デジタル赤字は日本だけの話なのか?
デジタル赤字についてはこの1年で取りざたするメディアやアナリストが非常に急に増えました。問題提起した1人として、こうして世論が大きくなっていくことは嬉しく思います。しかし、その国際比較については統計上の扱いが非常に煩雑で厄介なこともあり、まだ進んでいないように思います。これから必ず注目される論点になるでしょう。今回はその点を深掘りしたいと思います。デジタル赤字の国際比較はまだ、殆どの識者が手を付けていない論点で、今後、取り上げられていくことになると思っています。
「新時代の赤字」とデジタル赤字
財務省に設置された国際収支有識者会合では国際収支構造の大きな変容の代表例としてデジタル赤字の拡大が言及されました。この点、筆者はデジタル赤字にとどまらず、研究開発サービスや経営コンサルティングサービス、そして保険・年金サービスの赤字などが拡がっていることも念頭に「新時代の赤字」として理解すべきと論じてきました。筆者が初回会合で提出した資料にもそう明記させて頂きました:
もっとも「新時代の赤字」として理解すべきとはいえ、デジタル赤字がとりわけ大きく、潜在的な拡大余地を秘めているのは事実です。2023年時点のデジタル関連収支赤字は約▲5.5兆円と過去最大を更新し、同じく過去最大の黒字を更新した旅行収支黒字の約+3.5兆円を優に食い潰しています。観光産業という肉体労働で稼いだ外貨は、今や頭脳労働で生み出されたデジタルサービスへの支払に消えているのが日本の現状です:
デジタル赤字は日本だけなのか?
日本のデジタル赤字が拡大しているという議論を展開する際、頻繁に頂戴する照会の1つに「デジタルサービスは米国の独り勝ちなのだから、日本に限った問題ではないのではないか」といった論点があります。もっともな疑問でしょう。「日本にはGAFAMのような企業は無い」と言っても、それは欧州にもないからです。しかし、話はそう単純ではありません。
結論から言えば、「米国の独り勝ち」は事実ですが、日本の赤字幅は世界的に見ても大きいという回答になります。下図はOECD統計から日米欧を主軸に主要国の比較を試みたものです。EUについてはドイツ、フランスの2大国以外に、通信・コンピューター・情報サービスの黒字が特に大きいオランダやフィンランドも加えました。ちなみに、日本の通信・コンピューター・情報サービス収支を地域別に見た場合、対オランダの赤字が相応に大きな存在であることは知られています。この図も付けておきます:
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