インサイトを見つけて、最も過酷な戦いが行われている定番で勝つ!ー変化を勝ち抜くレッドオーシャン戦略
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インサイトを見つけて、最も過酷な戦いが行われている定番で勝つ!ー変化を勝ち抜くレッドオーシャン戦略

2021年10月19日(火)に開催したNIKKEI LIVE「変化を勝ち抜くレッドオーシャン戦略」では、世間ではブルーオーシャンを攻める重要性が言われていますが、現実的にブルーオーシャンを見つけることが困難な中、レッドオーシャンでどう闘っていくかについて議論しました。イベント内容の一部をご紹介します。

P&Gなどを経て日本マクドナルドのマーケティング本部長に就任しマックを見事にV字回復させ、現在はファミリーマートCMOを務める足立光さん、雪印乳業を経てエステーの宣伝責任者に就任し、数々の心に残るCMを作り、昨年に独立して活躍の場をさらに広げているかげこうじ事務所代表の鹿毛康司さんをゲストにお招きしてお話を伺いました。聞き手は、大岩佐和子編集委員が務めました。

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ー大岩編集委員
最初に参加者の皆さんに投票を募りたいと思います。「エステーがレッドオーシャンを攻めるにあたりご法度としている戦略はどれでしょうか?」この答えについては、後ほど鹿毛さんからお話しいただきたいと思います。

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鹿毛さん
私は中途でエステーに入りまして、当時の社長の鈴木喬(現会長)から「聞いてわかる・見てわかる・使ってわかる」とずっと言われ続けていました。「これさえあればレッドオーシャンも勝てる」と。私たちはそれを「ニッチNo.1」と言っていましたが、最初はそんなところに入っていって本当に大丈夫なのだろうかという気持ちでした。

そんな中でまず作ったのが「脱臭炭」という商品で、市場が縮小して有名ブランドがひしめいていた中に入っていきました。次は、米櫃防虫剤の「米唐番」という商品を作りました。これも非常にニッチで4社がひしめいていました。結果、この2つが今どうなったかと言うと、両方ともシェアが8割になっています。レッドオーシャンのニッチの「ど真ん中」で利益を上げる商品になっています。

これらの商品は、非常にコンセプチュアルに、人の「ど真ん中」の気持ちを考えた商品開発が行われています。たくさんの商品や競合がひしめく中に入っていこうとすると、どうしても「ど真ん中」ではなく「ちょっと違うもの」を作ってしまうものです。すると「差別化」と称してどんどん違うものを取り入れてニッチになります。しかし、実はニッチの中で勝つには「ど真ん中」の商品であることが重要です。「ど真ん中」で勝負をかけよう、そういう戦略でした。

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ー足立さん
レッドオーシャンでも、大きな市場はやはり真ん中なんですよね。だから、真ん中を最初から狙いにいくというのがとても大事です。コンセプト自体もとても強い真ん中の商品は、ほしい人が一番多い商品ということになります。かつ、それを知らしめる方法が目立っていれば、ニッチの商品かもしれませんが、その中でも競合商品には圧倒的に強くなります。

レッドオーシャンの中ではかなり強いコミュニケーションをしないと人の心には残らないので、多分、そこがポイントだと思います。

ー大岩編集委員
すると、先程の投票の答えは何になりますか?

鹿毛さん
どれもやってはいけないことだろうと思いますが、やはり、調査だけですべてを判断してはいけないと思います。調査をすると、どうしてもその商品が流行らない理由がたくさん出てきてしまいます。競合がひしめいている、価格競争になる、お客さんが少ないなど、すべてがやらない理由になっていきます。レッドオーシャンの中に入るときには、やらない理由がたくさん見つかるものです。未来がわからない中、そこには絶対に成功があると信じて、鈴木喬のような人間が「行くぞ!」と言えるからこそできるところはあります。

ー足立さん
ただ、会社員の方は「これをやったらいくら儲かります」「これをやったら勝てます」という企画書を作って出さないと通らないですよね。

鹿毛さん
僕は、調査では見えないチャンスみたいなものがあって、後発でレッドオーシャンに入るには、それを見つけるしかないと思っています。論理的なものではなく「勝負どころ」です。僕はそれは「お客様の心」、つまり「インサイト」だと思っています。

ー大岩編集委員
参加者の方からも、まさにその点についての質問がありまして、「定量調査からでも消費者インサイトを引き出すことはできますか?と言うのもインサイトだけでは社内を説得することができません」という切実な悩みが寄せられています。

鹿毛さん
ニーズは定量調査で知ることができますが、インサイトは調査では見えません。ただ、例えば女性にプレゼントを渡そうと思って「何がほしい?」と聞いたら「こんなことに困ってる」と言われたから「じゃあこれをあげよう」となると、女性は喜んでくれるかもしれませんが、便利な人と思われて終わってしまいます。でも、彼女が何を考えているのかをずっと探り続けて、調査では見えない「心」の奥が見えたとき「じゃあこれをあげよう」と渡したプレゼントには「なんで私の心がわかるの?」と、LikeをLoveに変えられる可能性があるわけです。

この「インサイト」つまり「人の心」を発見してプレゼントを見せたときの反応は調査できるはずです。インサイトそのものは、消費者自身も気づいていない心の奥のものなので調査することはできませんが、商品やサービスなどの解決策が目の前に現れたときの「反応」は調査である程度知ることができます。

多くの場合、インサイトにいく前の段階の定量調査でダメな理由を見つけて終わっているのではないかと思います。

ー足立さん
具体的に言うと、コンセプトテストとか、パッケージまで作って行うテストとか、プリント広告を作って行うテストとか、そういうことですよね。そうすれば、オファーも反応も定量調査でちゃんとわかります。おそらく、インサイトだけを調査することは不可能に近い気がします。

僕にとっては、調査は仮説の検証の方法でしかないので、BtoBの場合もBtoCの場合も、自分の周りにいるお客さんを見ることだと思っています。

特にBtoCは自分の周りにいる人が、そのサービスを知ってるか知らないか、その商品を使ったことがあるかないか、「今、何使ってる?」と聞くとどのステージにいるかが大体わかります。その人はなぜ他のものを使うのか、ちゃんと聞くことで調査できると思います。

消費者理解とか顧客理解というのは、特別なことをするのではなく、日々の生活の中でやっていくものだと僕は思っています。その中でどんなものが響くのか、毎日少しずつ少しずつ理解していくことだと思います。

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ー大岩編集委員
先日、渋谷の駅にファミリーマートの広告「そろそろ、No.1を入れ替えよう。」という巨大な看板が出現しました。参加者の方から「これはブランドコミュニケーションの一環ですか?」という質問がきています。

ー足立さん
ブランドコミュニケーションかと言われればそうなのですが、それがファミリーマートのブランドなのか「ファミマる。」のブランドなのかは曖昧でいいと思っています。今回、あえて刺激的な広告をいくつか打ったのは、何よりもお客様の心に引っかからなければ意味がないと思ったからです。競合に比べれば広告宣伝費は少ないので、強いコミュニケーションをしなければ誰にも気づかれずに終わってしまいます。そういう意味で、強い広告、強いコミュニケーションは心がけています。

ブランドコミュニケーションとマーケティングコミュニケーションがどう違うのかは、僕にはわからないです。違いはないと思っています。よく言うのですが、スターバックスはまったく広告をせずにあのブランドを作りましたよね。広告をしなくてもブランドを作れてしまうわけです。会社のブランドだけを言う広告は、僕は必要ないと思っていて、ブランドだけ切り離して広告しなくても、いろいろなマーケティングや店頭、スタッフなどの普段のコミュニケーションがすべてブランドコミニケーションになると思います。

ー大岩編集委員
ファミリーマートが現在とっている戦略を見ていると、非常に定番を重視しているように感じますが、定番を大切に育てていくことは経営上重要なことだと思いますか?

ー足立さん
何か新しいことをやるとき、鹿毛さんがおっしゃった「ど真ん中」のような王道をやっていかないと、全体にほぼ影響がないと思います。新製品がいっぱいあるように見えても、売れているものの大半は定番です。かつ、定番が収益性も高いです。定番をいかに強くしていくか、太くしていくかが、どんな業界でも基本ではないかと思います。

レッドオーシャンと言っても、お客様は常に変わり続けています。変わっていくお客様に合わせてやっていくことで、いろいろなチャンスが生まれると思いますし、何か特殊なことをやるのではなく、昔から言われている戦略の3C、自社の強み・特徴は何かという「Company」、競合の強み・弱みは何かという「Competitor」、そしてお客様に響くことは何かという「Customer」、この3つが一致したものが基本的な戦略だと思っています。これができていれば、レッドオーシャン・ブルーオーシャン関係なく勝っていけると思います。

鹿毛さん
売上げを増やすことがビジネスの最終目的だとすれば、売上げを増やすために新しいものをどんどんやろうとしても、その下に「定番」という基礎数字がないとほとんど乗らないと思います。実は定番が、最も過酷な戦いが行われている場ですよね。だからこそ、まずはそこから押さえることが非常に重要だと思います。

ー足立さん
まったく新しいことをやるときは、いろいろな軋轢もありますし大変ですが、やってみなければわからないことです。今回の挑戦的な広告も、初めてだったので社内を通すことは比較的大変ではありましたが、話題になったり数字がうまく上がったりすれば、社内のベースが1つ変わります。1つ1つやっていくことで、新しい打ち手のオプションが増えていくということになると思います。

ー大岩編集委員
鹿毛さんも「小さいサクセスをたくさん作っていくことが大切だ」とおっしゃっていましたよね。

鹿毛さん
僕はほとんど何の実績もなく雪印からエステーに入って、しかも当時はエステーに中途で入った人はほとんどいなかったので、その中で「とりあえず小さな成功を見せれば、次には新しいことをやらせてくれるだろう」と思っていました。だから時間がかかりましたが、少しずつやりながら、だんだん大きな決断をさせてくれる状況にもっていって、その後に初めて「数字だけではないもの」をできるようになったと思います。

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足立光さん
株式会社ファミリーマート CMO
(エグゼクティブ・ディレクター
チーフ・マーケティング・オフィサー)

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P&Gジャパン、シュワルツコフヘンケル社長・会長、ワールド執行役員等・国際本部長などを経て、2015年から日本マクドナルドにて、上級執行役員・マーケティング本部長としてV字回復に貢献。その後、ナイアンティックシニアディレクタープロダクト・マーケティング(APAC)として「ポケモンGO」等のアジア太平洋地域のマーケティングを統括し、20年10月より現職。I-ne社外取締役、スマートニュースおよび生活協同組合コープさっぽろのマーケティング・アドバイザーも兼任。


鹿毛康司さん
かげこうじ事務所代表
マーケター / クリエイティブディレクター

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早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。雪印乳業(現・雪印メグミルク)を経て、2003年にエステー入社。同社執行役を経て、2020年に独立、かげこうじ事務所を設立。グロービス経営大学院教授、エステーコミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンドアドバイザリーボードメンバー / Ad-tech 東京ボードメンバー。


大岩佐和子
日本経済新聞編集委員

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1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。日経MJデスクを経て、2018年4月より現職。


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