堀田陽平(弁護士 日比谷タックス&ロー弁護士法人)
厚労省は副業解禁状況の開示だけでなく課題とも向き合うべき
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厚労省は副業解禁状況の開示だけでなく課題とも向き合うべき

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

もうすっかり夏の気温になってしまいましたね。

さて、厚生労働省が副業・兼業の制限などの状況の公表を求める方針との記事が出ています。

これは6月7日に出された「新しい資本主義のグランドデザイン・実行計画」にも既に示されていたところです。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf

兼業・副業が可能か否かは組織風土を図り得る

さて、少々「何でもかんでも情報開示すればいいのか?」という問題はありますが、この点は、新たな資本主義のグランドデザイン・実行計画によれば、副業・兼業ガイドラインを改定するという方法で実施するように読めるため、ソフトな形で促すのであれば、ひとまずありかなと思います。

また、「副業・兼業は原則としては禁止できない」という法的な考え方からすれば、法律上の原則状態を開示するだけともみることができるでしょう。

私は、他の記事でも書いているように、世の中では(上記の引用記事でもそうですが)「副業解禁」などと言われているものの、法的には兼業・副業は一度も禁止されたことなどなく、これを禁止していたのは雇用慣行に過ぎないと考えています。

こう考えてみると、兼業・副業を禁止している企業は、「法的な要請に反してまでこれを禁止している」ということなので、閉鎖的な組織風土である可能性があるともいえます。

反対に、兼業・副業を許容しているということは、オープンな組織風土を推認される要素となり、優秀人材の獲得にプラスに働くと思います。
ちなみに、兼業・副業が可能であるかは、人材版伊藤レポート2.0の「3つの視点、5つの共通要素」にも位置づけられています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

ただ、制限理由の開示は厳しい

冒頭の記事によれば、制限している場合にはその理由まで開示させるということとなっています。

この点は企業にとっては厳しいものとなると思われます。
というのは、厚労省は、副業・兼業ガイドラインで、兼業・副業を禁止または制限できるのは以下の事由がある場合に限るとしています。

① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

他方で、実務上、「雇用契約での兼業・副業は認めない」としている企業が多く見られます。
労政時報の調査によれば「雇用型」の兼業・副業を認めている企業は75.2%であるのに対し、「非雇用型」、すなわち業務委託での兼業・副業を認めているのは85.5%となっており、業務委託型の場合の方が寛容な態度であることがみてとれます(労政時報「副業・兼業の最新実態」より)。

この「雇用型はNO、非雇用型だけOK」とすることが、法的に有効なのかという点ですが(この点は、私もよく質問を受けることがあります)、これに対しては、厚労省は、副業・兼業ガイドラインQ&Aで「禁止事由に当たらないので雇用型はNOとすることは認められない」としています。
この点は、裁判例上、雇用型の兼業・副業であっても、これを理由とする懲戒解雇等を無効としており、このように解釈せざるを得ないでしょう。

企業が「雇用型はNO」としたい理由

さて、上記のように「雇用型はNO」としたい企業の本音が「労働時間の通算」にあることは想像に難くありません。

特に、今回の情報開示は、大企業の兼業・副業の推進を狙ったものですが、大企業においては多くの場合、フレックスタイム制がとられています。
厚労省は、副業・兼業ガイドラインQ&Aで(ようやく)フレックスタイム制の場合の通算の考え方を示しましたが、それを見ても、労働時間の通算を前提とすると、その管理は極めて難しいです。
むしろ、個人的には、難しいどころか、「分からない」といった方が良いかもしれません(以前、私が労基署の問い合わせた時には、ご担当者も「よくわからない」といった状況でした)。

「管理モデル」だけに乗っかることは現実的に困難

一応、厚労省は、労働時間の通算を前提としつつ、労働時間管理の負担を減らすために「管理モデル」を提示しましたが、上記労政時報の調査によれば、この利用は約10%にとどまっています。
また、管理モデルは、法律によらない労働時間のみなしともいえるので、法的な正当性には疑問があります。
さらに、管理モデルは、兼業・副業先もこれに応じなければ利用できないという現実的な問題があります。
したがって、実務上は、管理モデルに100%乗っかるということは現実的ではありません。

厚労省は情報開示に併せて課題の解消も図るべき

私としては、情報開示を行うことだけを捉えてみると、まあいいのかな、という印象です。
ただ、兼業・副業の制限の理由を開示させることを考えると、「雇用型だから制限しています」と開示しようとすると、上記Q&Aと抵触することとなってしまいます。
ここで「その制限理由は法的に認められませんよ」というだけではあまりに企業に酷であり、仮に情報開示が法的義務ではない形で行われた場合、そもそも開示自体に前向きにならず、情報開示の仕組み自体がワークしない可能性もあります。

おそらく兼業・副業の許容状況の開示は、厚労省にとっても労働時間の通算の要否や社会保険の事務負担の軽減などの現実的な課題を再認識する契機となると思われ、改めてこれらの課題の解消に向けた議論をなすべきでしょう。

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堀田陽平(弁護士 日比谷タックス&ロー弁護士法人)
石川県出身 弁護士 2020年9月まで経産省産業人材政策室にて、兼業・副業、テレワーク等の柔軟な働き方の推進、フリーランス活躍、HRテクノロジーの普及、日本型雇用慣行の変革(人材版伊藤レポート)等の働き方に関する政策立案に従事。著書「多様な働き方と人事の法務」(新日本法規出版)