ECB、年内最後に利下げはあるか?
ECB、10月利下げの背景、12月へのヒント
11月も下旬に入り、徐々に12月に控えた日米欧の金融政策決定会合に対する見方が注目される時間帯に入って参ります。最も早くやってくるのが12月12日のECB政策理事会なので、11月14日に公表されたECB政策理事会の議事要旨(10月17日開催分)を用いて現状整理しておきましょう。※定期的にECBウォッチに関する情報は日経COMEMOとして出して参りたいと思います:
同会合は順当に▲25bp利下げが決断された会合であり、ラガルドECB総裁会見では域内景気の弱さが強調されました。直後にnoteでも議論していますので良かった読んでみてくださいませ:
公表された議事要旨からも域内経済への懸念が透けており、例えばPMIに象徴される最新のソフトデータに関し「短期的には9月スタッフ予測を下回る状況を示唆している」と明記されていました。
また、ECBが月次で実施するアナリスト調査(SMA:The ECB Survey of Monetary Analysts (SMA))も、9月見通しからの下方修正が報告されたことについて言及が見られています。このデータはあまり日本語のメディアで紹介されることはありませんが、筆者はよく見ています。これも掲載しておきたいと思います:
図表に示されるように、現状のアナリスト調査では2025年中にユーロ圏消費者物価指数(HICP)がコアベースで安定的に+2%を割り込んでくるとの見通しが強まっています。ECBが「次の一手」としての利下げを主張するのは合理的な状況は作られつつあった、、、そのような市場の思惑が透けます。
インフレ下振れ(undershooting)はありそうにない
もっとも、域内景気の弱含みは夏場以降でにわかに争点化している材料であり、短期筋を中心に利下げ材料としてクローズアップされ過ぎているリスクもあります。この点、政策理事会では相変わらず、名目賃金上昇率が域内インフレの主たる関心事項(a key concern)と明記され、注意深く監視する必要性が謳われていました。名目賃金の騰勢は明らかにピークアウト感が生じているものの、一時 金や労働協約の数字はラグを伴うため、年内に確認できる数字はボラタイルであるとの意見も見られています。
実際、HICPにおけるサービス価格が高い伸びを維持しているのは事実であり、だからこそ政策理事会が明確な判断に至るためにはさらなる数字が必要との記述も見られています。さらに、その数字は2025年前半にならないと分からないとの言及もありました。実際、求人広告から予見される名目賃金動向は妥結賃金が上がらないまでも下がることもないという近未来を示唆しています。これは図表で見るとよく分かります:
こうした名目賃金の動静も踏まえたインフレ全体の先行き評価に関しては、「安定的に2%目標を割り込むことはありそうにない。それは地政学的リスクや気候変動リスクが供給ショックに繋がっているという構造的なインフレ基調があるためである」とも明記されている。「scenario of undershooting」については現時点で考える必要がないことが繰り返し説かれているのはとても印象的に思えました。
政策金利の軌道は・・・
筆者は10月会合の予想に際し、12月会合までのインターバルが通常よりも長く、米大統領選挙も挟むため「10月17日会合で利下げを見送ることの『ツケ』は非常に大きく、12月会合では▲50bpという可能性も浮上する」と考え、そうした非連続的な政策運営を嫌うラガルド体制では「10月時点で▲25bpの予防的な利下げが行われる」という読みを持っていました。
今回の議事要旨からはそのような趣旨が確認できました。この点は今回の議事要旨において一番含意のあるパートだったと思います。数名のメンバー(a few members)からは「より多くの情報を収集し、中期的なインフレ見通しについて包括的な評価が得られる12月まで待つことが望ましい」との見方が提示されたものの、そうしたメンバーも10月利下げは「予防的なリスク管理(the precautionary risk management)」の観点から同意が得られた…と記述されています。既報の通り、▲25bp利下げは全会一致でした。
こうした議事要旨から確認できる10月政策理事会の議論を踏まえる限り、年内最後となる12月12日会合の利下げは確実視できないようにも感じられます。しかし、現状の金融市場では利下げは既定路線として▲25bpか▲50bpという幅が争点化しています。
10月利下げの決定打になったのは10月PMIの悪化や2%を割り込んだインフレ率だったと言われました。この点、PMIの11月速報値は本稿執筆時点ではまだ公表されていません(11月22日公表予定)。一方、10月末公表の10月HICPも+2%台に復帰しています:
また、7~9月期GDPは前期比+0.4%と堅調な結果に着地しています:
弱い域内景気を意識して再び、予防的な観点から▲25bpの利下げを織り込むことは理解できるとしても、▲50bpまで織り込もうとしているのは若干解せない情勢に思えます。これはひとえに第二次トランプ政権誕生を見越した上で「追加関税の下押し効果を相殺する利下げが必要」との思惑が影響しているようです。一応の筋は通っていますが、政権発足前で挙動が分からない段階からそのようなリアクションは過剰過ぎますし、そもそも中銀として対外的な説明は構築しづらいでしょう。
現状では賃金・物価情勢が著しく悪化しているとは言えない中、▲50bpの織り込みは性急過ぎるというのが筆者の印象です。まだ、次回政策理事会までに確認すべき指標が多いため、確定的なことは申し上げられませんが、現時点では▲25bp利下げをメインシナリオとして良いように思っています。