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FOBO:Fear of Becoming Obsolete(時代遅れになることへの恐れ)への処方箋としてのリスキリング

先日『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング 【実践編】』(後藤
宗明氏著 /日本能率協会マネジメントセンター)を読みました。

自分自身は2010年にメディアコンサルタントとして法人を設立して独立し、基本1人でコンサルタントとしての活動をしていることもあり、実は「リスキリング」という言葉を聞いてもなかなか「自分ごと」として認識できてない状態が長く続いてました。というのも、リスキリングの文脈でよく目にする国内、そして海外の事例は組織的・資金的にゆとりのある大企業の事例が多い印象があったからです。報道の記事や番組での紹介においても、大企業が主導してリスキリングを導入した結果、「現場のオペレーション業務からデータサイエンティストに」というストーリーが多いというイメージを持ってしまっていました。書籍の中でも誤解の例として指摘されているように、『リスキリング=とりあえず人事部がデジタル分野の研修を従業員に提供する』というような印象が強かったのです。

もちろんコンサルタントとして今後も活動していく上では新しいスキルを習得しなければいけないということは十分認識し、個人的には「気候変動・脱炭素・気候テック・グリーン」と呼ばれる分野で知見を深め、国内での気候変動対策やグリーンビジネスの認知を高めるためのコンサルティングに取り組むべく、過去2年ほどは先の見えない領域で手探りで取り組んでいます。我流の学び直し、自己啓発、自己研鑽、学びとも言えなくもなく、自分なりの「リスキリング」として捉えてました。

そんな中、今回前著『リスキリング』に続き『実践編』を読んで思いを新たにしたことがあります。リスキリングとは、大企業の人事部がとりあえずDX研修を従業員に提供することではなく、今後5年、10年、20年先を見越した際に全てのビジネスパーソンや学生が意識すべきマインドセットの変革であるのではないか、との認識です。対応しなければ近い将来労働市場において退場を強いられてしまうという近未来の予測や懸念が、様々なデータと著書の体験談、未来予測に基づいて描かれてます。特に今後ますます拡大することが予測されている様々な「格差」がもたらす懸念や視点については、民間企業のみならず国、地方自治体、NPO等の取り組みが期待される社会的な課題として、認識を新たにしました。

本書最後に10ページを割いて書かれている近未来シュミレーションストーリー、「リスキリングが浸透した2033年の日本の姿」を読むことで希望も描かれていて、『憂国の書』としての後藤さんのメッセージが伝わってくる一冊でもありました。


リスキリングについての海外での動向を眺めてみると、早速目を奪われる内容のデータを見つけました。『FOBO:Fear of Becoming Obsolete(時代遅れになることへの恐れ)』というキーワードが米国において、特に大卒の若い世代の意識の変化として顕著になってきているようです。

9月11日に発表されたギャラップ社の調査「仕事と教育に関する世論調査」によると、近い将来、テクノロジーによって自分の仕事が時代遅れになることを恐れるアメリカ人労働者が増えているいう結果が示されてます。

2017年以降継続して調査が続けられるギャラップの傾向において、この2021年から2023年までの2年間で顕著に増加していることが伺えます。22%がテクノロジーによって自分の仕事が時代遅れになることを心配していると回答していて、2021年の前回の値(15%)から7ポイントも上昇しているとのことです。

More U.S. Workers Fear Technology Making Their Jobs Obsolete [2023/9/11]

ここで注目に値するのが、この躍進の原動力となっているのがほぼ大卒労働者である点です。2021年から2023年の間に、自分の仕事が時代遅れになることを懸念する非大卒労働者の割合は22%から24%へと微増した一方で、大学教育を受けた労働者においては8%から20%に大きく上昇してます。また、18歳から34歳の若年層においては17%から28%と他の世代に比べ大幅に恐れや不安が高まっていることが伺えます。

More U.S. Workers Fear Technology Making Their Jobs Obsolete [2023/9/11]

FOBO:Fear of Becoming Obsolete(時代遅れになることへの恐れ)」と表現されるこの現象は、昨年末来話題になっているChatGPT等の生成AIが導入が今後も進み、テクノロジーが雇用の安定を脅かすという労働者の懸念を示しているようです。

18歳から34歳の若い労働者の懸念が高まっている点はやはり周囲でChatGPTについて見聞きする機会が多かったり、時代の移り変わりを敏感に感じていたりする可能性がありそうです。年収に関しては10万ドル以上の高収入の人よりは、10万ドル以下の人のほうが17%から27%へと10ポイントも高く不安を感じているようです。


最新のハーバード・ビジネス・レビューの記事においても『AI時代のリスキリング〜リーダーと従業員のための5つの新しいパラダイム』と題した提言が示されています。記事の中では、2019年に発表されたOECDの予測として「今後15年から20年以内に、新たな自動化技術によって世界の仕事の14%がなくなり、更に32%が激変する」とのデータが示されてます。ChatGPT登場の前の時点での予測であることを踏まえると、今後数十年のうちに何百万人もの労働者が完全にリスキリングをする必要に迫られる、根本的でとても複雑な社会的課題であることが強調されてます。

今後数十年の間に、技術革新のペースがますます速くなるにつれて、何百万人もの労働者がスキルアップだけでなく、リスキリング必要となる可能性がある。企業はこの課題に取り組む上で重要な役割を担っているが、これまで真剣に取り組んできた企業はほとんどない。ハーバード大学のデジタル・リスキリング・ラボのデジタル・データ・デザイン研究所とボストン・コンサルティング・グループのヘンダーソン研究所の共同研究メンバーである著者は、その役割について詳しく知るために、大規模なリスキリング・プログラムに投資している世界中の約40の組織のリーダーにインタビューを行った。彼らが学んだことを総合すると、リスキリングにおいて5つのパラダイムシフトが起きていることがわかった。(1)リスキリングは戦略的必須事項である(2)リスキリングはすべてのリーダーとマネージャーの責任である。(3) リスキリングはチェンジマネジメント・イニシアチブである。(4) 従業員は、それが理にかなったものであれば、リスキリングを望む。(5) それには村が必要である(組織を超えた多様なアクターの協業が必要)。
著者は、企業が急速に進化する自動化とAIの新時代にダイナミックに適応して成功を収めるには、これらのシフトを理解し、受け入れる必要があると主張している。

Reskilling in the Age of AI [September–October 2023
Harvard Business Review] 

自分が大企業に所属してないから、また人事部のような立場にいないから、というレベルでリスキリングに距離感を感じていた考えを改めなければいけないと感じてます。10年、20年後の社会を見据えたときに「今やるべきこと」として、その処方箋としてリスキリングを新たに捉え直してみたいと思います。

新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング 【実践編】』の中では何度となく『グリーン分野のスキル』というキーワードが登場します。著者も指摘しているように、現状国内では欧米で見られるような急成長しつつある気候テックのスタートアップの存在や求人も少なく、「脱炭素」「グリーン」人材・スキルが十分に顕在化してない状況であると感じます。

ただ視点を英語圏に向けるだけで巨額のVC投資調達や国家的な産業政策としての補助金戦争が行われていることが見えてきます。いずれ国内においてもこうした潮流は拡がることが予想されます。英語圏では「Climate(気候)」を冠した数多くの教育プログラム(Terra.do)、アクセラレーター(Climate Vine)転職サイト(Climatebase )、メディア・コミュニティ(MCJ / Work on Climate)が存在し、私も過去2年ほどの間に数多くの講座やコミュニティに参加し、活況を呈しつつある「グリーン・リスキリング」の現場からあふれるダイヤミックな躍動感を感じてきました。

来月からは気候変動・気候テックに関するキャリアに取り組むプロフェッショナルを対象にしたアクセラレータープログラム、「Climate Vine(クライメート・バイン)」というプログラムに参加予定です。いずれ「グリーン分野のリスキリング」という文脈でも何らかの役割を果たすことができれば、と思っています。


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