働かないおじさんを叩いたところで働き方改革にはならない

とても良いドキュメンタリー映像だと思います。

動画はこちらです↓

こうした取り組みの何がいいって、出向という形で働く環境を変えたことで本人の中に何かしらの新しい発見があることである。

出向なんかしない方がいいという人もいるだろう。もちろん、本人の希望でもなんでもない形での出向や、いゆわる左遷と同然の出向などもある。出向したまま戻ってこれない片道出向という移籍型出向もある。しかし、本件の場合は、必ず戻れるという保証の中での期限付きの「在籍型出向」であり、本人の希望(出向企業や仕事内容までは別だが)に基づいて実施されたものだからそれとは違う。

最近では、同企業の中での転勤や職種転換も少なくなっていると聞くが、個人的にはそういう環境転換はした方がいいと思っている。

若いころであれば何が自分に向いているかなんて実際わからない。広告畑出身なので広告の仕事で言えば、制作業務をしたいと思って入ったら営業に配属されたなんて話はよくある。しかし、営業を経験することで見えてくるものはたくさんある。タグボートを作った元電通の岡康道さんも最初は営業配属だった。

自分の希望とは違う環境に入ることで腐ってしまう人もいるだろう。しかし、厳しいことを言うようだが、そんなことで腐ってしまうような者はたとえ自分の希望の仕事についたとしても今度は「自分の希望通りの案件がもらえない」「希望通りの評価がもらえない」「希望通りの給料がもらえない」と何かしらの理由をつけて勝手に腐っていくだけのことである。

どんな環境であれ、ます適応するということが大事なのだ。文句いうなら適応してからいえ、と。

とはいえ、誰の目から見ても極悪な環境がないわけではない。とんでもない上司や同僚、とんでもない労働環境の職場、とんでもない雇用条件の仕事だってある。それはそれで、そんな環境からはさっさとおさらばするというのも適応のひとつのカタチである。適応とは必ずしもそこに無理やりなじむということではない。なじめないと判断するなら脱出することも適応なのだ。

さて、環境に適応するという前提の上での話になるが、冒頭のJALのCAさんの話に戻る。違う畑に行って自分の中に新しい自分を発見するという経験はとても大事で、これは私が常々言っている「自分の中の多様性を育む」ことになるからである。

いつもの所属するコミュニティの中で、いつものメンバーとだけ付き合っているとなかなか「新しい自分」は生まれない。快適だからこそ生まれない。何かが誕生する前にはそれなりの苦しみやストレスは発生する。違和感といってもいい。

違和感とは傷である。

人が生きるということは何かしらの傷が伴う。傷をつけられ、治癒させ、何回もそれを繰り返して強くなる。最初は触れただけで痛みを覚えたような粘膜のような状態でも、慣れればどうってことはなくなる。傷をつけるのは摩擦である。人間関係の摩擦で傷がつくこともあるだろう。しかし、摩擦は血の出るような傷をつけることもある反面、温かくもなる。傷の痛みをしったからこそ、傷になる摩擦と暖かくなる摩擦の違いがわかる。それは自分の気づきであると同時に他者への思いやりにも通じる。

違和感から新しい自分を生み出すことはそういうことでもある。傷ではなく、温もりがあると感じられるのも「戻れる場所がある」という安心感があってのことかもしれないが。


コロナ禍で苦境に立たされた企業とその雇用を守るために、厚労省は在籍型出向を後押しするための「産業雇用安定助成金」制度を導入している。2022年2月時点での報道発表による実績状況は以下の通り。

一番多かったのはやはりJALやANAなどの運輸業からの出向で、受け入れが多かったのは製造業とサービス業とのこと。注目は、異業種への出向割合が6割を超えているところだろう。

むしろ今後はコロナ禍関係なく、通常の中でもこうした「在籍型出向」の取り組みを企業グループや業種を超えた形で実施していくべきじゃないかとも思う。一時避難という意味だけではなく、自分に向き合い、将来本当に自らの意志で転職したいと思ってもらえるような助走としての「在籍型出向」の位置づけです。必ず戻れるか、絶対に戻れないの二択ではなく、助走なのだからやり直しもできる。

昨今「働かないおじさん問題」についての記事やニュースがやたら多い。おじさんは叩いていも誰からも非難されないからだろう。企業の経営者からしても、単価の高い中高年社員をリストラして、安い若い社員や非正規に代替えしたいというのも本音だろう。45歳定年制などを提唱する経営者もいたが。

日本では簡単に正社員はクビにできない。できないがゆえにあの手この手で自分から辞めさせる方向にしようと画策する。そのための専門のリストラコンサルやマニュアルまで存在する。かつて問題になった追い出し部屋とかもそのひとつである。

今はあからさまに追い出し部屋などをすればネットで炎上しかねないので、もっと陰湿で狡猾になっている。精神的に追い詰めて退職せざるを得ないように仕向ける、または「こんなつらいなら辞めたほうがマシだ」という精神状態を作り出す。控え目にいってクソだと思うが、そういうことが誰もが知っているような一部上場企業でも平然と起きていることは認識した方がいい。

そんなことをするくらいなら、もっと制度的にこういう在籍型出向と支援金を活用して活躍できる場所を用意してあげるって発想にならないもんだろうか。見方を変えれば「働かないおじさん」を生んでしまったのは「働かせられなかった企業」の問題であるともいえるわけでさ。

もちろん、信念をもって「俺は働かないおじさん」もいるとは思うが、どんな制度作ったところでパレートの法則通り集団の中にそういう人間は必ず発生する。発生するのが悪いのではなく、発生した人を固定化してしまうことが悪い。ある場所では使えない人も別の場所に行けば生き生きと働くかもしれない。大体、働かない人間を作る9割は直属の上司の問題だから。本当は上司を変えたり部署を変えたりしただけで解決することも多い。

働かないおじさんを作ったのは解雇規制が厳しいからで。簡単に解雇できる法整備をした方がいいとか竹中平蔵みたいなことを言うエコノミストもいれば、日本の賃金があがらないのは解雇規制が厳しいせいで、もっと簡単にすれば賃金はあがるとか言い出すのもいる。

そうやって非正規雇用という簡単に解雇できる人員を増やしたあげく、みんなの賃金はあがったの?むしろ下がったでしょ。いい加減なこというなよ。

いいなと思ったら応援しよう!

荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。