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5-11歳の子どもへの新型コロナワクチン接種をめぐる課題・続報

 3月に入り、全国的に5-11歳の子どもへの新型コロナワクチン接種が始まっています。前回の投稿でもこの話題に言及しましたが、オミクロン株に対する発症予防効果が米国CDCなどのグループにより初めて発表されました。

2021年4月~22年1月に米国各地の医療機関の救急窓口を受診した約4万人、入院した約1700人のデータを分析。
デルタ型が優勢な時期には救急受診を防ぐ効果は12~15歳で92%(2回目接種から14~149日後)、オミクロン型が優勢な時期には12~15歳で45%(同)にとどまり、5~11歳での効果は51%(2回目接種から14~67日後)だった。

Effectiveness of COVID-19 Pfizer-BioNTech BNT162b2 mRNA Vaccination in Preventing COVID-19–Associated Emergency Department and Urgent Care Encounters and Hospitalizations Among Non immunocompromised Children and Adolescents Aged 5–17 Years — VISION Network, 10 States, April 2021–January 2022

また、ニューヨーク州保健当局の研究者らも調査を行っており、研究論文(査読前)を投稿しています。

2021年12月~22年1月に同州でワクチンを2回接種した12~17歳の約85万人と5~11歳の約37万人のデータを分析。
オミクロン型の流行が広がる中で12~17歳での感染を防ぐ効果は21年12月中旬(13~19日)に66%、22年1月下旬(24~30日)には51%だった。5~11歳では同期間に68%から12%に低下していた。
年齢別にみると、1月下旬(*接種後1か月程度)に12歳では67%、11歳では11%だった。

Effectiveness of the BNT162b2 vaccine among children 5-11 and 12-17 years in New York after the
Emergence of the Omicron Variant

12歳と11歳で大きな差が出たのは、12歳以上は成人と同量ですが5-11歳は3分の1量となっていることが考えられます。この影響からか入院を予防する効果も12-17歳に比べ低い水準でした。

 日本小児科学会の5~11 歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方は以下です。但し2022年1月19日公開ですので、新たな見解が出されるかもしれません。

1)子どもをCOVID-19から守るためには、周囲の成人(子どもに関わる業務従事者等)への新型コロナワクチン接種が重要です。
2)基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、COVID-19の重症化を防ぐことが期待されます。
3)5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考えています。健康な子どもへのワクチン接種には、メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です。
4)接種にあたっては、接種対象年齢による製剤(12歳以上用と5~11歳用のワクチンでは、製剤・希釈方法・接種量が異なります)の取り扱いに注意が必要と考えます。また、集団接種を実施する場合においても、個別接種に準じて、接種前の問診と診察を丁寧に行い、定期接種ワクチンと同様の方法で実施することが望ましいです。

日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

1)に関してはこれまでと同じ考えですが、オミクロン株に対する発症予防効果の低下から、その実証性が下がっていると感じます。
2)重症化の予防に関しては2回目接種から1-2か月で74-48%程度にまで低下することから、接種をしないよりはした方が良いですがその効果は長くは続かない印象です。
3)に関しては健康な子どもに対しての意義が見当たりません。米国の報告ではもはや発症予防効果は期待できない数値です。
4)取り扱い注意、問診と診察を丁寧にとありますが、一部の自治体ではパート医師(小児科医でなくても可)を大量に募集しており、慣れない人たちの集団で正確な取り扱いができるのか、親御さんに納得のいく説明ができるのか大いに疑問です。

以上から5-11歳の子どもに対するワクチンの私見です。
①日本において健康な小児における死亡事例や重症事例はきわめて少ない。
②現在のm-RNAワクチンの効果は重症化予防が主たるところであることかから重症化しにくい小児に対して推奨できるものか疑問。
③発症予防効果が高くはないワクチンによって学校などでの集団感染を抑え込めるかどうかは疑問。
④但し接種後短期間であれば発症予防効果が期待できる可能性があることから、地域での一斉大規模接種などが実現できるのであれば抑え込むこともできるかもしれないが現実的にはほぼ不可能。
⑤有害事象は12-17歳に比べて頻度は少ないものの発生はあり、事例が少ないことから今後もすべてが許容できるものかどうかは未知数。

①~⑤からすれば接種を推奨するメリットがほとんどなく、デメリットの方が存在する状態ですので、やはり親御さんから質問された場合には「今の段階では勧める理由はありません」となるでしょう。

 成人においても3回目接種が進行中ですが、オミクロン株に対するワクチン効果に関する論文が最近発表されました(Andrews N, et al. Covid-19 Vaccine Effectiveness against the Omicron (B.1.1.529) Variant. NEJM. 2022 Mar 2. Online ahead of print.)。新型コロナワクチンの効果に関しては様々な意見がありますが、開発当初は短期的な評価しかできなかったことで高い発症予防効果があると報告されていましたが、時間の経過とともに抗体価の減衰によると考えられるブレークスルー感染が相次ぎ、さらにはスパイクタンパクの変異によるオミクロン株に対しては、デルタ株以上に発症予防効果の低下が著しいこともわかってきたことは、事実として受け止めなければなりません。一方で追加接種をすれば一時的ではあるものの発症予防効果を引き上げることができることも確認されています。ただそうなると何度も追加接種をしなければその時の感染拡大を抑え込むことが難しくなります。
 Nature Newsに以下のような記事がありました。

Three, four or more: what’s the magic number for booster shots? Nature News, 28 January 2022

COVID vaccine boosters are proving a useful tool against Omicron, but scientists say that endless boosting might not be a practical or sustainable strategy. "Better solution than endless boosters"

 追加接種をすれば一時的には発症予防効果も上昇し、短期間で流行を抑え込むこともできるかもしれませんが、いつまでも従来のワクチンを選択していたら「エンドレス・ブースター」になるでしょう。新たなワクチンの開発と流通が望まれるところです。

#日経COMEMO #NIKKEI


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