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「酷暑の甲子園」、球場より練習環境を考えろ

「暑すぎるので不要不急の外出を控えましょう」というアイロニカルな字幕と一緒に中継される真夏の真昼の甲子園。「やめろ」「ドーム球場や北海道に移せ」等々叩かれがちだ。(※北海道も今や暑いですよ)

僕の考えでは、これら球場を巡る議論は「トカゲのシッポ切り」であり「モグラ叩き」にすぎない。本質は日常の練習環境の方。本質、といっているのは、単にスポーツの問題ではなくて、真夏にスイカを収穫する農家さんとかとも共通する話だからだ。

要点の1つを先に書いておくと、野球は試合のほぼ半分(=攻撃時間)をベンチで休める競技。守備中は直射日光で暑さにやられるが、ベンチにいる間、各種冷却テクニックを駆使して、守備中に上がった体温(とくに深部体温=Core)を下げることができる。

だから、冷却リソース豊富なチームなら、かなり暑い状況でも、普通に試合することができると考えられる。

休みなく酷暑環境でレースし続けることが多い、トライアスロンという競技で冷却テクニックを工夫していた僕からすれば、野球はかなり楽な競技に見える。

真の問題は、トライアスロンで当たり前にやるような冷却の努力を、野球では尽くしていない(ように僕には見える)こと、だと思っている。

以下詳細、3.000字くらいです。


「甲子園からドームに移せ」論は「トカゲのシッポ切り」である

これに対して、阪神電鉄が「相当な投資と覚悟、使命感を持ってやる」のは、数年かけて観客席の屋根を拡げるのだそうで・・

ただ、甲子園開催(だけ)を問題とするのはトカゲのシッポ切り。高校野球の全国大会がエアコン完備されたとして、予選大会のほとんどはそうではない。それ以上に、試合よりも練習時間の方がよっぽど多い。目立つところだけを叩いているのではないかな?

「野球の試合」は、暑さ対策という点では恵まれている方だと思う。ほぼ半分の時間を日陰のベンチで休憩できる(審判は別)。試合時間は2−3時間。カロリー消費=熱産生量も少ない(投手はまあまあ多いが)(なお比較対象はトライアスロンとかです)

さらに、試合中に実行できる暑さ対策は多い。甲子園の「クーリングタイム」開始もその一つだが、甲子園球場はベンチ裏にエアコン完備のロッカールームが用意できる点で特殊で、地方予選の多くではそこまで無理。甲子園を心配する前に、「地方予選の試合」を考えるべき。

問題の本質は「練習環境」である

それ以上に重要度が高いのは、「野球の練習」の方だ。直射日光のもとで、長時間続く事が多いのでは。練習をダメージなくできるのなら、「甲子園の試合」くらいは工夫次第で乗り切れる。

その具体的な手法が十分に知られているとは思えない。

正しく理解し、実行できれば、トライアスロンのような直射日光のもと休みなく大量に熱産生し続けるような活動すら可能だ。

必要なのは、暑さに慣れた上で、熱放散させ(伝導、対流、放射、蒸発)、限界手前でブレーキをかけること。トライアスロンすらできる、いわんや野球をや。日経ビジネス電子版「大人のトライアスロン」8月号は興味ない方も一般教養として一読を ↓ ↓ ↓

トライアスロン大会も改善すべき課題は多いと思うが、大会参加者(アスリート側)が知っておくことで対応できるものは多い。

「6つの対策」とは:

① 暑熱順化=暑さに十分慣れておく
② 放射熱のブロック=ウエア+帽子で直射日光を避ける
③ 水をかぶって体を直接冷やし(熱伝導)、蒸発する気化熱でさらに下げる
④ 水と電解質を適切な量だけ補給(発汗対策+循環血液量の確保)
⑤ 冷たいものを飲む(体内で熱伝導させる)
⑥ 熱中症の症状を理解し、自分の限界を把握して、自己判断で止める勇気

酷暑のトライアスロン、6つの対策 競技団体メディカル委員長に聞く

こららを全部やって「ギリギリなんとか耐えられる」というのが真夏のトライアスロン。別に推奨するものではなく、さすがに時期を替えたり、改善するべき課題は多いとは思うが。

「練習環境格差」はありうる

ただし、エアコンの効いた室内練習場が充実しているのであれば別。基本技術や体力向上は室内練習で、暑い屋外ではフルサイズ野球場でしかできないことに絞るなら、「練習での暑さ対策」の重要性は下がる。

筋トレなどの設備がエアコン化されている高校は普通にありそうだし、もっと充実した室内練習場のあるところもありそうな気もする。北国のチームが強くなったのも冬の室内練習環境の向上がありそうだし。

今後、この練習環境格差=いいかえれば高校の資金力差、がひろがる可能性はあると思う。

ちなみに慶応高校は「全体練習は2時間以内」としているそうだが、個人練習できる環境がエアコン化されているなら、夏でも練習の質を落とさずに済むだろう。

8/25追記:慶応は専用設備で筋トレを各個人がしっかりやっており、投球・打撃のできる屋内練習場もある。エアコンは不明だが、付けようと思えば寄付金は即集まる気がする笑

練習中は熱中症のリスクが高まるとアラームが鳴る腕時計型センサーを付けてるそう。安いのは数千円から買える。高いのは、トライアスロンでノルウェー勢など使う「CORE」が4万円近い。

どんな環境でも実行可能な手法を

結局、「どんな環境でも実行可能な手法」が必要なのだ。たとえばユニフォームも、素材が進化している今、まだまだありそうに見える。デザイン的に通気性が悪そうに見えるし(最近のを着たことないから知りたい)、水や氷など保冷手法との組み合わせの余地もありそうに見える。

帽子やアンダーウェアを冷水に漬けて交換するとか、手はいろいろありそう。トライアスロンとかではごく普通の手法。まあコスト・手間は増えるが、そもそもスポーツとはカネと時間がかかるものなので。

審判もそうで、工事や農業とかで普通に普及している空調服とか使ってるのだろうか? スポーツ界の一部には「空調服は権威を落とす」みたいな発想があるようだが(別の競技関係者から聞いた話、使うと風でウェアが膨らむのが嫌がられるのか)、そんなことを気にしている場合ではないと思うのだが。選手はプレー中の衝突破損があるので、それ用に強度改良されないと使えないが。保冷ベストとかを使っているのかもしれないが。

(ゴルフは詳しくないが、審判同様、空調服とか常時使用してもプレーに影響しないのでは? もちろん冷涼地でできるのならすればよいが)

ついでに一言:スポーツだけじゃないよー

夏の昼間にスポーツするな!という意見について余計な一言をいっておくと、そもそも工事や農作業は夏でも普通にやってる。夏のあいだ新鮮な野菜果物を食べるな!とまでは言わないでしょう。

(さらに余計な仮説を書いておくと、叩く人たち=そもそもスポーツ自体が嫌いで、叩く理由を探していて、真夏の建設工事で完成されたマンションで真夏の農作業で出荷されたスイカを食べながら真夏のスポーツだけを叩いている。いや単なる仮説です)

リスクについては注目されるのだが、

リスクがいくら見えたところで結局は対策で決まるわけで。

真夏のスイカ収穫でも野球でもトライアスロンでも、避けられるリスクは避けるべきだし、対応できるものには対応するべきだし、変えるべきものは変えるべき。明治から続く伝統行事も時期変更してる。


本日の結論:水を身体に掛けましょう

夏の運動、水は飲むより先に、掛けるべき

・・・

関連本、一般書としては早稲田の永島計教授の『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか:体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』

ガチ勢には、東京五輪に向けた暑熱対策プロジェクトにも携わった中村大輔氏の『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

トップ画像は多摩川河川敷。慶応高はこのあたりの世田谷の少年野球出身者が多い

8/25追記:日経新聞電子版「オピニオン」欄、掲載いただきましたー

日経電子版「オピニオン」8/25


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