらい楽しいことを見つけられた人が、副業を続けられているし成功していると思います。私自身も今やっているすべてのことに対して、あまり「仕事をしている」という感覚をもっていません。
楽しい副業を見つけられた人が勝ちだと思います。
■まとめ
ー倉成さん
今は「多様性」があちこちで叫ばれる時代ですが、副業1つにしても各社の対応は多様だなと思います。厳しいところもあれば、推進のところもある、ルールは多様です。
他人の意見をあまり聞きすぎるのではなく、「自分だったらこうしよう!」というオリジナルの工夫を繰り返していけば、いつの間にかブルーオーシャンに飛び出していて、誰も知らない新モデルになっていたりすると思います。
方程式はないと思います。それぞれの立場で、それぞれの企業文化とルールの中で、自分らしくやり始めれば、それぞれが新しいモデルになっていくと思います。いろいろ試してみるのが面白いと思います。
ー本谷さん
すべての人が副業することがいいとは、私は思っていません。1つの企業で勤め上げるのもいいですし、自分のスキルを横展開して副業するのもいいですし、どちらも正しいと思います。
必要なことは、「自分には何ができるのか?」「自分は何者なのか?」ということを、はっきりと言えるようになることではないかと思います。自分が一番やりたいスタイル、窮屈と感じないスタイルを作っていくことがいいと思います。
■イベント中、参加者の方からたくさんのコメントがチャットに寄せられました!(※一部をご紹介)
・確かに、いざとなると肩書に執着して精神状態おかしくなる人、結構いますよね。
・肩書と職能がリンクすることはほとんどないかな。
・精神保健福祉士、社会福祉士、養育里親、生活支援員(パート)……肩書きというより資格やこんなもの持ってます、みたいな解釈で使っているかもしれません。
・ネットの記事でも、あえて狭く限定することで差別化を図る例として、「ひざ関節評論家→整形外科医→医師」が挙がっていましたね。こうすると埋もれないですね。
・社会的活動の中で「肩書」を示すことで信用していただける場面も多い気がするので、意識的に資格名を出したり引っ込めたりしています。
・最近勤務先の副業に対しての規制が緩くなりました。空気感というところで言うと話題にも上がっていないですが。
・会社に確認したところ副業禁止でしたが、直属上司に相談しつつ、副業しています。
・会社としては副業OK。社員同士も割とドライなので、特にマイナスに感じたり言い合う雰囲気はないです。ただ、副業してます!とわかってる社員も少ないですが。
・複業の制度はあるけど職場に余裕がないのでやるとなると冷たい目で見られる気がします。
・副業はOKですが、残業時間の縛りがあります。
・最近は、転職されるよりは副業環境を整備して引き留める、という企業もあるみたいですね。
・副業の人は多いですが、複業は少数です。
・副業は禁止されていますが、弊社での規定上は「自社以外のどこかに雇われる事を禁止している」なので、副業の選び方によっては、グレーですが可能かな……というところです。
・会社は、週休3日、週休4日の契約オプションを作りました。副業可(届け出必要)です。
・以前の就職先は、職務専念義務がありました。でも、ボランティアとかにはまる人がいて、一緒に働くのはとても困りました。
・複業はOKで、自身も外部講師や委員会に参加(自分で副業の意識はなかったですが、考えたら報酬貰ってる副業でした)→結果的に広告塔になっている気がします。
・厚労省のモデル就業規則が、最近まで副業禁止でしたね。
・就活生です。イラストをSNSで投稿していたらお仕事を貰うようになり、大変幸運なことにイラストレーターになっています。今後も続けたいのですが、就活で続けたい旨を伝えると性悪説の話をされました。
・人生目標は時とともに変化するから己を進化させるすべが副業ですね。
・本業が資格職なので、副業もそのスキルを活かしながら社会貢献ができるかどうか、楽しい気持ちで取り組めることかどうかを重要視しています。
・副業先は自分個人で、と考えているので会社という単位では考えてないです。
・自分が楽しく、世の中に求められるものの共通項が副業にあるべきですね。
■プロフィール
倉成英俊さん
株式会社Creative Project Base代表
1975年佐賀県生まれ。小学校の時の将来の夢は「発明家」。東京大学機械工学科卒、同大学院中退。2000年電通入社。クリエーティブ局に配属、多数の広告を企画制作。その最中に、プロダクトを自主制作し多数発表。2007年バルセロナのプロダクトデザイナーMarti Guxieのスタジオに勤務。帰国後、広告のスキルを超拡大応用し、各社新規事業部の新プロジェクト創出支援や、APEC JAPAN 2010や東京モーターショー2011、IMF/ 世界銀行総会2012日本開催の総合プロデュース、佐賀県有田焼創業400年事業など、さまざまなジャンルのプロジェクトをリードする。2014年より、電通社員でありながら個人活動(B面)を持つ社員56人と「電通Bチーム」を組織、社会を変えるこれまでと違うオルタナティブな方法やプロジェクトを社会に提供。2015年には、答えのないクリエーティブな教育プログラムを提供する「電通アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」をスタート。2020年7月1日Creative Project Baseを起業。Marti Guxieにより日本人初のex-designerに認定。
本谷亜紀さん
株式会社div 広報 / ラーメン評論家
学生時代からインターンで食のECサイトオイシックスで広報室に配属。主に著名人のインフルエンサーマーケティングやイベントを担当。サイエスト株式会社では広報の立ち上げから1人で担当。2年で200媒体の掲載露出を獲得。現在はdiv株式会社に所属。メディア対応や、ニュースレターの作成、イベントなどを企画、運営。個人としては、学生時代からラーメンタレント、ラーメン評論家としてメディアで活動しており、テレビの「出る側」「出す側」の経験を生かした広報を目指して活動。
石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。