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「マーケティングトレースで価値を届ける力を磨く」ー【COMEMO KOLインタビュー】黒澤友貴さん

日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)黒澤友貴さんは、「日本のマーケティングリテラシーを底上げしていきたい」という思いから、マーケターの筋トレコミュニティ「マーケティングトレース」を運営されています。「マーケティングトレース」とは具体的にどういうものなのか、なぜマーケターのコミュニティを作ろうと考えたのか、COMEMO部の蛯原、大塚、坂東、三浦の4人が伺ってきました。

【COMEMO KOLインタビュー】は、日経COMEMOにご参加くださっているKOLにどのような方がいらっしゃるか、その思いやルーツを伺いつつ人となりをご紹介していくインタビュー連載企画です。さらに取材には、日経がnoteと共同運営するオンラインサロンのメンバーが参加。実際の取材現場を体験してビジネスに役立つスキルを勉強できる場を、サロンメンバーに提供しています。


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黒澤友貴さんのプロフィール
ブランディングテクノロジー(株)執行役員。日本のマーケティングリテラシーを底上げするために、マーケターの筋トレコミュニティ「マーケティングトレース」を運営。現在、登録者数は3000人を超えている。マーケティング、IR、CSRなどコミュニケーション領域全般で活躍している。
※COMEMO部……日経とnoteが共同運営するオンラインサロン「Nサロン」のメンバーで立ち上げた部活。COMEMO好きなメンバーが集まって、COMEMOを応援する活動をしている。


―(蛯原)マーケティングを学ぶきっかけは、どんなことだったのですか?

大学が経営学部だったので、授業としてマーケティングの講義があったということがありましたが、本気で学ぼうと思ったきっかけは、大学3年性のときに障害者福祉のNPOでインターンをやったことでした。NPOセクターでそのまま就職をしようと思うくらい、真剣にやっていました。

その経験の中で、NPOは社会に対して伝えたいことがあってもそれを上手に発信できていないと感じました。自分がNPOの道で食べていくためには何が必要か、と真剣に考えるようになったんです。それで、マーケティングやファイナンス、経営学などの勉強をするようになりました。

このときは、マーケティングに絞っていたということはなく、ただ自分が食べていけるスキルを身につけたくて。経営全般のことを20代のうちにどこまで学べるだろうかと、そんなことを考えていました。

ただ、マーケティングの勉強をしたとき「企業が一方的に売りたいものを売る」ことがマーケティングではないということを知りました。価値をどのように届けるのか、それを通じて社会の課題をどう解決するのか、マーケティングはそういったことに貢献できるんだと気づきました。自分の仕事をマーケティングにつなげていけたらいいなと、漠然と考えるようにはなりました。


―(蛯原)本格的にマーケティングの業界に進んで積まれた最初の実績はどのようなものでしたか?

最初に入った会社がインターネットの代理店事業をやっていて、そこで私はマーケティングをメイン分野とする仕事をすることになったんです。最初の3年ほどは、自分でテレアポをして経営者から仕事を取ってくるような、そんなことをしていました。中小企業向けのデジタルマーケティングですね。

経営者の方に直接会って事業についてヒアリングし、経営課題を洗い出す、そしてその解決方法としてインターネット広告を使う、そういう仕事です。

ハンコ屋さん、歯医者さん、専門学校、ECサイトや製造業など、分野を問わず小さな会社の支援などもやっていたので、マーケティングを取り入れるだけで売り上げが3倍、5倍と伸びていくようなことがありました。マーケティングとしてそれほど高度なことを駆使しなくても、事業を成長させることができるという最初の体験でした。

逆に、マーケティングをまったく理解していない経営者や、マーケティングを嫌っている中小企業などでは、事業がどんどん衰退していくということも、同時に目の当たりにしました。マーケティングを知っているか知らないかでこんなに変わってしまう……マーケティングの力でできることに可能性を感じました。

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―(蛯原)「マーケティングトレース」を生み出すきっかけになったようなことがあれば教えていただけますか?

「マーケティングトレース」という言葉は、私が自分で作った造語です。

トレースというのは、何かを「模倣する・模写する」ということですが、いいお手本をなぞるということです。成功するパターンをインストールする、と言ってもいいかもしれません。これは、デザイナーやエンジニアだと、トレーニングとして当たり前にやっていることです。それなのに、マーケターにはそのようなトレーニング方法がないなと思いました。

学習は一人でやるよりも複数人で行った方が効果的です。アウトプット数を増やし、それに対するフィードバックをたくさんもらうことで、自分の考えに多様な視点が入って視野が広がるからです。デザイナーやエンジニアには、お互いに学び合うような環境が比較的整っているのに、マーケターにはそういうコミュニティもないなと。学習には、学びの場となるコミュニティがあることは重要です。

そんな経緯から、「マーケティング力」や「マーケティング思考」を鍛えるようなトレーニング方法として、「マーケティング」に「トレース」という言葉をつけて「マーケティングトレース」という言葉を作りました。そしてその言葉に「#(ハッシュタグ)」を付けて発信することで、noteやSNSなどにコミュニティの場を作ったんです。これが始まりです。

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―(蛯原)具体的な「マーケティングトレース」の方法を教えていただけますか?

成功企業の裏側にあるマーケティング戦略のフレームワークを利用して、その成功要因を市場分析などから言語化・構造化することです。「自分がその企業のマーケティング責任者だったらどういう戦略を立てるのか?」ということを考えながら、分析力や仮説力を鍛えるトレーニングをします。

先ほども言いましたが、学習にはたくさんの「アウトプット」と「フィードバック」があると、非常に効果的にスキルを高めることができます。そこで私は、そのために利用できるコミュニティを、オンラインとオフラインで用意しています。

オンラインでは、Facebookグループを作って、メンバーが「マーケティングトレース」を実践したら投稿して、投稿されたものに他のメンバーがコメントするというコミュニティを作っています。また、「#マーケティングトレース」でのnote投稿を行って、それをTwitterにも共有して、他のメンバーからコメントをもらうという流れもできています。誰でも参加できるコミュニティです。

オフラインでは、月2回ほどの頻度で「マーケティングトレースミートアップ」という会を開いています。その場で「マーケティングトレース」を実践して、アウトプットとフィードバックをやっていきます。

ちなみに「マーケティングトレース」をやる場合の「成功企業」に当てはまるものには、以下の3つの条件を作っています。

・売上や利益が急拡大していること
・社会性があること(社会課題を解決するようなビジネスなど)
・自分の好きな会社であること

そして、これに当てはまるような企業の情報を、さまざまなところから収集して、常にストックするようにします。私の場合ですと、情報はTwitterの他、日経新聞や博報堂生活研究所などの信頼できる情報源をいくつかチェックするようにしています。

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―(蛯原)noteにほぼ毎日記事を投稿されていますが、日々のインプットとアウトプットはどのようにされていますか?

インプットは朝、アウトプットは夜と、時間をしっかりわけてやっています。朝の2時間半で良いインプットをする。それを夜アウトプットしています。

「インプットは必ずこのメディアをチェックする」と決めるよりも、アウトプット数を意識しています。要約してツイートするとか、noteに投稿するとか、アウトプットから逆算してそれに紐づく情報を効率的に集めるようにしています。ただ情報を眺めて終わってしまっては意味がありませんから、アウトプットする前提で情報を見ます。「良いインプットがないと良いアウトプットは生まれない」という考えです。

noteは1カ月に30ノートを投稿すると決めていて、1記事あたり1000〜2000文字で書いています。毎日アウトプットすることを始めて良かったと思うのは、情報のアンテナの張り方が変わったことです。この文字数で毎日アウトプットするとなると、思いつきでツイッターにツイートするのとは全然違いますから。ただ、アウトプットは良く見せようとしすぎると長続きしない気がします。それよりもアウトプットのためのインプット効率をよくすることに注力しています。

書くことが思いつかずに、過去に書いたnoteを読み返したりしながらひねり出すこともありますが、そういうときは「マーケティングトレース」をやればいいと思っています。企業が決まればあとは型があるので、それをアウトプットすればいいですから。

―(蛯原)マーケティングスキルが底上げされた先の世界として、黒澤さんが見据えている未来はどんなものですか?

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やりたいことがあるのに経営がうまくいかないということを、マーケティングの力でなくしたいと思っています。社会人になったばかりの頃、中小企業向けのマーケティングをやっていたこともあって倒産する会社をたくさん見た経験から、思うことでもあります。

これは私の中では「倒産件数を下げたい」という、数字的なことではありません。純粋に「いい価値を届けているいい企業が残る」ということです。マーケティングを学ぶと、価値の届け方が上手くなるので、企業の持続可能性が上がります。そのような環境を作りたいと思います。

マーケティングの視点が欠けているだけで、なかなか発展していけないということがもどかしいんです。これは企業だけではなく都市経営や病院、学校、NPOなども同じで、マーケティングの視点をもっているかどうかがカギを握っているというケースは少なくありません。マーケティングが浸透していない業界へのマーケターの人材流動性を高めていくことは、「マーケティングトレース」の一環として私が今後やりたいと思っていることの1つです。

さらに、マーケティングスキルをもった人が増えれば、個人のキャリアが強化されたり、やりたいことの実現もできるようになると思います。その結果、面白い企業や活動が生まれて、社会全体に楽しい仕事や楽しく働く人が増えるのではないかと思います。

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学生時代のNPOでのインターンの経験、そして社会人になって最初に経験した中小企業向けのマーケティングの仕事から、マーケティングの力の可能性や本来の役割を黒澤さんは見出されたのではないかと思いました。「マーケティングトレース」というマーケティング力を鍛える方法は、それによって生まれる楽しい仕事や楽しく働く人を見据えて生まれたというお話に、とても共感しました。どんな方でも気軽に入れる黒澤さんの「マーケティングトレース」のコミュニティ、ご興味のある方はぜひご参加ください。