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【イベント公式レポ】「データの世紀」に新時代のビジネスルールを考えた

2019年11月1日、東京渋谷にあるイベントスペースで、COMEMO主催のイベント「データの世紀 新時代のビジネスルール」が開催されました。金曜の夜にもかかわらず、たくさんの方にご来場いただきました。


■データの世紀とは?

「データの世紀」は、日経電子版の「調査報道」連載企画として、大変ご好評をいただいているシリーズです。現在、シリーズは第7部まで続いています。新聞協会賞を受賞しまして、今回はその受賞を記念したイベントでした。

私たちの世界は今、あらゆることが数字に置き換えられ、その膨大なデータは「新たな石油」と呼ばれるほどの「資源」になっています。この膨大なデータを「何に使うのか?」「誰が所有するのか?」「どのように管理するのか?」など、そこにある大きな「可能性」と「リスク」について考える、そんなイベントをCOMEMOが企画しました。

そう聞くと「専門用語が飛び交うようなとても難しい話のイベントだったのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回のイベントでは、私たちの生活にとても身近な話を中心に、そこから「今、海外ではこんなことまで起こってるんですよ」という、とても具体的でわかりやすいお話ばかりでした。


■登壇者の自己紹介

イベントではまず、4名の登壇者の皆様の紹介から始まりました。データ事業の専門家であり、この分野の最先端で活躍されている方々にもかかわらず、とても身近な話題やエピソードを交えながらの自己紹介をしていただきました。

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本間充さん
「デジタルの危うさ、楽しさの両方をお伝えできればと思う」

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藤井保文さん
「著書『アフターデジタル』をたくさんの方に読んでいただけていてうれしい」

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渡邉英右さん
「ミツカン入社1年目、ずっと外資系で今回が初の日本企業です」

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兼松雄一郎さん
「今日のスーツはコスプレです。いつもはTシャツやパーカーで取材してます」


■トークセッションでの話題

トークセッションでは、私たちの生活に身近な事例やエピソードを取り上げながら、「データ」について考えていきました。その中で実際に上がったいくつかの話題をご紹介したいと思います。

まとめ

・かつての「個人情報」流出し放題の時代

人気漫画「サザエさん」では、御用聞きのサブちゃんがサザエさんの家の勝手口に来て、「今日はマスオさんの給料日だからお酒注文しますよね?」と、平気で言ったりします。それを言われたサザエさんも「そうだった忘れてたわ、サブちゃんありがとう!」と言ったりしますよね。今の時代では考えられないほど、一般家庭の個人情報はダダ漏れの状態でした。

時代の流れの中で「個人情報」に対する消費者の意識は大きく変わり、企業側にとってのその価値も大きく変化しました。ほんの少し前まで、レジは「何が何個売れたか?」しか記録していませんでしたが、現在は「誰が買ったか?」までわかるようになっています。

ソフトバンクは「PayPay」に莫大な投資をして「決算システム」ではなく「小売のバックグラウンド」を抑えるための動きをすでに始めています。

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・本来の「デジタルトランスフォーメーション」

ビジネスの中でデータを扱う側が忘れてしまいがちなのが、トークセッションの中で本間さんがおっしゃった「小田急を降りたら、まずそばが食いたい!」という話です。

「デジタルトランスフォーメーション」と言うと、例えば「鉄道→バズ→タクシー」をデータでどう接続しようか?という話になってしまいます。しかし、観光客の実際の導線を考えれば「鉄道→うまいそば屋」がもっとも現実的かもしれません。そこをどう繋ぐかを考えること、これが本来やらなければならないことです。交通系をまとめて単にデジタル化することが「デジタルトランスフォーメーション」ではありません。

さらに、データ社会では必ずしも同業がライバルとは限りません。今、コンビニのライバルは「ウーバーイーツ」のはずです。それなのにコンビニのお弁当やお惣菜は、他のコンビニがライバルだと思って作られています。業種や業界で切ってしまう癖が日本企業にはあるのかもしれません。

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・「プラットフォーマー」の脅威

「デジタルトランスフォーメーション」を使って新しいビジネス環境を作っていこうとする中で、脅威となるのが、現在大きな力をもっている「プラットフォーマー」です。消費者と取引先の法人や開発者を「直接」繋いでしまうので、いわゆる「仲介」するビジネスをしていた会社は大打撃を受けています。「プラットフォーマー」が大量のデータを集めて囲い込んでしまうからです。

しかし、大量のデータをもっていて、それをマネタイズできるルートまでもっている企業は異例で、もっと少ない閉じた情報環境でも成功している事例はあります。有名なのは、ここでも話が上がった「平安保険」です。

巨大「プラットフォーマー」の1つであるAmazonの「アマゾンフレッシュ」がアメリカで成功している理由は、アメリカの生鮮食品が基本的に冷凍であることが大きく影響しています。アメリカではどこの地域で食べても味や品質がほとんど変わらない商品が中心ですが、日本を含むアジアは違います。「地産地消」の考え方が根強く、アマゾンフレッシュのような形ではない、日本にマッチする「デジタルトランスフォーメーション」の形があるはずなのです。

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・「データ」は集めたくなるので要注意

巨大「プラットフォーマー」は確かに脅威ですが、そこに頼らないと物が売れないという現実もあります。それを表面的に捉えると「たくさんのデータをもっていること」が重要だと勘違いしがちです。今回のイベントの参加者の方から、事前に「会社に膨大なデータがあって、それを使えと言われているが、どう使ったらいいかわからなくて困っている」という質問がありました。

これについて登壇者の皆様からは「これはキケン!」という意見が。渡邊さんは「データは取りやすいから取りたくなる」とおっしゃっていました。デジタルは「目的化しやすい」ところがありますが、本来大切なのは「そのデータを何に使うか?」「なんの目的で集めるのか?」です。

「AIを作る」と言うけど「そもそもAIが必要かどうかを会社で議論したっけ?」とか、「ブロックチェーンを使う」と言うけど「それブロックチェーンを使わなくてもできますよね?」という話はよくあることです。

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・中国での「データ」の意味

現在上海在住の藤井さんが、中国人「データ」の取り扱いに対する「空気感」のようなものを、わかりやすく説明してくださいました。日本に比べて中国には「国にデータを取られるのはある程度仕方がない」という考え方があります。でも、例えば「あなたこの商品をネットで見てましたよね?」と営業の電話がかかってきたりすれば、それは日本人と同じように「気持ち悪い」と感じるそうです。自分が他人に透けて見えているような状況は、やはり日本でも中国でも「気持ち悪い」と感じる人が多いはずです。

一方で、中国には、個人情報を集めるだけ集めて使わない(なんらかの形で集めた人たちに還元しない)のは「不義理」であるという考え方もあるそうです。自分たちがデータを提供した分、何らかの商品やサービスにして返してほしいという、実利を重視する考え方は日本よりも強いようです。

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・データを取られることの「気持ち悪さ」が見えなくなる瞬間

データをどんどん取られているにもかかわらず、消費者の喜びや満足が大きいと、データを取られていることすら感じない、ということも起こります。

この例として紹介されたのが「ディズニーランド」です。たくさんのデータを集めて分析し、それに従ってスタッフや警備員まであらゆるサービスが顧客を先回りして提供されるような仕組みになっています。サービスの利用と引き換えに、たくさんのデータが取られていますが、消費者はそのことに気づきにくくなります。

また、中国ではアリババの「フーマー」という最新型のスーパーマーケットが話題になっています。生鮮食品をオンラインで購入することには、まだまだ抵抗がある人が多いと思いますが、「フーマー」はスーパーを「エンターテイメント化」することで、消費者の購入へのハードルを下げています。具体的には、実店舗内(=ECの倉庫)でオンラインで注文された商品がどのような経路を辿るのかを見せる演出をしていることです。これによって、ユーザーは安心してオンラインで生鮮食品を買うことができるようになる、という仕組みです。

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・「データ」の使われ方をどこまで許す?

自分の個人情報が「データ」として取り扱われることをどこまでなら許せるのか? これについては人によって感じる「気持ち悪さ」のラインが違っています。

そこで必要になってくるのは、企業側も個人も「データの使われ方に関してスタンスを示すこと」です。兼松さんは「データで経済を活性化していくことはいいこととしてバックアップしていきたい。でも、企業側は個人情報を渡すとどんなメリットとデメリットがあるのかを開示した上でデータを取るべき」だとおっしゃっていました。はっきりとそこを言わずに同意をとっていることが企業側の問題で、そこがちゃんとわからないまま同意をしていることが消費者側の問題です。

データを取るときは、個人に選択肢があり個人が選択権をもっていることが大切で、企業側にはとったデータに対する価値提供ができることが必要です。しかしその価値提供がいきすぎて「同意しないとこのサービスを受けられませんよ」というのもまた違います。

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■イベントの最後に

今回のイベントをきっかけに、この「データの世紀」に興味をもってくださった方に向けて、さらに内容を掘り下げられるコンテンツの紹介がありました。

・「データの世紀」が書籍になります

日経電子版で連載された「データの世紀」が書籍になります。11月15日発売です。よろしくお願い致します。

・「データの世紀」第8部がスタートします

日経電子版では、引き続き「データの世紀 第8部」の連載が予定されています。ツイッターに「#データの世紀」でご投稿いただいた内容については、取材班も拝見しております。調査に動き第8部で取り上げさせていただく場合もございますので、ぜひ投稿してみてください。

・COMEMO主催イベント

日経COMEMOでは、日経新聞で扱うニューステーマを身近な話題からわかりやすく解説する、今回のようなイベントを多数開催しています。ぜひ次回もご参加ください。


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