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「ネットで買われても、実感が湧かない」という店長の悩みと向き合ってみた話。

自宅の1階を、酒屋さんに貸している。

酒屋さんの名前は「いまでや 清澄白河」
GINZA SIXでも展開する、業界ではちょっと名の知れたお酒のセレクトショップだ。

そんな酒屋さんが自宅に出店した特異な経緯は、以前も記事にした。

オープンから1年。

毎日のように、自宅の1階で1杯やるようになった。
店長の松本さんとも仲良くなった(と思っている)。
暇な時は、お互い仕事の悩みを吐露しあったりしていた。

そんな悩みから、小さなオンラインショップが生まれた経緯を、今日は書いてみようと思う。

■本部と店舗のかけひき

自宅の1階にあるIMADEYA(いまでや)は、我が家の他にも4店舗ある。ECショップや、飲食店への卸売もやっている。

そんなIMADEYAが扱っているのは「クラフト酒」と呼ばれる少量生産の日本酒やワイン。バイヤーさんが所属する「本部」がこれを仕入れ、店舗を通じて生活者に販売したり、営業を通して飲食店へと卸売をしている。

本部のバイヤーは、世の中全体を相手に仕事をしている。一部の人にだけ深く愛されるお酒もいいが、会社としては季節のお酒や、トレンドのお酒を推したいと考える。

一方、現場の店長は1対1でエンドユーザーと向き合っている。会社の方針はわかりつつ、自分が推したいお酒だってあるし、相手に合わせてお酒を勧めたいと思っている。

IMADEYAは日本中の「クラフト酒」を取り扱っているので、誰でも好みの1本を見つけられるセレクトショップだと思う。

ただ「いまでや 清澄白河」の店長は悩んでいた。理由は、店舗の「広さ(狭さ)」にあった

店舗と言っても、所詮は一人暮らしの独身男性(バツイチ)の自宅。その面積は、もっとも狭い他店と比較しても4分の1以下。

本来、店舗は

・本部が(全社的に)推したいお酒
・店長が(個人的に)推したいお酒


の2つをバランス良く品揃えしていくが、狭い店舗だとほとんどが前者で埋まってしまうのだ。

清澄白河店はわずか7.5坪

■オンラインショップでの売上に実感がわかない店長

「店長にしてもらったのはいいけど、この広さだと私の色を出しきれない…」

悩める店長の話を聞いて、僕には疑問が浮かんだ。そして質問をした。

「IMADEYAってオンラインショップもあるじゃないですか?そこに店長の推し(のお酒)があるなら、そっちで買ってもらえれば、会社としては良くないですか?」

現場を理解していない質問だった。

店長は返した。

「それはそうなんですけど、オンラインで買ってもらっても実感が沸かないんですよね」

ごもっともだ。

いくら自分の推し(のお酒)がオンラインショップにあったとして「じゃあそっちで買いますね」と言われても本当に買ったかはわからないし、手渡しで商品を渡せていない。

近年、在庫を持たない店舗は注目されているが、「店長の気持ち」としては複雑なのかもしれない。

「まぁ、お客様が喜んでくれればいいんですけどね。会社の売上にはなるわけですし。」

と言いながら、店長は少し遠い目をしていた。

■店舗の売上になる「秘密のオンラインセラー」

「モヤモヤしたらパワーポイント」というのが僕の性分で、例によってパワポを開いて考えはじめた。

・オンラインをきっかけに、店舗に来てくれる

いわゆる"OtoO戦略(Online to Offline"は、一昔前によく聞いた気がするが、

今回の場合は

・店舗に来たお客さんが、オンラインで買ってくれる

という"逆OtoO戦略(Offline to Online)"で、それをやろうとすると、店舗のモチベーションという問題が発生することがわかった。

そうであれば戦略はただ1つ。

「店舗のモチベーションになるオンランショップ」をつくる、ということだ。なんなら売上もその店舗につけるくらいでもいい。

と、ここまでが戦略。

ここからが僕の本業で言う戦術だ。
いわゆる「企画」の作業になってくる。

オンラインショップで買うことで「本部」と「店舗」のどちらが喜ぶか、なんてお客さんには関係ない。

ただ、いつも店舗を使っている常連さんなら「せっかくなら顔なじみの店長に貢献したい」とは、思ってくれるかもしれない。

つまり、新しいオンラインショップでは「誰から買うか」が重要になる。

そこに

・商品数に制限がない
・24時間365日あいている

というオンラインならではの利点を掛け合わせて、企画をしてみる。

例えば店舗に来たお客さんが、店長からこんなカードを渡されたらどうだろう

と、想像する。

・常連だけの「裏口」
「独断と偏見」の店舗
・秘密の「冷蔵庫」

などと、戦略をどう表現したらチャーミングに見えるか、を考えてみた。

が、僕はただの2階に住む大家でしかない。なんの権限もない。
自宅の1階で、お酒を飲みながら酒の肴として考えただけだ。

でもせっかく考えたので、IMADEYAの専務に送ってみる。

「やってみたらいいんじゃない?」

と、返ってくる。

そして実現する。

IMADEYAはとっても不思議な会社で、こういうことがよくある。(そうでもないと会社員の1階に出店なんてしない)

そこから少し打ち合わせをして、最終的なネーミングはこうなった。

「冷蔵庫」ってなんだか野暮ったいよね。ということで表現はセラーに。

そしてこのオンラインショップは、店舗に足を運んでくれたお客さん限定で、パスワードが設定された。

サイトに入れば、店長たちが本当は置きたかったけど、置けなかったお酒が並んでいる。

ただ、ショップのオープンと同時に店長が代わり、きっかけとなった松本さんは「本部の人」になっていた。

でもそんな元店長がきっかけでできたお店なので、ショップには登場してもらった。

と、こんな具合に仕事終わりの1杯からはじまる仕事もある。

ということは、よくわかった。

これだから、お酒っておもしろい。

ショップが気になる方はぜひパスワードを元店長まで聞いてみてください

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