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いよいよ本格的に動き出すフリーランス政策

アメリカでは、ギグワーカーに企業従業員と同待遇とする旨の規則を発表したようです。

ギグワーカーないしフリーランスに関しては、欧米諸国において立法の議論がされているところであり、世界的にもホットな話題といえるでしょう。

もちろん、日本においても働き方改革以降(厳密には少し前から)フリーランスに関する政策の議論がされてきましたが、フリーランスを競争法の枠組みで保護すべきか、労働者として保護すべきかなど難しいテーマであり、さらに公正取引委員会、中小企業庁、厚労省に横断的にまたがるテーマであったことからなかなか政策の方向性が決まらない状況にありました。

しかし、昨年4月にフリーランス新法が成立し、徐々にフリーランス政策が本格的に動き始めた感があります。

フリーランス新法成立前の政策アクション

昨年4月のフリーランス新法成立前においても、いくつかの政策はとられてきています。

①相談窓口の設置

まず、フリーランスの取引トラブルについて無料で相談できる相談窓口として、フリーランス・トラブル110番が設置されています。

この相談事業は今も継続中であり、かなりの件数の相談があるようです。

②労災保険の特別加入の拡大

また、労災保険についても、一人親方など労働者ではない方の労働保険制度として「特別加入制度」があり、令和3年中には、芸能関係者やアニメーション制作作業従事者、ITフリーランス、自転車を使用して貨物運送事業を行う者について特別加入制度が拡大されています。

③フリーランスガイドラインの策定

さて、フリーランスの取引に直接影響があるものとしては、令和3年3月に策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためののガイドライン」(通称「フリーランスガイドライン」)があります。
これは、もともとフリーランスと企業との取引には、独占禁止法の優越的地位の濫用や、これを補完する下請法の適用があり、このことを明確にし、執行を強化させるために策定されたものです。
また、契約書の名称が「業務委託契約」などの「労働契約」以外の場合でも、働き方の実態に照らして「労働者性」が判断されることも示しています。
このように、独占禁止法、下請法、労働関係法令がまたがるガイドラインであることから、内閣官房を中心に、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が連名で策定しています。

フリーランス新法の成立

そして、昨年の大きな動きとしては、やはりフリーランス新法の成立でしょう。

「フリーランス新法」と言っていますが、正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」であり、「フリーランス」という言葉はありませんが、国の資料でも「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と略されているので、フリーランスに関する法律であることは間違いありません。

フリーランスガイドラインは、あくまで「現行の」独占禁止法、下請法、労働関係法令を前提とするものであり、例えば、資本金要件などの関係で下請法の適用がない場合には発注書面の交付を義務付けるものがなかったり、労働者でない場合には、ハラスメント防止措置や中途解約など労働法的保護がないという問題がありました。

そこで、広く取引条件の明示や、遵守行為(禁止行為)といった取引適正化に関する規律や、ハラスメント防止措置義務や中途解約予告義務など就労環境整備に関する規律を設けたのがフリーランス新法です。

この点については、以下もご覧ください。

フリーランスの安全・健康確保と特別加入の拡大

その他、まだ実現していませんが、フリーランスの安全・健康確保、そして業務中のけが等に対する労災保険の特別加入の拡大についても議論が開始されています。

①安全衛生法の適用

個人事業主のうち、労働者と同じ場所で就業する場合には、労働者と同じ安全衛生水準を享受させること等、フリーランスに対する安全衛生法の適用の拡大の方向性が示されています。
ただし、中には法令によるものではなくガイドラインベースになるものも見込まれていますが、いずれにしても、フリーランスに対する安全・健康確保が拡大される可能性があります。



②労災保険の特別加入の拡大

まだ本格的な検討には入っていませんが、上記で述べた労災保険の特別加入制度について、さらなる拡大が検討されています。

現在の方向性としては、簡単に言えばフリーランス新法の適用があるフリーランスに対して広げる方向性が示されており、これが実現すれば、かなり多くのフリーランスに労災保険による保護がなされうることになります。

①の安全衛生法の適用は、欧州ではもともと同じ場所で働くのなら同じように安全衛生法を適用するという考え方は多く取られており、実はそれほどおかしな話でもないでしょう。

そもそも「安全」や「健康」は働く人々に対して、労働者かどうかに関係なく、広く適用させるべきものではあるでしょう。

その観点からすると、労災保険の特別加入の拡大についても、フリーランス新法の適用範囲と同じにする方向性が示されていますが、取引適正化・就業環境整備の法律であるフリーランス新法と同じように考える必然はなく、より広い適用もありうるように思われます(この点は、フリーランスの希望にもよるでしょうが)。

プラットーフォーマとフリーランスとの関係については課題

上記のとおり、フリーランスに関する政策は本格的に動き出している感があります。

他方で、やや欧米と比べて議論が停滞している感があるのは、プラットフォーマーとフリーランスとの問題です。

欧米では、プラットフォーマーを利用して就労するフリーランスを「労働者」として扱うような法制度が成立、議論されているところです。

日本においても、フリーランスガイドラインで、プラットフォーマーを含む仲介事業者が、フリーランスに対して手数料などを一方的に変更することなどが独禁法上問題になりうる旨記載するなど多少の対応は行っています。

私自身はプラットフォーマーを介して就労する者を「労働者」として扱うべきという考えに賛成というわけではない(と言っても反対でもない)ですが、国の動きを見ていると、この点の議論はやや遅れているように思われます。
今後この点の議論を含めてフリーランス政策を進めていくべきでしょう。



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