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人材紹介会社が狙う40代・50代ITエンジニアの転職―中途採用市場の変化はポジティブなのか?

大手中途人材紹介会社に動きが見られます。2025年に入った頃から40代、50代の候補者の売り込みが激しいというものです。ベンチャーやJTCへの売り込みもありますが、スタートアップにも紹介が増えています。

40代、50代のキャリアを支援するという意味では大変結構なことではあります。

以前から40代、50代をターゲットとした人材紹介会社はありますが、そこに新規参入してくる人材紹介会社には期待と共に危うさを感じます。しっかり取り組んでくださいというエールと共に整理していきます。

40代、50代を売り込む背景

経験者が適切な給与でほしい各社

大筋でクライアントワークにせよ、人材紹介会社にせよ、未経験・微経験の若手求人は減少しています。引き続き募集している求人票の多くは採用ハードルが高いです。

私も様々な会社さんとお話をしていますが、大筋で下記の背景があります。

  • エンジニアバブル期のように数を追う採用が減った

    • エンジニアバブル下で採用した人員がローパフォーマーであったり、わがままだったりするので、むしろ減らしたい

    • 生成AIの対応により未経験・微経験が必要なタスクが減った

  • 新規事業が減り、未知の技術への挑戦ができる人材を高額に雇うシーンが減っている

    • 生成AIを外部利用する分には既存社員で対応ができる

    • 既存事業の保守運用が重要視されている

    • 新規プロジェクトや施策に対し、先行するスタートアップをM&Aするシーンも増えており、新規実装ではなく繋ぎこみが求められる

  • 札束で叩く採用は好まない

    • 買い叩きたいわけではない

    • 自社の給与水準・評価水準を逸脱した採用を過去に実施したが、成功体験がない

こうしたことから適切な経験を持った人材を、自社にとって無理のない給与提示で採用したいという企業をよく見かけます。

アプローチの一つとして、適切な経験を持った40代・50代の選択肢が出てきます。

活躍中の既存社員の年齢が上がっている

相応の経験を積んでいれば転職しやすくなった背景の一つとして、採用企業での年齢層の拡大があります。

Web系自社サービスの雄であるサイバーエージェントが1998年創業、DeNAも1999年創業です。四半世紀が経過したということで、当時の新卒もアラフィフです。

決まりやすい未経験が飽和傾向の人材紹介会社

人材紹介会社は苦戦傾向です。

20-30代のどの会社も欲しがる中堅人材が人材紹介会社を利用しなくなり、母集団形成からしてままならない傾向は1年程度続いています。

エンジニアバブル期に上げすぎた売上から、コアとなる右肩上がりの成長をしなければならないのが株式会社の厳しさです。

そこで目をつけたのが外国籍ですが、受け入れ側に体制が無いとすんなりとはオンボーディングしません。フリーランス(及び彼らに再委託するSES)では北朝鮮エンジニアが入り込む問題もありましたし、コーポレートサイト宛に自主応募も多いです。国際情勢の緊張により中露の人材を受け入れない方針の企業もあります。事業として青天井に伸びるかと言われるとそこまでではないでしょう。

人材紹介フィーの高騰も苦々しいです。2年前に「人材紹介フィーの下限が40%になった」と書いたのですが、現在では45%が平均になっています。加えてお金を持っていそうな大手企業には50%や60%としているケースも確認されています。いかがなものかと思います。介在価値が向上しているわけではないのが厳しいところです。

人材紹介会社の中の人の整理も進んでいます。未経験採用が活況な不動産や建築業界に人員を寄せることで、粗利の確保に努めている企業も複数見られるようになりました。

そんな苦しい背景の中で、活路の一つとして期待されているのが40代・50代の紹介です。

懸念するトレンド

就職氷河期世代ど真ん中で、経験も豊富な40代・50代の人材が活躍の場を見出すために仲介するのは非常に良いと思いますが、危うさも感じます。

採用企業向け担当(RA)が粗野

人材紹介会社は大きく分けて2種類のタイプがあります。

  • 両手型

    • 担当者一人が候補者も、企業も担当し、マッチングする

    • 丁寧なマッチングに期待できるが、数は捌けない

    • 小規模な人材紹介会社や、ハイクラスのマッチングに見られる

  • 片手型

    • 候補者担当(CA キャリアアドバイザー)と、採用企業担当(RA リクルーティングアドバイザー)が分かれる

    • 数は捌けるが、CAとRAの間の連携がマッチング精度の鍵になる

    • 大規模な人材紹介会社や、数を捌きたい人材紹介会社に見られる

どちらが良いとかは一概には言えません。上記に加えてAIがマッチングに介在してくる企業もありますが、なぜ推薦したのかをRAが語れない場合も多く、過渡期を感じます。

エンジニアバブル下で正社員採用人数を追う企業が増えていた際、人材紹介会社の多くは片手型になりました。そしてRAを増やすという行動に出ました。このRAの多くは不動産会社や公務員などの他職種からの採用です。新卒も多いです。数が多いので、目が行き届いていないんだろうなという人材紹介会社によくお会いします。

エンジニアバブル下では売り手市場だったこともあり、人材紹介会社も雑に採用企業と接しても売上が立つ状況でした。そのため、営業スタイルも粗野な人がよくいらっしゃいます。

40代・50代の支援にしてみても「御社が採用できるのは年齢が上の人くらいですよ」という上からの物言いをする方が目につきます。候補者にも採用企業にも失礼ですし、シンプルに社会人としても、営業マンとしても大丈夫なのか気になります。

40代・50代や、外国籍の採用は採用企業内での成功体験が不可欠です。正社員採用だと安易にクビにもできません。人材紹介フィーも高いことですし、もっと丁寧に売り込まないと、間口は広がらないのではないでしょうか。

若手しか相手にしてこなかったキャリアアドバイザー(CA)が40代・50代と話せるのか?

多くの人材紹介会社は人材紹介事業に対する教育はするものの、ITに関する知識は時間外に自学自習させるスタンスであるため、個人差が非常に大きいです。

よく人材紹介会社に対して聞く候補者の愚痴として「なぜ新卒にキャリア相談しなければならないんだ?」というものがあります。

CAが若くてもキャッチアップができていれば問題はありません。しかしここ数年は人材紹介会社自身の企業方針で誘導しやすい新卒や第二新卒を数を捌くことで売り上げてきた側面が強く、40代・50代の転職はキャリア理解が不可欠です。未経験や新卒を「行動量」で担保していた戦略をアンラーニングできるのかが必要でしょう。どの程度のCAたちが急に40代・50代に寄り添えるのかという壁があります。

悲劇的シナリオとしての「全員派遣会社・派遣コンパチなSESに誘導」

理想としてはそれまでの経歴をきちんと棚卸しされ、当人が評価される企業で次のキャリアをスタートできることです。

ただ一方で、「人語が喋れればOK」な派遣企業・SES企業があります。ITエンジニアになれると言いつつも非ITエンジニア職(コールセンター、ヘルプデスク、家電量販店、自動車工場の期間工など)に誘導されるというものです。

最終面接合格後に案件が探され始め、見つかり次第、案件開始日とともに入社が確定する案件採用に手を出している人材紹介会社も多いです。

こうしたところがセーフティーネットのような顔をしているのが現状です。40代、50代のキャリアは長い故に複雑なので、途中でマッチングが面倒になってこうした企業に誘導している企業はあります。この流れにハマらないように注意が必要です。

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久松剛
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