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[レポ]日本マンガの行方=「フランクフルト・ブックフェア」

ドイツのフランクフルトで10月19日、国際書籍見本市「フランクフルト・ブックフェア」が開幕しました。一般デー初日のもようをご紹介しつつ、日本マンガの行方について考えてみたいと思います。

「フランクフルト・ブックフェア」とは?

「フランクフルト・ブックフェア」は世界中の本が集まる国際書籍見本市です。主催者の発表によると、第74回目となる今年は、世界95カ国から4000以上のブースが参加し、世界100カ国から出版関係者9万人以上が参加しました。(「一般デー」を含む総来場者数は会期終了後に追記します)

<追記:2022年10月23日>
今年2022年の「フランクフルト・ブックフェア」の総来場者数は18万人となり、コロナ禍前の2019年の30万人の2/3程度にまで回復したようです。
閉幕時の公式発表によると、2022年の一般来場者数は8万7000人でした。前年の3万7500人から大幅に増加しましたが、前年はオンラインとの併催によりリアル開催の規模を縮小していたため、単純比較はできません。業界関係者の参加者数は9万3000人(前年:3万6000人)でした。

会場のいたるところに設置された大小のステージでは作家などのトークセッションも

日本のマンガはどこにあるのか?

世界中の本が集まる会場では、日本のマンガも各所で見かけることができました。順番に見ていきましょう。

ドイツの出版社が集まるホール

まず、ドイツ語版の日本のマンガは、ドイツの出版社が集まるホールで見ることができます。児童書大手のカールセンのブースは、日本のマンガもたくさん展示してありますが、社内の1部門に過ぎないので、ブースがマンガだらけというわけではありません。

児童書大手のカールセンのブースは大きいですが、、、

そのカールセンが積極アピールしていた作品のひとつに『東京リベンジャーズ』がありました。

そこで、改めて、作中の「マンジ」を確認しました。実は、ドイツ語圏では、アニメファンイベントが同作のコスプレにおける「マンジ」を問題視し規制する動きがある一方で、出版社は、ナチスとはまったく関係がないので問題はないと説明がありました。そのあたりの事情については以前取り上げました通りです。

ドイツ語版『東京リベンジャーズ』のマンガでは「マンジ」は規制対象外

肩透かしに感じたのは、TokyopopやEgmontといった他の大手マンガ出版社のブースを見かけなかったことです。コロナ禍による見送りなのか、そもそも出展戦略を見直したのか。。。代わりに、新興のマンガレーベル「Manga Cult」のブースでは、『鬼滅の刃』のポップが目を引いていました。

米国、ウクライナ、妖怪

日本のブースを紹介する前に、もう少しだけ会場で見かけたマンガを眺めてみましょう。

米国の出版社は、日本のマンガの英語版を展示していました。
中国の出版社のブースでは、中国語によるマンガが日本語に翻訳されていました。

ドイツ連邦政府が招待した出版社による合同ブースでは、ウクライナの出版社を見かけました。そこでもマンガを見かけました。

中央。中段右から2冊目はマンガでした。
内容はこんな感じ。(おそらく)ウクライナ語に訳されたものだと思います。
番外編:妖怪の本を展示していたのはスイスの出版社でした。マンガ同様、日本の妖怪も注目されているようです。

日本「島」の様子

日本の出版社は、各社による合同ブースを中心に個別のブースが展開しひとつの「島」を形成していました。隣の韓国よりも広さは少し狭いくらいでしょうか。

この写真に収まっている範囲(見えない逆側も含めて)が日本ブースが集まる「島」


比較的大きなブースを出展していた講談社ですが、マンガ作品はほとんど見られず。このあたりは、海外に販売したい/販売実績のある本なのでしょう。


アニメやゲームなど幅広く展開するオーバーラップは、独自ブースを展開していました。

会場で気になった点を。。。

日本の出版社とフランクフルト・ブックフェア

日本のマンガやアニメによるコンテンツ産業の輸出が好調だという話しは、ここ数年、よく耳にするところです。今年2月と少し古い情報ですが、例えば日経新聞でもKADOKAWAにおける海外事業の好調さが報じられています。

そのKADOKAWAの書籍はというと、合同ブース内に設置された棚2列分(コーナー部分)だけでした。もはや海外事業には積極的でないのか、それとも、もはやフランクフルト・ブックフェアという「場」が宣伝/ライセンス販売に適したプラットフォームでないのか、疑問に感じました。

なお、中央、コーナー部分のKADOKAWAの右隣の集英社に至っては棚1列のみとさらに少なかったです。ちなみに、左隣は小説・コミックスをメインとする出版社のTOブックスでした。

日本によるマンガ紹介=「文化庁メディア芸術祭」

日本のブースでの目玉企画と言って良いのが、このおよそ「日本における女性漫画家の深さと多様な世界」というプレゼンです。文化庁、つまり日本政府がマンガを紹介していました。(日本ブースでのプレゼンは合計3回、うちビジネスデイ2日間(各1回)、一般デ-1日(1回のみ)を実施されたようです。)

内容は、文化庁が実施するメディア芸術祭における過去の受賞作品から、女性マンガ家の作品を6本選び、概要を紹介するものでした。(紹介作品は以下の6タイトル)

『グッバイ・ハロー・ワールド』(北村みなみ)
『あした死ぬには、』(雁須磨子)
『かしこくて勇気ある子ども』(山本美希)
『父のなくしたもの』(松田洋子)
『思えば遠くにオブスクラ』(靴下ぬぎ子)
『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)

プレゼンは立ち見が出るほどの盛況ぶり

さて、そのプレゼンの印象ですが、基本的に来場者は満足していたのかもしれません。6件の事例を知ることで、日本の女性マンガ家が制作するマンガの多様性をすることができたのではと思います。個人的には、個別の作品紹介だけなく、もう少し傾向や分析など、日本の業界を俯瞰するパートもあればと思いました。

そこで少し考えてみました。

そもそも、「フランクフルト・ブックフェア」は出版業界のバイヤーがライセンスを買い付ける要素が大きい見本市です。マンガは文化・アートであると同時に、作家/アシスタント/編集者によるクリエイティブ産業としての経済的な側面もあります。筆者としては、産業としての市場動向などの情報も多少期待していたので、それが無かったのは残念に思いました。しかし、コンテンツの輸出支援は経産省の管轄であることを考えると、今回は文化庁やメディア芸術祭によるものだったので、担当外なのかもしれません。いずれにせよ、マンガには文化と産業という2つの別々な側面があるように改めて感じました。

日本のマンガの行方

まとめます。世界の本が集まるフランクフルト・ブックフェアでは、マンガを各所で見ることできました。それは、日本の出版社ブースや開催国ドイツの出版社のブースにとどまりません。一方で、日本やドイツの出版社の参加の有無や参加したブースの扱いを見る限り、マンガのプレゼンスはそれほど感じられませんでした。

では、海外における日本のマンガの勢いはなくなってしまったのでしょうか?

そこには、フランクフルト・ブックフェアというリアル開催されるプラットフォームの価値の変化とも関連があるように筆者は感じました。コロナ禍を経て、世界のオンライン化が進みました。以前からあった紙から電子書籍へという傾向とあいまって、本はオンラインで「知る」ことができ、ラインセンス取引もオンラインで完結することが可能になっています。一方で、わざわざ、世界から人や本が大集合するという、リアルイベントには「偶然の出会い」があるのもまた事実だと思います。

日本のマンガは今後、どのように海外のひとたちに知られて、各国に行き渡ることができるのでしょうか。気になるところです。皆さんはどう思われますか?


1)写真はすべて筆者が現地で撮影。
2)タイトル写真はドイツの出版社が集まるホールの様子。

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