アメリカで進むSNS利用制限・規制、その背景で起きていること〜
新年度を迎えるにあたり、お子さんにスマートフォンを持たせるべきかと考える方もいらっしゃるかもしれません。またオトナである自分自身もスマホ・SNS中毒かもと感じる人も多いのではないでしょうか?そんな時にふと目にした『米国35州、子供のSNS利用制限へ 「中毒性」広がる警戒』という記事はついにここまで来たか、と感じるものでした。
過度なスマホ・SNSの利用は以前から問題視されていたものの、記事によると米国の35もの州で何らかの法律が成立する等、法整備が試みられているとのことです。
ちょうど同じタイミングでこの問題に関して深く掘り下げている書籍『The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness(抄訳:不安な世代: 子ども時代の大いなる配線の変更が、いかにして精神疾患の蔓延を引き起こしているか。)』が出版され、数多くの書評・抜粋記事が公開されています。著者のジョナサン・ハイト氏はニューヨーク大学ビジネススクール教授の社会学者で、過去には2022年にアトランティック誌で「アメリカ社会がこの10年で桁外れにバカになった理由」という記事を執筆し多くの注目を集めるなど、ソーシャルメディアやスマートフォンが思春期の若者のメンタルヘルスにもたらす影響に対して警鐘を鳴らしてきた人物です。
アトランティック誌では書籍の抜粋記事として長尺の記事が掲載されています。『電話中心の子供時代を終わらせよう〜今日、子供たちが育っている環境は、人間の成長にとって敵対的である』と題した記事はX上で2,000以上ものリポスト、いいねがされ、大きな話題になっているようです。
記事の中でハイト氏はスマートフォンとソーシャルメディアが思春期の若者に与える有害な影響について解説し、2010年代初頭以降、うつ病や不安症の増加、さまざまな個人の発達面での低下とその台頭の相関関係を示しています。その上で彼は、精神的な健康、社会的なスキル、学業成績、自立性に対する悪影響を強調し、スマートフォンの使用の急増と思春期の社会生活のオンラインへの移行が、発達に根本的な変化をもたらしたと指摘しています。
これらの傾向に対抗するために、デジタルデバイスとソーシャルメディアへの年齢制限の強化、電話を使用しない教育環境の促進、現実世界での遊びと自立の奨励を提案しています。
記事の中では様々なデータが示されていますが、2007のiPhone、2008年のApp Store、2010年のiPadの登場、そして高速インターネット回線が広がっていったことが背景にあると指摘しています。2011年当時にスマートフォンを持っていた10代の若者はわずか23%でしたが、2015年には73%までに上昇し、常時インターネットに接続する状況に至ったことは、日本にいる私たちの2010年代を思い返して見ても思い出されるのではないでしょうか?
その間、米国におけるうつ病と不安症の割合は2010年から2019年にかけて多くの研究で50%上昇し、10歳から19歳の若者の自殺率は48%上昇、特に10歳から14歳の少女では131%上昇したとのことです。
以下のグラフでは「人生は無意味に思えることが多い」という意見に同意した米国高校3年生の割合が、2010年代始めから急激に増えていることを示しています。
日本では若者を対象にしたSNS利用に対する規制や法整備に向けての動きはまだないようですが、米国で起きていることは決して対岸の火事ではなく、日本社会の中でも同じような問題をもたらしつつあると感じます。私自身もこうした記事を目にする中で意識的に利用を控えなければ、と危機感を感じる程でした。法規制等の動きはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、自分自身、自分の家族、身近なコミュニティにおいて、改めてスマホ&SNSの利用を見直してみてはいかがでしょうか?
cover image credit: Copilit /DALL E3