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マネジメントをみんなでやるとはどういうことか? ー「垂直」と「水平」の分業

マネージャーがメンバーの不満を聞いてあげる。喜ばれなくても、成長の機会づくりと支援をしてあげる。エスカレーションされた顧客からのクレームにも、経営から求められる目標達成に対する説明にも、矢面に立つ。みんなに木偶の坊と呼ばれ、褒められもせず、自分の傷つきを誰にも気にされない……そういうものに、誰もなりたくない。

というのが世の「マネージャー」に対する認識であるようです。

私自身も、経営コンサルファームMIMIGURIで10人のチームのマネージャーを担っています。自分の所属組織でも、クライアントの組織でも、こうしたマネージャーの過酷な状態を解消したいと思っています。

同時に、風邪を引くようにメンタルを崩す時代において、マネージャーによるケアはもちろん、仲間同士の相互ケア、マネージャーへのケアが行われるべきであり、そのような組織づくりを目指したいと思っています。

「ピア・マネジメント」の2つのアプローチ

そんなわけで、私は「ピア・マネジメント」という言葉を探究テーマにしています。目標達成とリソース管理、キャリア設計、そしてメンタルという3つのケアの必要性を感じ、これらをメンバーが共に行う方法を考えています。

この「ピア・マネジメント」を実践していくうえでは、「ハード」と「ソフト」の2つのアプローチが必要です。組織の構造や役割分担などの「ハード」の部分と、組織文化や職場風土などの「ソフト」の部分の両側面から手を入れていきます。

ハード面でのアプローチとして、マネージャーとメンバーがマネジメント業務を分かち合いながら推進していく「マネジメント分業」の構造をつくります。ソフト面では、構造を下支えし、相互にケアを提供しあう「職場風土」を醸成していきます。

たとえるなら、庭のイメージが近いでしょう。複数の植物を場所を決めて植えるのが「ハード:マネジメント分業構造の設計」で、それぞれの植物が育つように水分や土の質をケアするのが「ソフト:職場風土の醸成」です。

今日は、ピア・マネジメントのハード側面である「マネジメント分業」について、先行する文献を参照しながら考えていきます。

「マネジメント分業論」の先行文献を挙げてみる

調べてみると「マネジメントをみんなで分担する」という言葉はいろんなところで語れていることがわかります。 関連するキーワードは、たとえば以下があります。

マネジメントのワークシェア(『罰ゲーム化する管理職』小林祐児さん)

管理職分業(日揮ホールディングス)

マネジメント民主化モデル(坂井風太さん)

シェアード・マネジメント(石橋慶さん )

これらのに共通しているのは、「マネジメントの負担が管理職に一極集中している状態を解消する必要がある」「そのためには、経営と人事からの働きかけを通じて組織全体の構造と文化を変えることが不可欠である」というメッセージでした。

「〇〇課がマネジメントの分業を独自に取り組んでる」ということでもよいのでしょうが、そう簡単にはメンバーの協力は得られません。その理由の一つには、メンバーがマネジメント業務の一部を期待されたとしても、非公式に行われると評価・報酬に紐づかない可能性があるからです。

マネジメント分業に対する社員の理解、協力を促すならば、経営や人事による公式の働きかけと評価へのひもづけが有効です。

ミンツバーグ「マネージャー以外のマネジメント」をひもといてみる

職場単位で実践するにしても、経営や人事が全社に働きかけるにしても、マネジメントを分業する方法を考えておく必要があります。マネージャーがやっていることはどんな業務なのか。そしてその業務を分解してみんなで担当するには、どんな分業の方法があるのか。

そのヒントを得るために、経営学者のヘンリー・ミンツバーグさんの『マネージャーの実像』を読んでみました。

本書では、「マネージャー以外のマネジメント」を、参加型/分担型/拡散型/支援型/最小型に分類しています。(最大型というのもあったのですが、これはマネージャーのパワーが最大化されたものだったので、外しました)

以下でひとつずつ紹介していきます。

参加型:権限の一部を部下に委譲する

シニアマネジャーが権限の一部を部下にゆだねるもの。「部長から課長」へ、「課長から係長・主任」へといった権限委譲のパターンです。 マネジメントの一部を、新しいタイトルをつけて委譲するときは、期待値の設定をまちがえると、結局マネージャーが全部やることになりそうで、注意が必要です

分担型:領域で分けて担当する

2~3人でマネジメントを分担するもの。CEOとCOO、事業リードとピープルリード、事業担当・人材担当・業務担当など、マネジメントを分業するやり方です。 ぼくが所属するMIMIGURIも事業/組織でリーダーが2人いる組織ですが、マネージャー同士の情報共有とコラボレーション、信頼関係がポイントになります。

拡散型:肩書きを持たない人も行う

肩書きを持たない人にもマネジメント責任の一部を委ねるもの。同時的・集団的・共同的リーダーシップの発揮をうながすやりかたです。 マネージャーによる独断ではなく対話による合意形成、メンバーの発案による活動の促進など、文化の醸成がポイントになります。

支援型:自律したメンバーの支援をする

メンバーが余計なことにわずらわされずに仕事ができるように、支援し保護するもの。メンバーが自律してきたらあとは任せる、という場合です。 メンバーが自律駆動するための資源(予算や支援)が入るよう組織外との交渉・取引をしながら、成果に責任をとる「サーバントリーダーシップ」の発揮とも言えそうです。

最小型:きっかけとルールをつくる

最初のきっかけとルールをつくり、活動全体に一つのまとまりを与えるもの。 www/リナックスOS/ウィキペディアなどの「オープンソース」をモデルとする活動です。マネジメントを通して業務を進める考え方というよりは、ムーブメントをつくるための考え方ともいえそうです。

マネジメントを水平・垂直に分けてみる

ここまで、ミンツバークによる「マネージャー以外のマネジメント」の類型を見てきました。参加型/分担型/拡散型/支援型/最小型という5つのパターンが示されていました。

「ピア・マネジメント」を実践するにあたって、私はとりわけ「参加型」「分担型」「拡散型」の3つに着目しています。ミンツバーグの類型をより具体的にかたちにするために、「マネジメントの水平・垂直の分業」として整理をしてみました。

ここでは、マネジメントを水平に分業する「分担型」と、垂直に分業する「参加・拡散型」と分けています。

水平の分業

まずは、水平の分業です。トップマネジメントも、CEO、COO、CHROなどのように分業されていますが、ミドルマネジメントにおいても「事業マネジメント」と「ピープルマネジメント」の2つに分割する事例が多いです。

先ほどあげた日揮ホールディングスでは、部長の役割を3つに分割しています。中長期のビジョンを立案・実行する「部長」、育成やキャリア開発に従事する「キャリアデベロップマネージャー」、遂行中のプロジェクトや業務を管理する「プロジェクトコーディネートマネージャー」の3者が、課題を共有しながら同等に意思決定をしていくそうです。

私が所属するMIMIGURIでも事業推進に責任をもつ「ユニットリード」と、人材育成と組織開発に責任を持つ「コミュニティリード」で、チームマネジメントを分業しています。

今回のサンプルでは「ナレッジマネジメント」を追加して3つに水平分業した構造をつくってみました。どのように水平分業するかは、組織によって事業構造や人数、理念、組織の文化によっても変わってくるでしょう。

垂直の分業

続いて、垂直の分業です。マネジメントを水平に各領域に設定したのち、各領域を垂直に分業します。上にいくほど責任を大きく、下にいくほど小さくしたかたちで設定できます。

たとえば、ピープルマネジメントを垂直に分業することを考えてみます。

まず、「人材育成とチームづくり全体」に責任を持つ担当者を設定します。「〇〇事業部・人材組織開発部長」のような肩書きになるでしょう。

次に「評価/人材育成/チーム開発」の具体的なタスクを請け負っていく担当者を設定する。「〇〇事業部・人材組織開発課長」です。部長と連携をしながら、評価・育成・チームビルディングを担当していきます。

その下に、「リフレクション/対話の場づくり」の担当者を設定します。「主任」のような肩書きをつけてもいいかもしれません。課長と連携しながら、上半期・下半期の期間中にチーム独自の対話型研修の場を設定し、期待値や目標に対してチームで対話しながらふりかえりを深めるようなプログラムを企画・進行します。

公式の分業か、非公式の分業か

水平にせよ垂直にせよ、マネジメント分業は、経営・人事がリードして「公式の構造」にするほうが効果があるでしょう。経営・人事がこの考え方を採用し、各部門・課と連携して進めていきます。全社の「マネジメントポリシー」といったソフト面の整備と合わせて推進すると有効だと思います。

一方、垂直分業は非公式にも推進できるものでもあります。公式的な肩書きにはないが、半期・年間の期待値のなかに「マネジメントの一部を担当する」ことを含んで合意しておくやりかたです。

こうした「マネージャーの右腕」のような存在を「インフォーマルリーダー」と呼ぶそうです。(参照記事:忙しすぎるプレイングマネージャーの負担を軽くするヒント 管理職の仕事を切り分け、部下に適切に任せるコツ )

「分業構造」と「職場風土」がコラボレーションを機能させる

このように、マネジメントを水平と垂直に役割を分担し、各担当者に期待値を設定することでマネジメントの分業は可能になります。

しかし、この分業を有効に機能させながら、相互に連携をとってコラボレーションを通じて、人とチームの成長、そして事業価値の最大化を両立していくことは簡単ではありません

ハード面である構造・期待値を成立させるのが、ソフト面の「組織文化・組織風土」であると私は考えています。植物の種類を選んで庭に並べて植えたとしても、水分の状態や土の栄養素がなければ育ちません。まさにこの土や水に当たるものが「ソフト」です。

次回以降、マネジメントの分業を、マネジメント担当者同士の豊かなコラボレーションに変えていく「文化/風土」のあり方についても探究していきます。(つづく)


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臼井 隆志|Art Educator
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